最果ての闇

黒猫

多事多難

その日冬香は朝から銃の点検をしていた。最近はずっと銃で闘っていたので、そろそろ点検した方がいいと豪に言われたのだ。二丁ある銃のうち少し小さい方の銃を解体していく。
点検の仕方は新に教えて貰った。一つ一つの部品を丁寧に確認し、組み立てていく。最初は点検すら自分一人ではままならなかった冬香だが、もう手慣れているようで部屋に冬香以外の人間はいなかった。
手早く一丁目の銃の点検を終え、二丁目の銃を点検していく。
今日はこれから新の店へと行く予定なのだ。とは言っても豪から何か言われたわけではない。ただ最近新の姿を見ていないので久しぶりに会って話がしたい。そう考えてのことだった。
だが、このことは一切新には伝えていない。連絡先は交換してあるので伝えようと思えば今からでも伝えられるのだが内緒で行って驚かせてみたいと冬香は思っていた。
豪には午後から出掛けると言ってある。特に何を言われることもなかったが刀と銃は持って行けと言われたので身の回りには気をつけろということなのだろう。そんなことを考えながら二丁目の銃の点検を終わらせた。
そのまま腰の鞘へと手を伸ばし抜刀する。そこから手の中で刀を回転させもう一度鞘へと収める。その動きには一切の淀みがなく、かなり手慣れていることを伺わせる。
冬香はスカートの下に銃を一丁とナイフを五本しまうと立ち上がり、部屋を出た。本当なら一人で出歩くことなど冬香にはほとんど経験がなく、若干の不安はあったのだが、もう一度新と手合わせしたいという気持ちのほうが勝っていた。玄関の扉を開き、店への道中を急ぐ。暫く歩くと一度豪と訪れたあの店にたどり着いた。

少し緊張した面持ちで店の扉を開く。
「いらっしゃい。って冬香ちゃん?どうしたの?いきなり」
するとそこには冬香が予想していた通りの反応でこちらを見やる新の姿があった。
「一人で練習していてもつまらないから相手をしてほしいの」
冬香は決して新に会って話がしたかったなどとは言わない。そんなことを言おうものならたちまち調子に乗り出す。新はそういう人間だ。
店には新の他にも男が数人いた。
「なるほど。そういうこと?いいよ。手合わせしてあげる。でも俺のグループの人間が見てる前でいいの?」
新はそう言って男達の方を見る。どうやらその男達はウベルティ・インスペクターの人間だったらしい。だが、誰が見ていようと関係ないと思っている冬香はあっさりと許可を出した。
「別に構わない」
「なら始めよっか。本物の刀でやる?」
新の問に冬香は頷いた。
「うん、そうじゃないと意味がない」
「武器は刀に限定する?それとも他の武器もあり?」
「他の武器もありがいいな」
銃やナイフを使った闘いをしたかった冬香はそう返す。
「了解。始めるよ?」
新がそう言った次の瞬間、空気が凍りついた。

冬香は刀に手をかけ、新は短刀を取り出す。そんな二人から少し離れたところでギャラリーが勝手に盛り上がっている。
「どのくらい持つと思う?」
男達の一人がそう仲間に問いかけると仲間達の反応はそれぞれに分かれた。
「十分」
「五分」
「一分」
冬香はそんなことを言っているギャラリーを横目で流し見、こうつぶやいた。
「甚だ、不愉快」
「あはは…ごめんね。後でよく言って聞かせるから」
新はそう言って苦笑いを浮かべるが、構えた短刀の切っ先は一切ぶれない。冬香は改めてそこに感嘆しつつ己の意識も切り替える。
新が足に力を入れたのが分かった。来る、と感じた次の瞬間、冬香の眼前に短刀が迫る。冬香はバックステップでその一撃を回避し、体を回転させると右袈裟に斬り下ろす。
新は後ろに飛ぶようにして回避するともう一度間合いを詰め、短刀を横薙ぎに斬りはらう。常人には躱せるはずのない一撃だ。それでも冬香の反射神経は驚異的なものだった。ギリギリで横に飛び、間合いを一度取り直すと足に力を込め新の間合いへ飛び込む。
新は片手で短刀を構え、下段から斬り上げてきた冬香の刀を受け止めた。
(重い…!)
前に冬香と闘った時、冬香にここまでの実力はなかった。つまり冬香はこの一ヶ月で新でも捻じ伏せられない程に腕をあげたらしい。だが…まだ甘い。
新は自由になっていた片方の手を背後に回すと大太刀を鞘から引き抜いた。それに気付いた冬香は瞬時に間合いを取ろうとするが、反応が遅れたためわずかに遅い。
新の大太刀が冬香の頬を斬り裂く。出血は少なからずしているようだが致命的な傷ではない。冬香はそう判断すると呼吸を整え、右から回り込むようにして斬りかかる。
新は大太刀でその斬撃を受け止めようとしたが寸前で軌道が変化した。咄嗟の軌道変化に対応できず新の体勢が崩れる。その隙に冬香は上段から新の肩を目掛けて斬り下ろす。
体勢が崩れていたせいで新の反応が遅れた。腕が斬り裂かれ血飛沫が舞う。だが、まだ新は諦めない。隠し持っていた銃を構え、冬香の腱を狙って銃撃を放つ。
冬香はその銃撃を横にずれて回避し、一足飛びで新の間合いへ飛び込む。それからすぐに決着はついた。冬香の刀は新の首筋を新の銃口は冬香の眉間をしっかりと狙っている。暫くの沈黙が過ぎ去ると二人は同じ言葉を紡ぎ出していた。
「参りました」




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