命を助けてくれた女騎士がただのくっ殺キチだった件

名無し@無名

ろくくっ殺

 


 ーー〝くっ殺〟を競う決闘。

 文字にしてみると益々意味が解らない。

 しかしながら、私はルルティアさんの宣戦布告を半ば無理やり承諾させられた形となったのだが、もはやそこに私の意見が介在する余地は無かったから仕方がない。


「では豚吉、決闘の内容はお前に一任して構わないか?」

「はい、では一時間以内に場所とシチュエーションを整えますので、それまでお二人は控え室で〝くっ魂〟をしてもらいましょうか」

「!? ……あ、あの! その〝くっ魂〟ってなんですか!?」

「ご存知無いのですか?」


 いや、そんな「え、嘘でしょ?」みたいな顔されても困るんですけど。

 何だろう、初めての職場で右も左も分からない。そんな新入社員の様な感覚に私は気恥ずかしささえ覚えた。言っておくが常識的に考えても異常なのはこの環境なのだ、私は悪くない。

 そして私の問いに困った様な表情を浮かべる豚吉さんだが、そもそも困っているのはコッチである。セリアさんに出会ってから、まるで異世界に飛ばされたみたいな非日常が押し寄せているのだからたまったもんじゃない。

 とりあえず鳩がバズーカでも食らった様な顔をしている私に、セリアさんは説明を始めた。


「アリーシャよ。くっ魂とは質のいい〝くっ殺〟をする為の精神統一の名称なのだ。あらゆる状況を想定して、いかなる状況でも最高の〝くっ殺〟が出せる様にする……簡単に言えば〝くっ殺〟への魂を込める作業と言う訳だな」

「え、ますます分かりませんケド」

「ふん、既に勝負は見えましたね」


 自信満々のルルティアさんに対し、私は未だ混乱の中にいた。

 しかしながら、とりあえず部屋を用意してくれるとの事で、私はその〝くっ魂〟とやらに乗っかって状況を整理しようと考えた。

 ーー学習しろ、そして諦めろ私。

 今まで培ってきたモノは、ここでは何一つとして意味を成さないのだから。





 ◆




 ーーセリア邸客室。


「はぁ〜〜〜〜〜〜ぁああああああんぉおおおおおおおおおおおああああ!!」


 途方も無いため息からのシャウト。そこから、やりようのない虚無感に苛まれる。私は客室の無駄にフッカフカなベッドに埋もれながら、セミダブルの幅を高速でゴロゴロ転がった。


「なんでこんな事になったんだろ……」


 私はただ、王国に使える女騎士を目指していた筈だ。

 その先駆けとしてセリアさんに剣の腕をご教授願いたいだけだったが、何故か訳の分からない〝くっ殺〟というカオスな世界へと足を突っ込んでいるのが現実だった。

 凛とした美しさと強さを兼ね備えた女騎士。

 ーーそれは私の小さな頃からの夢。そして剣の腕と見た目と雰囲気だけなら、それに一番近い存在のセリアさんと出会えた。これは運命であり、そして天から私に課せられた試練なのかも知れない。


「……負けたくない。セリアさんの弟子であり続ければきっと、いつか花開く時が来るかも知れない」


 私は奮起しつつ、時間まで精一杯出来る事をした。






 ◆






「えーでは、これより〝くっ決〟を行います。因みに〝くっ決〟とは、〝くっ殺を競う決闘〟の略です」

(ネーミングなんでもアリじゃねぇかよ。その場のノリで言ってないよねコレ)


 庭の裏に準備された決闘場所。

 どうやってあの短時間で作ったのか知らないが、廃墟の様なプレハブが建てられていた。


「……うわぁ、無駄にスゴい」

「素晴らしいシチュエーションですね。負けませんよアリーシャさん」


 時間を置いて少し落ち着いたのか、ルルティアさんは出会った時と同じトーンの声になっていた。

 自信満々と言った表情で、この人も見た目だけなら立派な女騎士に見えなくもない。喋ると残念、私が最近出会った人全員がコレに該当する。


 しかし、騎士として決闘なら負ける訳にはいかない。田舎のお父さんとお母さんと妹とペットの亀太郎に誓って、私はこの決闘を征すると誓った。

「命を助けてくれた女騎士がただのくっ殺キチだった件」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く