罪歌の乙女

神崎詩乃

ノルデンテの災厄

 国境付近の衛星都市ノルデンテ。元々はウルムシア帝国に移住しようと集まったもの達が勝手に作り上げた街である。街の外には盆地とそこに生える森林がある。その森林も今は切り拓かれ工作兵が盗聴器や罠を敷きつめていく。

「いいか?今回の目的は威力偵察だ!今後のための布石でもある。我々はあの帝国の優れた技術を接収する為にここに居ると頭に刻め。どんな化け物が相手でも必ずデータを本部に送れ!良いな!」
「イエッサー!」

 その様子を一羽のフクロウが見ていた。何も言わず、ただじぃっと集まっている男達を見つめていた。

『連中はまだ放っておいても大丈夫のようですが……連中のドール中々の武装を整えています。』
『ありがとう420。じゃあそれを踏まえて段取りを確認しよう。417?今回は能力を使ってもらいたい』
『えーやだ。あれ使うと疲れる。』

 416や上層部の連中は知っている私のもうひとつの能力……。『空間を操る力』
とまぁ、伝えてあるのは一部だけだが……。本当のことは416すらも知らない。

『理由は聞かない。やれ』
『わ、分かったよ。』 
 416が黒い笑みを浮かべそう命令すると従う他無い。
 『連中は重武装でそこかしこにトラップが散見される。420敵ドールのハッキングを担当して。データ収集が主みたいだから邪魔をして。』
『了解ですわ』
『417?私たちを敵陣後方に送り込んだ後ランダムに転移させていって。決してデータを取らせてはだめ。』
『あーい』
『422?悪いけど417の護衛について。ハッキングと解析終了後出てもらうから。』
『分かりました。姉上。』
『420私に視覚情報を渡して。どこに転移させるかランダムポイントを設置する。』
『分かりました。ミネルヴァの視界を共有させます。』

 ミネルヴァ?あのフクロウにもう名前を付けたのか?やれやれ…。共有された視覚情報から空間を認識し、捻じ曲げて接続する。そこに触れたものはねじ曲がった空間を移動し、設定された出口から出てくるようになっている。
『こちら417。準備はできた。』
『OK。それじゃあ皆?始めるよ。』
『おう!』

 賽は投げられた。彼らには悪いが先手は私たちがもらう。

 月の光が森に降り注ぎ、監視を強める兵士たちは森の静けさに戦慄する。
「な、なぁ、夜の森ってこんなに静かだったか?」
「……。気を引き締めろ?敵は近いかもしれない。」
「気にしすぎだろう。奴らだって空気じゃねぇ。今の俺たちに認識できないわけないだろう」
「そうだといいがな」
 彼らは不安だった。作戦前に見た化け物どものデータ。あれがもし本当に実在するのなら自分たちなど紙屑の様にやられてしまうはずでそうならないために今こうして貴重なドールを使っているのだから……。

「聞け。敵に動きがあった。全周警戒。接敵し次第データを本部に送信しながら戦え。」
「了解であります。」
「アルファ1。敵陣と思しき地点にぐぁ!!」
「!どうした!データ収集を始めろ!戦争はもう始まった。」

 ドサッと暗闇で音がする。静かにそこに目を向ければアルファ1の隊長を務めていたドールの頭部が落ちていた。

「チャーリー!クソッ早く代わりのドールで出ろ!何があった!」

『すみません。敵に姉上の居場所を悟られた可能性があります。』
『問題ない。敵は排除した。』

 無残に散らばる瓦礫の山と無傷の火器がここで何があったのかを教えてくれている。422には直接の戦闘能力はない。光を操る能力を持つ彼女は夜になれば力が半減するからだ。今は光学迷彩を施してもらい、私の周りの空間を切除、歪めることで自動的に迎撃できるようにしている。

「ぐあっ!」
「くっそどっからきやがった!このバケモノがぁ!」
「落ち着け!なるべく損耗を避けて本部に情報を……ぐあぁあ!。」

 森の中を銃弾と悲鳴が木霊する。ミネルヴァからの情報で戦況は見えているが相変わらず出鱈目な戦闘である。俊足の419が最硬の424を担ぎ走り回り、敵を一瞬でスクラップに変えていたり、地の力を使う421が岩を削って作りだしたゴーレムで暴れていたり……。
 そう、ただ暴れるだけで人間の力をはるかに凌駕する私たちは殲滅してしまうのだ。
『こちら420。敵ドールのハッキング完了。データはすべて改ざんし、本部へ転送。』
『420。敵本部の位置は割れた?』
『ええ。割れています。座標送ります。』
『ありがとう。それじゃ416?もう出てもいいよね?』
『417……。今回はリミッター解除無しね』
『え?そりゃないよ。』
『姉上、こちら422。月光の為時間がかかりましたが照射準備完了しました。』
『うぐぐ……。仕方ない……。左足一つ外していいよ。ただし、生存者を残すこと。情報を引き出す。だから殺さないで。』
『OK隔離しとくよ。』
『姉上。ご武運を。』
『ありがとう。422。森林火災は引き起こさないようにね』
『心得ております。』
『じゃあ行ってきます』

 左足の鉄環を外し、力を溜め一気に開放する。すると大地は陥没し周囲2キロほどに爆風のような風が吹き荒れ、私は飛んだ。
『飛ぶ意味あったの!?』
『上からの景色を見たかっただけだよ。』
『……。君ってやつは…。』

 先ほど送られてきた座標を素早く現状に落とし込み、その地点へ転移する。すると丁度何か隠蔽跡の上に出現し、足元の空間の固定を解除する。

「おっじゃましまーす」
 既にこの建物の空間は通常空間から切除済み。この中でいくら足掻こうと外部に漏れることはない。
 自分の周りの空間を盾とし、上からの強襲。大地を抉りながら地下施設に飛び込むと豆腐に突き立てたフォークの様に貫いていった。

「……。なっ何事だ!」
 ドールから送られてきていた戦闘データを集積していた主席研究員の男は襲撃者の情報を求めた。

「どうも。私の国にふざけたもの送りつけてきたのは君たちかな?」
「なっ何のことだ?」
「しらばっくれるなよ。これに見覚えくらいはあるだろ?」

 先ほどの襲撃の際、拾って隠していたものを亜空間から引っ張り出す。半壊したドールの頭部がゴトリと床に落ち、中から特殊な機械につながれたピンク色の臓器が艶々と自己主張する。
「これはなんだよ?本来ドールっていうのは人間が死なない様に作ったんだろう?なのに何故人間の脳みそ積んでるんだ!」
「しっ知らない。私はそんなこと知らない!」
「ふぅん。まぁいいや。そういう態度なら。おい、ここで一番偉いやつ誰かな?」
 迸る殺気。その場にいた研究員は腰を抜かし、震えながら男の名を口に出す。
「ふむふむ。ヴェルトルトか。探してみよう」
「何を呑気な……。ここは我々の領域だ!死ね化け物!」
 駆けつけてきた兵士と同じタイミングで銃を引き抜き男たちはいっせいに発砲し始めた。
「やれやれ…。とりあえずっと」
 ここにきてようやく私は本当の力を解放する。420とのリンクも切断し、準備は万端である。
「止まれ。」
 この場にいる人間は生かしては置けないなぁと呑気に考えつつとりあえず空間の時間を止めた。
 そう、私の本来の力は空間を操るではない。『空間を支配』するというもの。私が認識している空間を支配下に置き、私の裁量で自由に構成を変える。今ここで空間内の原子を縦横無尽に動かし虐殺することも可能だし、時間を止めてなぶり殺しにしてもいい。
 誰も動かなくなった空間で私は一人考える。なぜこいつらは人間の脳を機械に搭載した?演算装置として破格の性能を持つとはいえ人道兵器と呼ばれた兵器に何故…。射出された弾丸を一つ一つ丁寧に頭の横に設置し、偉そうな研究員の名札を確認する。
「ヴェルトルト・ウンベール…。おまえかよ」
パチンと指を鳴らし、時間の流れを元に戻す。すると兵士や研究員の頭を銃弾が通り過ぎ、湿った音とともに地に伏し動かなくなる。

「なっ何をした?」
「答える義理はない。それよりもちゃんと質問に答えてくれないかな?ヴェルトルトさん?」
「なっ」
「あぁ、面倒くさい。とりあえずこの建物少しずつ見てけばわかるかな?こいつ何されたかわかってないみたいだし。」
 ヴェルトルトの空間を固定すると静かに私は施設内にいる人間の掃討を開始した。どこにいても私の空間認識からは逃げることもできず発砲すればそのまま鉛弾をたたき返していく。厳重な扉はぶち破り、あの脳みその真実が晒される。

「……。なるほど……。クソだな……。許しちゃいけないよ。」
 そこには人間が生きたまま保存されていた。いくつかは隣の部屋で加工され、パーツにされている。どうやらここは兵器工廠も兼ねていたようで幾つかの『パーツ』も保存されていた。その上の階層では兵士どもが妹たちと戦っている。
 そう、あの脳みそはどこからか人間を調達し、その場で加工しその場で組み込み作り上げてきた魔の兵器だった。確かに演算装置としては破格の性能を誇る。さらにランニングコストも素材たる人間がいれば問題ない。
 
 一番の問題はその人間が『倫理的に観点』というもので計画はとん挫していたはずだった。それがまさか生き残り、こうして自分の知るところにある。
 私は別に博愛主義者でもないし快楽殺人者でもない。だが、今回は明らかにひどすぎる。
「あぁ……命令なんてなければ迷わず皆殺しにしてやるのに……。」

 ため息とともに私はその部屋を後にした。

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