罪歌の乙女

神崎詩乃

怒りと暴走

  静かな森に響き渡る破砕音。それが急に止まったのは417が飛び立ってから数十分後だった。
『緊急事態です!!417お姉様の反応がロスト!』 
『……安心していいよ。あの子は死んでない。それに、敵のドールの進行止まったでしょ?』
『えぇ……そうですが。』
『残党に注意して始末したら私達は帰還するよ!』
『了解です。』

 417が死ぬようなヘマをすることは無い……。少し危うい子ではあるが信頼している。

 一方、その頃417は初めて味わう怒りを自覚していた。

「この国の人間は……人を部品としか見ていないのか?なぁ、教えてくれよヴェルトルト。」
「き、貴様のような化け物に我が国の技術など分からないだろうがな!」
「あぁ、分かりたくもないな。」
「ぐぁっな、何をする!」
「安心していいよ。私の妹が君の最後を看取ってくれる。私はその子の元に君を送るだけ。」

 動くもののなくなった不気味な静寂の中色々と騒がしい420との通信を再開する。
『お姉様!よくぞご無事で。』
『あぁ、敵ドール事情にに詳しそうな奴を今から送るから処理をよろしく。』

 それだけ伝えるとヴェルトルトを送り出し、私自身も帰り支度を始めた。

「おやおや。ヴェルトルトは間に合わなかったか。」
「!?」
 放たれたナイフが私の防御結界を突破し脇腹の肉を微かに抉る。

「っ痛いなぁ!」
 放たれたナイフの柄を掴み取り、投げ返すとうめき声が聞こえた。

「おいおい……『絶対切断』の咒式を彫り込んだ特注品だぞ?脇腹の肉を微かに抉るレベルとか悲しくなるな。」

 声のした方を見れば肘から先を失った黒服の男が立っていた。

「こっちこそ驚きだよ。私がお前みたいな奴を見逃すだなんて。」

 確かに見ていた。だが、ナイフを放たれるまで一切の気配もなかったし空間に存在すらしなかった。

「そりゃどうも。おっちゃんもあんたみたいな化け物と勝負できるほど腕があるわけじゃないんだ。腕1本で勘弁してもらえねぇか?」
「腕2本なら考えてあげるよ。」

 男の腕の周りの空間を固定し切除する。しかし、腕はそのままだった。ニタニタと薄気味悪く笑っている。
「こっちの腕は勘弁してくれ。代わりにおもしれぇ花火を見せてやるよ。」

 戦闘データを集積していた大型ディスプレイに423の姿が写った。周りには仲間の姿がある。
「おい、まさか!」
「そのまさか。」

 ドンッと重く響く音が聞こえた。恐らくヴェルトルトに爆発物を仕掛けてあったのだろう。

「お前……私の妹たちに……生きては返さないからな?」
「おぉ、怖い怖い。」
 怒りが身体を支配する。しかし、頭では理解しているのだ。彼女らがあの程度で死ぬはずがないと。しかし、全く無傷とは思えない。だからこそ腹が立つのだろう。
 黒ずくめの男はケラケラ笑うとナイフを自在に操り、宙へと放つ。片腕とは思えないほど秀逸な技を見せつけられた。その姿はまるでピエロである。

「ふっ。面白い。私の姉や妹があれしきで死ぬと?実に面白い。ただ、不愉快なのはあの程度で死ぬと見くびられていることかな。」
「何?」
「お前がさっき言ったことでしょう?私達は化け物だ。化け物は化け物に殺されたりしないんだよ。」

 投げられたナイフを右手首に付けられた鉄環にぶつけ落とす。左手首も同様に。そして足も……。そう、鉄環は戦闘中致し方なく破壊された。
 久々の自由な手足を得て私の速度は加速する。
「うわっ」
 瞬間的に男の背後に移動し回し蹴りを放つ。勢いよく放ったせいで上半身と下半身が分かれ、絶たれた上半身がゴム鞠のように弾みながら飛んでいった。
 そして、上半身を急に失った下半身が踊り出す。
「グボッはぁ、はぁ、なんて……力だ。」

 その頭を掴みあげると無造作に壁に叩きつける。すると湿った音と共に黒ずくめの男は動かなくなった。

『こちら417。状況は?』
『あぁ、お姉様!先程ヴェルトルトが爆発。情報を抜いていた423の半身が消失。それと、爆風を受けステルス機が墜落、416お姉様が全員を背にのせ移動中です。』
『423、また、油断したな』
『あう、お姉、ごめんなさい。』
『まぁ、今回は私も油断した。だからお相子。ついでにもう一体持って帰るから解析は任せたよ』
『今度は油断しないよ!』
『そう。期待してるよ。』

 それだけ呟くと通信を再び切断し、皆の元へ帰るため、能力を使った。

『緊急事態発生。416お姉様。前方20メルトル先にて大規模な魔力の流れを検知。敵魔導大隊規模の攻撃かと思われます。』
『いや、420魔力パターンを照合して。恐らくあれは……』

 空に浮かぶ大きな魔法陣。そこから出てきたのは白い髪、整った顔立ち、額から突き出た黒い角、髪の色とは正反対の黒い……夜闇を切り取ったような戦闘服。

 紛れもない417の姿だった。

『姉様!』
「ほんと、無茶しちゃって……。」
 竜眼により違いがわかった416はボロボロの417を見て相当な無茶をしたことに気づく。

『420。至急フェラルドとオルトリンデに連絡を。417が大変だよ。』
『りょ、了解!』

 妹に付けられたあのリミッターは本来別の意味も持っていた。それをあの子に伝えなかったのは私のせいでもある。

 静かに落ちるその体を優しく受け止め、416は音速に迫る勢いで自分たちの過ごしてきた場所を目指した。

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