罪歌の乙女

神崎詩乃

国の主

 ウルムシア帝国第21代皇帝ウィンゲーツ・ウルムシアは頭を抱えていた。先程親バカフェラルドと話し合いを終え、国の重臣との会議を始めている。

 その話し合いはとても稚拙なものだった。

「此度の侵攻。我が国としては即時報復すべきと愚考しますが」
「待て待て。報復と言ってもどこの国が攻めてきたかも分からぬのにどこに攻撃する気かね」
「おや?文官殿は侵攻してきた国をご存知ないのですか?」
「恥ずかしながらその通りです。軍部は何か掴んでおられるので?」
「うちの調査員によると此度の侵攻はセルキア聖教国の軍隊らしいですぞ?」
「未だ確定した情報もないまま報復とは少々急ぎ過ぎです。なにか事態収拾を急がねばならない理由でもあるのですかな?」

 一言で言うなら阿呆である。報復だのなんだのと騒ぎ立てる前に今回の戦闘による被害状況や兵の損耗、今後の方針などを話し合う場で『どこの国が攻めてきた』等と話し合う必要はこれっぽっちも無い。

「少し黙れ。」

 何を小娘がといった雰囲気が議場で流れるがどこ吹く風と受け流し、皇帝は口を開く。

「どこの国が攻めてきた等どうでもいい。今回の戦闘による被害状況はどうなってるんだ?」
「はっ、近隣の森が戦闘により荒れ、木材の産出が困難になった他街道の一部が破壊されました。」
「早急に復旧しろ。技術省。鹵獲したドールの解析状況はどうなっている?」
「はっ、敵性ドールを解体した所、間違いなく我が国の性能を上回っています。更に……」
「更に?」
「人体の一部と見られる物が搭載されていまして……目下解析中であります」

 人体の一部と聞き、ざわめく議場。重臣達は口々に不安を口にする。
「黙れと言ってるだろう?防衛省。軍備はどうなっている?」
「はっ、只今ノルデンテ方面に機甲科一個大隊を派兵し、残りは国境付近の監視に回してております。」
「兵の出処は調査中だが、聖教国らしい。一応兵を動かしておけ。」
「はっ。」
「さてと、今回の戦闘は国際条約違反で更に我が国にも相応の被害が出ている。今回の犯人を許す気は無いし確実に根絶やしにする。これは決定事項だ。故に各省庁、各派閥で連携して国力を維持しろ。戦争は戦争屋が終わらせる。内政屋どもは内政しごとをしろ。話は以上だ。」

 その後、皇帝は席を立つとそのまま出口から出ていった。

「フェラルド……お前なんで外から覗いてんだよ……。」
「お疲れ様。何?俺が中に入ってあのぼんくら共ボコせば満足していただけます?」
「あんなぼんくらでも一応は内政屋だからな?お前よりは向いてるぞ?」
「素が出てるぞ。皇帝陛下。」
「うるさい。で?彼女らはいつ頃出せる?」
「2週間は休ませてやれ。それ以降は……危険がなければ……。」
「分かったよ。彼女らは一応特別小隊として別行動させる。その方が彼女らも幾分楽だろう?」
「あぁ。そうだな。」

「陛下。少々お耳に入れたい事が……。」
「うわっ……なんだオルトリンデか。驚かすな。」
「すみません。少し意地悪したくなったので。」
「そうかい。それで?出処が分かったのか?」

 オルトリンデは静かに、迅速に、そして正確にフェラルドの首を絞め意識を奪った。

「えぇ。思った通り聖教国でした。密偵の話では近々宣戦布告があるようです。」
「……。結構な事だな。」

 オルトリンデはどうやら楽しげに喋っていたフェラルドの態度がお気に召さなかったようである。

「さて、ではどうしようか。まぁ、宣戦布告はあちらに譲るが先に会談を開くとしよう。聖教国の頭にアポを取っといてくれ。場所はそうだな。あちらの国に出向くとしようか。」
「陛下、さすがにそれは危険では?」
「なに、平気だろ。戦争する気があるなら他国の皇帝が自国で死ぬのは避けたいだろうし。帰りの道中はんーそうだなフェラルドの許可がいるが彼女らに同行して貰おうか。それなら安心だろ?」
「あぁ、あの子達ですか。一応暗部も何人か派遣します。」
「ははっ過保護だネ」
「御身は重要なのです。ご理解ください。」
「何。大事なのは私の身だろ?それ以外はどうでもいい。」
「……怒りますよ?」
「あはは、冗談だよ冗談。まぁ、取り敢えず奴らよりも前に会談を開くからお膳立てと根回しよろしく。」
「了解です。」

 それだけ伝えるとオルトリンデは来た時と同じように気配を完全に消して根回しへと向かった。

「相変わらず素直じゃない子だなァ。」

 隣に転がるフェラルドの様子を見ながら皇帝は再び頭を抱えるのだった。

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