命を助けてくれた女騎士がただのくっ殺キチだった件

名無し@無名

よんくっ殺

 密林の中で出会った金髪碧眼のイケメン王子。
 どうやらこの人はセリアさんの知り合いらしく、そしてまた変な人であった。

 とりあえず縄は解いてもらったのだが、セリアさんは現れる事なく姿をくらませたままである。とりあえず水着のままではいけないとナイゼルさんが上着をかけてくれたのだが、こんなイケメンだけに許された所作でさえ、先ほど見せたヤバみの前では霞んでしまう。
 私はナイゼルさんの三歩くらい後ろを歩きながら、まずは密林を抜ける事にした。

「しかし女の子がここにいては危なかった。この密林はオークが沢山いて危険なんだよ」
「はい、それだから連れてこられたみたいですけど」
「やっぱりセリア嬢の知り合いなんだね?」
「一応……弟子にして貰ったのですが、多分」

 自分で言っておきながら自信は無い。虎の親が子供を崖から落とす様に、セリアさんも私をオークの巣窟へと突き落とした可能性もあるが。

「それより、ナイゼルさんも知り合いなんですか?」
「知り合いなんてものじゃない、僕とセリア嬢は、産まれる前から結ばれる運命だったんだ」
「えっと……あ、はい」

 聞くんじゃなかったと思ったが、時すでに遅かった。

「初めて合ったのは城の舞踏会の時、確か僕とセリア嬢が七歳の頃だったか」



 ◆


 彼女は若干七歳にして、凛と咲く華の様な可憐さと気品を放っていた。
 僕は大勢にいる人の中で輝く彼女に胸を打たれ、そして惹かれた。気がつけば、貴族との顔合わせの名目で出席していた僕は、いつのまにか彼女の元へと駆けつけていた。

「あ、あの!美しいお嬢さん、僕はナイゼルとーー」
「お前、美少女に必要なものは何だと思う?」
「えっ!?」
「美少女が一番輝くのに必要なものだ」
「えっと……き、綺麗なドレス、とか?」
「ーーーー下らん、失せろ」




 ◆


「痺れたね」
「いや、そりゃ痺れますよ。七歳で〝失せろ〟とか言われたら」

 ちょっとしたモノローグの内容が既にアレだったが、どうやらセリアさんはどの時系列でもブレないらしい。
 しかし、若干七歳の時点で拗らせているのなら、どんな家庭で育ったのか不安にもなる。

「えっと、それからどうなったんですか?」
「ん?会う機会は沢山あってね。セリア嬢はルノワール家の令嬢で城でのパーティでは毎回顔を合わせていたんだ。歳を重ねる毎に……その、美しさは……はぁはぁ……」
(……うわぁ)

 よくヨダレを垂らすみたいなシチュがあるけど、それを目の前でやられるとまぁキツイ。なまじ顔が整っているだけに、私は目の前のカオスな絵面に苦笑いさえ引いていった。

「アリーシャ、何をしているのだ!オークはどうした?逃げてしまってはくっ殺が出来ないではないか!」
「あ、セリアさん!」
「なに!?セリア嬢だと!」
「む?誰かと思えばナイゼルではないか。貴様か、私の弟子の修行を邪魔したのは」
「邪魔だなんてとんでもない、僕は君の幸せだけを願って生きているんだ。その証拠にほら、君を想って書き綴ったラヴレターの数々を、さぁ受け取ってくれ!」
「セイクリッドスラッシュ!」
「あぁッ!?」

 服の下から出してきた手紙の束は、ものの秒で塵と化した。

「やはり君の心は……オークにだけ向いているんだね」
「私は『くっ殺特別認定官』としての責務がある。色恋に割く時間など一秒たりとも無い」
「わかった、君の意思は理解したよ。なら、僕は君に相応しい男として生まれ変わってくる」
「あの、人の話を聞いてますか?」
「ではまた会おうセリア嬢!次に会うときは君の心をズッキュンしてみせるよ!あっははははははははは!」

 そう言ってナイゼルさんは足取りも軽く去って行った。しかしアレだ、声に出して〝ズッキュン〟とか言う人が本当にいるんだなと度肝を抜かれたが、なんとかセリアさんとは合流できた。

「酷いじゃないですかセリアさん。私は〝くっ殺〟じゃなくて剣の修行をして欲しいんですけど」
「何故だ、それが何の役に立つ?」
「いやいや、そのままお返ししますけど」
「?」
「……はぁ、まぁいいです。その内剣も教えて下さいね?」
「あぁ成る程!剣の腕を磨いて屈強な自分がオークに屈するシチュを再現する為だな!?素晴らしいぞアリーシャ、私はお前の様な弟子を持って幸せだ!」
「あ〜……えっと、あハイ」

 多分、考えてはいけないのだと思う。
 もうどうにでもなれと、私は流れに身を任せる事に決めた。

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