命を助けてくれた女騎士がただのくっ殺キチだった件

名無し@無名

きゅうくっ殺

 ルルティアさんのくっ殺が終わり、そしていよいよ私の番が回ってきた。

 一応だが、この勝負に勝てば剣の鍛錬をしてくれるとの事らしい。それなら多少なりともモチベーションが違ってくる。セリアさんは変な人だけど、剣の腕は間違いないのだから。
 ともあれ、先程とは違うシチュエーションだというのでセリアさんに指定されたページをめくりその内容を読んでみたのだが、これまた何とも香ばしい内容が記されていたのだった。

「えっと……田舎生まれの女騎士で、所持品はネギとしらたきとーーーーネギッ!?それにしらたきッ!?」
「まさかお姉様、アリーシャさんに〝あの〟シチュをぶつける気ですかッ!?まだ早過ぎます!」
「慌てるなルルティアよ、鉄は熱いうちに打てと言うが、それはくっ殺においても例外では無いのだ」
「ですがッ!」
「大丈夫だ、見てみろ。アリーシャのあの真剣な眼差しを」
「あっ、確かに……本を食い入る様に見てます」

 なにやら外野で盛り上がっているけれど、本をガン見しているのは何回読んでも理解できないからである。
 改めて言っておくが、このシチュエーションの女騎士は、剣はおろか鎧も無く、ネギとしらたきと牛肉、それに卵を買って帰る途中という言わば買い物帰りにオークに襲われていると言うものだ。
 買い物内容から推測するに、晩御飯にすき焼きでもしようとしていたのだろう。ともなれば足取りもさぞ軽かったに違いない。しかし、そんな時に運悪くオークに襲われたのだ。
 しかしまぁ、この状況でどう演技すればいいのか私に分かる訳がない。これならまだルルティアさんの方のシチュのが分かりやすかったくらいだ。
 だってこれ、既に女騎士である必要がないもん。

「はい、時間です本を閉じて下さーい」

 無情にも豚吉さんは私から考える時間を奪い去っていく。
 仕方がない、ここは乗りかかった舟だ。例えそれが泥舟だろうと、私は常識人としての死を迎えるまで争ってみせよう。

「さぁ見せてみろアリーシャ!それではーーーーよーい……〝くっ殺〟!」

(こうなりゃヤケクソだ。恥も外聞も捨てて、私はこの女騎士になりきってみせる!)


 私はおかしなテンションになりつつ、一目散に豚吉さんと逆方向に走り出した。

「なッ、まさかアリーシャさん、逃げたのですか!?」
「いや、違う……あれは恐らく〝導入〟だろう」
「ど、導入ってまさか、シチュに入る前のあの〝導入〟ですか!?そんな、確かに……上手くいけばくっ殺に良いアクセントをもたらしますが。しかしあれは諸刃の劔、素人にはリスクが大きすぎます!」
「アリーシャめ、知らずの内に導入を混ぜてくるか……なんて恐ろしい奴だ」




「あっはは☆今日はすき焼きよ!安月給のお父さんが死ぬ気で働いてくれたご褒美に、たまにはいいお肉でも買って帰ろうかしら?ネギとかは買ったけど、とりあえずお肉はーーっと……」

 シュバっ!

「らっしゃい、なんにしやす?」



「まさかッ!?一人二役まで!」
「まるで精肉店の店主がそこに居るかの様な……まさかこれ程とは」



「えっとぉ、じゃあ〜……!?」
(高ッ!?は、え?ちょっと、なんでこんな高いの?ガチめの精肉店のいい肉って、こんな桁が違うものなの!?わからない、私は普段はキ○ラでしか買わないから基準が分からない!)



「こ、心の声が頭に聞こえてくる。まさかアリーシャさん、直接脳内に……!?」
「あいつめ、まさか〝秘技ファミ○キ〟まで操るというのか!?」




(うぅ、しかしここまで来た手前、何も買わずに帰るのは恥ずかしい。仕方ない、そこその肉を買って帰ろう)
「すいません、この肉を400g下さいな」
「まいど!」
「さてと、後は卵だけね!……ん?」
「こ、コケェ……」
「どうしたの野生のニワトリさん!こんなひどい怪我をして!?」
「コケコ……ケェ……」
「えぇッ!?元は人間で別世界で死んで異世界転移してきたらニワトリになってて、転生されて飛ばされてきた先の道路で歩きスマホをしていた人間に蹴飛ばされたですって!?」




「ありえないッ!ここにきて異世界転移してきたニワトリを入れてくると言うのッ!?リアリティのある買い物シーンから、いきなりファンタジー的な要素を入れてくるなんて!」
「…………」ゴクリ



「死んじゃだめだよニワトリさん!きっと貴方は、この世界でニワトリにも関わらずなんか無双して魔王とか倒すテンプレの道を歩む筈よッ!だからお願い、こんな所で死なないでぇッ!」
「コ、コケコォ……」
「え!?これは……黄金の、卵?これを、私に?」
「コケぇ……コーーーー」
「え、ウソやだよ!ニワトリさん?ニワトリさぁぁぁぁぁああああん!!」










「ーーま、いっか卵タダで手に入ったし」


「まさかッ!あの流れからバッサリ切り捨てたというの!?人間の倫理観に一石を投じる、なんて破天荒な荒技を」
「既存の概念を覆す……か」





「おうおう姉ちゃん、美味そうなモン持ってんじゃねぇか!姉ちゃんごと美味しくいただいてやるぜブッヒャヒャヒャヒャ!」
「な、なんなの貴方は!?さては野生の豚肉?お肉なら間に合ってますけど!?」
「けっ、誰が肉だこのアマ。ムカつく女は弄んでから食ってやんよ!」
「きゃあーーーーッ、なに!?た、卵が急に光出してーーーー」
「な、なにぃッ!?」
「卵が……剣に生まれ変わった!?」
「そ、それは伝説の!」
「聖剣《ヨード・ラン》?まさか、この卵が……」
「へ、へへ……いくら聖剣があったからって女騎士が扱える代物じゃあねぇってなぁ!」
「ーー甘い!」
「なっ!?斬撃だけで……空が割れた、だとッ!?」
「これが聖剣の力よ。どうする?まだ戦うつもりかしら?」
「まさかここまでだとは……俺にもオークの誇りがある。くっ、殺せ!」




「あり得ない!まさかオーク側にくっ殺を、させるなんてあり得ないですよ!」
「壁を超えたか、アリーシャよ」





「ーーはい、ここまでですねアリーシャさん」
「……はっ!?私は一体!」
「意識が飛ぶくらい役に入ってたのですよ。私も永らくくっ殺を見てきましたが、貴女の様な斬新なくっ殺は初めてです。荒削りな所を差し引いても『92点』を差し上げましょう」
「え?あ……ありがとうございます!」

 なんかハイになっている内に、何故か高得点が貰えていた。なんだろう、演技の最中、私が私じゃないみたいだった。

「悔しいですけど、貴女の勝ちですアリーシャさん。お姉様の弟子という事実を認めます」
「ありがとうルルティアさん」
「アリーシャよ、素晴らしいくっ殺だったぞ。昨今における既成概念を真っ向から叩き割る、非常に考えさせられるくっ殺だった」
「セリアさん……じゃあようやく私に剣の特訓をしてくれるんですね!」
「いや、その前にまだお前に叩き込む事がある。剣の鍛錬はその後だ」
「は!?それじゃあ詐欺じゃないですか!」
「はは、自ずと剣の腕も付いてくるさ。では参るぞアリーシャよ!」
「お姉様、私もお供しますー!」


 こうして、ルルティアさんというヤバめのオマケ付きで私の騎士道は再開された。
 前途多難、いやそれ以上の茨の道が待ち受けているのは間違いなかった。





 ◆




「探せッ!くそっ、一体どこに消えたんだよ……兄様」

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