罪歌の乙女

神崎詩乃

親の心子知らず

 何があった……。普段通り転移の術式を構築して、転移したはずが何故か大規模に炸裂し、無駄に力を使いすぎた。

 いや、ほんとに……何故……。考えても仕方が無い。取り敢えず現状を確認せねば……。

 身体を動かそうにも体はまるで鉛に変化したように動かない。瞼も重く、何かをする気力も起きなかった。

「416姉様。417姉様のご容態は……?」
「安定してるよ。今はね。まぁ峠は超えたから。問題ないよ」
「一体どうして……。」
「あぁ、それは……。」
「俺から説明しよう。」

 姉妹の間に入ったのは技術研究員のフェラルドだった。フェラルドはこの施設の設計者でもあり、私たちのメンテナンスを行い、幼い頃は教師でもあった。

「フェラルド?」

 神出鬼没なフェラルドは教育だったり教官だったり技術屋だったりと色々な顔を持つ。
 噂では417に体術を教えたのもフェラルドらしい。
「いやはや、マジでこんな事が起きるとはね。」
「姉様に何があったのです?」
「一言にいえば暴走だな。今まで制御装置付きで行っていた事を無しでやったんだ。制御に失敗して大量に魔力を消費、そのままぶっ倒れたってことさ。」

 そう、彼女の鉄環は彼女の強すぎる力を制御するためのリミッターという面を持ちながら彼女の身を守る制御装置でもあった。

「まぁ、鬼という性質上あの子はしばらく寝てれば回復するよ。423の方も半身が吹き飛んでたけどあの子は元々吸血鬼だからね。今頃はもう復活してると思うよ。」

 フェラルドはそう言いながら視線を戻した。
「1つ、昔話をしようかとある国に生まれた女の子と1人の男のお話。」
「それって……」

 まぁまぁ、とおどけた調子で彼は昔話を始めた。
「ある日の朝。一人の男は女の子の世話を王様から命じられた。しかし、男は大層困ってしまった。男は小さい頃両親に先立たれ、伴侶もおらず、長い事独り身だったから女の子の世話をしろと言われても困ってしまった。それでも男は恐る恐る王様のところに赴いた。そして、小さな女の子達に出会った。それはそれは可愛らしい子達で少し歩いては転び、泣き、少し大きくなった子がそれをあやしに行く。そんな子達だった。」

『フェラルド?フェラルド・グレイ!至急作戦本部へ出頭しなさい!皇帝命令です。』

「やれやれ?話の途中なのに……。すまないが流石に皇帝命令を無視するとあとが怖いからね。416?420?何かあったら知らせてくれ。オルトリンデもいると思うけど今は戦時下でもある。気を抜かないで。」

「え、えぇ。420、ホールに全員集めて貰えるかな」
「了解です姉様。」

 フェラルドはその様子を見ながら薄ら笑いを浮かべ、作戦本部となっている司令室へ赴いた。
 そこには皇帝陛下が座り、侍女達はフェラルドの顔を見るなり顔を青ざめさせ退室した。フェラルドはその様子を見ながら遠慮なく皇帝の前に座ると口を開く。

「417は!シイナは死にかけた!シルビィも!何故!彼女達が俺らの争いに巻き込まれなきゃならんのだ?」

「……おい、フェラルド、お前彼女らに名前を付けているのか?辞めておけと言ったのに」
「別にいいだろう?あんなに可愛く育ってくれたのにどうして戦争なんか……。」

 皇帝は心底呆れたと言った表情で激昂するフェラルド親バカを宥める。

「……。今回のことは確かに予想外だった。だが、417は聡い子だ。あの子が態々リミッターを破壊したのにも相応の理由があるのだよ。これを見てみろ。」

 そういうと皇帝は端末に417の戦闘記録をも写し出した。
「この男だ。417は空間把握能力が非常に高い。にもかかわらず彼女に気づかれることなくこの男は現れ、彼女を攻撃した。」
「うちの娘に手を上げるとはね。こいつの素性は?とっ捕まえて絞め殺してやりたい。」
「分からん。ただ、何かの映像を見せられた後、417はこいつの武器に自分の枷を当て破壊させている。それだけこいつに脅威を覚えたのさ。」
「なるほど。理解はした。だが、落とし前はどうするんだい?相手はルベリオス聖教国だろ?宣戦布告は済ませたのか?」

 あたり構わず殺気を振りまくフェラルドを宥めつつ皇帝は為政者としての顔で話を進める。

「無論今回の行動は交際協定違反だし立派な戦争行動だ。だが、宰相や貴族院共の反発もうざい。今はそれで頭を悩ませているのだよ。」

「生ぬるい。反対派の連中なんて皆殺せばいいのに。」
「お前は……。戦争したいのかしたくないのかどちらだ?」
「俺はあの子達に危険な目にあって欲しくないだけだ。やるならまず貴族院の連中を弾除けに戦場へ送り込むべきだろ。」

「お前はほんとに……いいか?あの子達は兵器だ。それにあの子達の存在が世間に公表されれば我が国は周辺諸国から袋叩きにされる。あの子達を守るには我が国が頂点に居なければならないのだ。その為の剣としてあの子らを育てた。お前が育てた子らは周辺諸国の有象無象共に負けるような貧弱ものなのか?」

 皇帝はそこで自らの首にかかった細い紐に気づいた。

「そこまでだ。その先はいくら皇帝でも俺が許さない。」

 皇帝の首にフェラルドは紐をかけ、殺気を絶つ。その表情は酷く穏やかで場の空気には合わなかった。
「ふっ。すまない。言い過ぎた。しかし、あの子らは重要な戦力だ。今後の抑止力としてもあの子らにはまだ働いてもらわねばなるまい?」
「クソッ俺に出来る事は?」
「見守ってやれ。そして、あの子らの帰る場所になってやれ。それだけで今はいい。」
「……あぁ、そうだな。」
「安心しろ。此度の一件で取り敢えずルベリオスは潰す。あの子らの力も借りねばなるまい。」
「……何故争うんだ……。」
「そりゃあ目の前に惹き付けるものがあって
手に入れるだけの力があれば、それを欲するのもまた人の営みよ。妖魔であるお前には分からないだろうがな。」
「あぁ、分かりたくもない。あの子達は少し休ませる。いいな?」
「あぁ。もとよりそのつもりだ。」
「ならいい。」

 その後フェラルドと皇帝は幾つか重要な案件を話し合っていた。


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