命を助けてくれた女騎士がただのくっ殺キチだった件

名無し@無名

じゅうくっ殺

 あれから屋敷を出て、私とセリアさん、そしてルルティアさんの三人で少しばかり遠出をする事になった。
 その目的は当然明かされる事無く、〝とりあえず行こうぜ?〟的なノリに近かった。

「おい見ろよあれ」
「すげぇ美人じゃねぇか、前の二人」
「めちゃくちゃスタイルいいぜ、前の二人」

 私達が街中を歩いていると、ヒソヒソどころじゃなく普通に聞こえてくる声量で男の人達が話している。当然、歩いている順番はセリアさんが先頭でルルティアさんが二番目、私は三番目だ。
 なんなの?歩くだけでディスられるってなんの罰ゲームなの?
 私だって美人とまではいかないまでも、そこそこ整っていると自負している。確かに胸はアレだけど、この仄かな膨らみにもある一定の需要はあると信じている。
 因みにだがお母さんはFカップ、妹は十五歳にしてEカップある。多分、私はDNAすら覆す何かに取り憑かれているに違いない。でなければ、こんなカオスな仲間とカオスな旅を強いられるなんておかしいのだから。

 胸のついでに思い出したが、私にある108のトラウマの一つが頭を横切った。
 皆も恐らく、一度は聞いた事があるだろうが母親に〝赤ちゃんは何処から来るの?〟というアレ。私も例に漏れず、確か八歳くらいの時に聞いた事があるのだが、それがトラウマでもあった。

 ◆

「ねぇねぇおかあさん」
「ん?どうしたのアリーシャちゃん」
「あかちゃんはどこからくるの?あと、なんで裸にエプロンなの?」
「裸でエプロンなのはお父さんの趣味よ〜。えっと、赤ちゃんはねぇ……」
「じゃあ、わたしはどうやってママのところにきたの?」
「う〜ん、こうゆうのは適当な答えを教えるのは教育に良くないって聞いたし、ちゃんと話しておこうかしら?」
「うん!おしえておしえて!」
「ええとね、貴女はお母さんとお父さんが初夜でハッスルした時に出来たのよ」
「ーーえ?」
「お父さんったらね、いきなり〝あ、いま性欲すごい〟とか言うの。ムード作りもへったくれもないわよねぇ。それでね、その夜に夢を見たのよ」
「おかあさん、ごめん、何言ってるかぜんぜんーーーー」
「その夢が面白いのよ、なんと〝まな板〟を産む夢を見たの」
「…………」


 ◆


 ーーと、幼い私は実の母からとんでもない受胎告知のカミングアウトをされたのだ。
 この世界にもし神様がいるとするなら、私はガブリエルを絶対に許さない。助走をつけて全体重を乗せてブン殴ってやろうと思う。
 そもそも今思えば、母親が裸エプロンで普通に家事をしていた事が当たり前の家庭環境も充分アレではあるが。


「あの、ところでまな板さん」
「おうコラ喧嘩か?それとも戦争か?」
「あ、すいませんアリーシャさん。少しお尋ねしても良いですか?」
「いいですよ、胸の事以外なら。私今その話題にとても過敏になっているので」
「?ええと、アリーシャさんはナイゼル様をご存知ですか?この王都を納める王家の長子の」
「ナイゼル……あぁ、あの生足を嗅いでくる紳士ですか」
「!?……まさか既に顔見知りなのですか!?お姉様に取り入るだけでなく、王子にまで手をつけるなんて!」

 ルルティアさんは掘削機も顔負けの震動でワナワナしだした。なんだろう、この人は会いたくて震えている某アーティストよりも震えているんじゃないか?

「ルルティアよ、アリーシャは先日私を追いかけてきたナイゼルに絡まれただけなのだ。すまないなアリーシャ、あの時の事は許してくれ」
「許しませんよ、水着で縛って放置とか許しませんけど?」
「そうか、ありがとうアリーシャ」
「いや聞けよ、微塵も許してませんからね!」
「さぁ、着いたぞ」
(ガン無視じゃねぇかよ)

 ミジンコレベルの謝罪をしたセリアさんは、一際目立つ城門の前で足を止めた。
 まぁ王都を歩いていて大体は察していたが、ナイゼルさんが住まう城へと来たのだろう。
 しかし何故だろう、セリアさんはナイゼルさんに付きまとわれて迷惑しているのでは無かったのか?
 そんな疑問も持ちながら、私達はすんなりと門を通してもらい応接室へと案内された。



 ◆


「うわぁ豪華ですねぇー」

 言い方は悪いが、見渡す限り金目の物でいっぱいだった。壁から生える鹿の生首だとか、なんかゴテゴテしたシャンデリアとか、百人乗っても大丈夫そうなソファーとか。
 そして本棚に目をやると、例のセリアさん著の〝くっ殺本〟が沢山並んである。全て同じ本だが、保存用やら布教用なのだろう。あの馬鹿げた値段の本をホイホイ買う辺り、ナイゼルさんのベタ惚れ具合が伺えると言ったところだ。

 しかし、てっきりナイゼルさんが出迎えてくれるのかと思っていたがその予想は外れた。
 ノックされて開かれた扉の向こうには、ナイゼルさんと同じく金髪碧眼だが、少し歳が幼いーー私と同世代くらいの青年が立っていたのだ。

「お待たせしてすいません、セリア嬢」
「久しいな、元気にしていたかアルゼルよ」
「アルゼル?あのセリアさん、この方は?」
「あぁ、アリーシャは初対面だったか。彼はアルゼル、ナイゼルの弟だよ」
「……初めまして、兄様がお世話になってます」
「?」

 おやおや?何やら睨まれている気がするんですけど。それにセリアさんに対しても、なんだか攻撃的な雰囲気を感じる。
 しかし、セリアさんはそんな雰囲気にかまわず、お茶受けとして出されていたエ○ーゼとホワイ○ロリータを頬張っていた。
 なぜ王族のお茶受けがお婆ちゃんの家でよく見るようなラインナップなのかは謎だが、多分この城には熱烈なブ○ボンのファンが居るに違いない。

「それで、私に話とはなんだアルゼルよ」

 その一言に、アルゼルさんはドンと机を叩き、そして端整な顔を険しくして立ち上がった。

「とぼけないで下さい、貴方が兄様を誑かしたのでしょう!今回の件だって貴女の所為に違いない!」
「アルゼル様、お言葉が過ぎます。お姉様が一体何をしたと言うのですか、言い掛かりは止して下さい!」
「言い掛かりじゃあない、兄様は疾走する直前に言っていました!〝これでセリア嬢に認められる!〟ーーと!」
「いやしかし、本当に知らないんだが」
「嘘だッ!」

 アルゼルさんは鉈でも振り回しそうな剣幕で叫ぶ。
 何とも要領を得ないが、兎も角セリアさん絡みで城の中がパニクってるのだけは理解できた。

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