罪歌の乙女

神崎詩乃

日常と戦場

 ミリシア大陸の中央部。周囲を高い山々に囲まれている土地で一際目立つのは長さ数百キロの壁。

 守りに入りやすいその地形から数多の国がこの国を支配しようとしたが当代の皇帝が位を継いでからは朝凪の海のように静かになった。巷では圧政の噂もあるが治世に問題は無く、市民生活に影響が出るような派手な暴動は起きていない。

 暴動を起こしている連中を秘密裏に闇へ葬る特殊な奴らがいる。そんな噂は主に反皇帝派の貴族の間でまことしやかに囁かれていた。

 皇帝が許した者以外何人たりとも入ることが出来ないある研究室の地下深く。私たちはそこで生活していた。

 朝……起床時刻を知らせるアラームが鳴り響き、ゴソゴソとみな寝床から出てくる。

「ふぁーあ。おはよう。」
「おはようございます。」

 皆をまとめ、牽引していく立場にある私が個々の顔色を見ていくとその中に1人の顔がないことが分かった。

「あれ?419、417は?」
「え?私知らないよ?まだ寝てるんじゃない?」
「え?……嫌だよ私まだ死にたくない。」

 いつも気丈に振る舞うよう心がける私にしては珍しい。それ程就寝中の417を起こしに行くのは嫌だった。

「んじゃ私がちょちょいと起こしてくるよ。」
「いつもごめんね424。」
「まぁ、417は寝起きが悪いからね。しかも超馬鹿力。」
「あれでリミッター着いてるから驚きだよね」

 しばらくすると424が壁をぶち抜いてすっ飛んできた。やれやれ……50ミリの特殊合金製の扉で核兵器にすら耐える壁だぞ……何でそんなものを障子紙みたいに破るんだ……あの子は……。

「だーかーらー寝てる時に耳元で息吹きかけんな!って言ってるでしょうが!」
「お姉さまが起きないから仕方ないのですよ。私だって自分の能力をこんな所で披露したくないですもの。」
「……あぁ424。君はとてつもなく頑強だったね。道理で」
「お姉さまの一撃に耐えられるのは私か416お姉さまだけです」
「420は……透過だもんね。それだと施設が壊れる。」
「…………。417?既に施設をぶっ壊してるんだからね?分かっているよね?」
「んあ。おはよ416。後で直しておくよ。技術班のフェラルド呼んどいて。」
「その鉄環そろそろ交換しなきゃダメなんじゃない?フェラルドさんとそのへんも話し合ってね。」
「あぁ。そうだね。そうしよう。」

 417番。幻想種の中でも大分希少な『鬼』の血を引く少女だ。その力は下級竜の血を引く私より強い。しかし、その強さゆえ彼女の本当の力を知るものは少ない。

 彼女の本当の力は『空間を自在に操る力』

 彼女がその気になれば国の力も凌駕する。私の見立てが確かなら彼女は奇怪な400番台の中でトップに立つに違いない。

 トップに立つというのは責任を負う事も考えねばいけない。だからこそ彼女は私達と同じランクに合わせ、わざと力を出さずにいる。前回の自爆の時のように緊急時は使ってくれるのだが、それを活かして戦闘はしない。

『……ガガッ416番職務室に来なさい……ピー』

 壊れた壁の隙間にあるスピーカーが最期を迎え私は次の任務の指示を受けに職務室へと向かった。副官である417も一緒に。
「前回とはまるでやり方が違う。」
「まぁね。前回は緊急だったし。」
「そうだったのか?」
「テストっていうものかもしれないよ」
「ふぅん」

 職務室に入るとそこは厚い封鎖壁と分厚い扉。そして液晶パネルが1つ。無造作に置かれている。

『やぁ、こんな姿で失礼するよ。416、417。』

 この国の最高権力者がカップを片手に会釈する。するとどこからか椅子が登場し私達はそれに座る。

『いい子だ。』
「それで?私達にどんな御用でしょうか?」
『近頃国の周りが不穏でね。敵対する国も出てくる始末でさ。そいつ等が前回みたいな蜂起を画策してるらしいんだよね。』
「では前回同様不穏因子の排除でしょうか?」
『いや?あぁ、そうだな。間違っちゃいないが今回は国だ。そう、戦争に君達を投入したい。』
「お言葉ですが、我々はこの国の影の存在。戦争に投入してしまっては……。」
『あぁ、その点は問題ないよ。既に君達強化兵の技術は他国に漏れてしまった。なぁ、スルラング・ベルクリフ準研究員?』

 皇帝がカメラの向きを弄ると猿轡をかまされ、涙と鼻水で顔が大惨事になっている男が映った。

『いやはや。私としても頭が痛いよ。まさか研究員であるこの男がバーで酒に薬を入れられ、あろう事か研究内容をペラペラ喋るなんて誰が予想できただろうね。』

 バンッと皇帝が机を叩くと男はビクリと動き身体を攀じる。しかし、よじれば攀じるほど身体に縄が食いつき、彼の体を蝕んでいく。

「陛下、それで?私達は何をすればいい?」

 417が口を開くと皇帝は笑顔で現在国境付近で展開している敵兵団をまずは見せしめに殺し尽くしてくれ。
と命令した。

 数にして数百人。まずは偵察兵と工作兵らしく着々と陣営を築いている。

「分かりました。今回は何人で出ましょうか」
『彼がうっかり口を滑らせたのは400〜424の小隊情報だ。空いているのは君たちだけ。従ってこれ以上の情報を与えない為、君の小隊だけで頼む。勿論ドールとドローンは使うけどね。』
「相手もドールと考えた方がよろしいでしょうか?」
『あぁ。一部地域に超強力な妨害電波の発生地点があり、そこで人間の姿も確認済みだ。君達もそこを襲撃するといい。』
「……了解しました。」
『あぁ。健闘を祈るよ』

 そういうと後ろの扉が音を立てて開き、私達は自室へと戻って行った。

『416〜424番。出撃です。出なさい。詳細は416と417に聞くように。では、派手に殺ってしまいなさい』

 軍事利用……か。まぁ、私達はその為にデザインされ、その為に造られた。兵器は兵器らしく派手に蹴散らして戦場を紅く彩るしかあるまい。

「さて、それでは皆。ブリーフィングを始めるよ」

 戦争の火蓋は切って落とされた。


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