最果ての闇

黒猫

勇往邁進

「はぁ…はぁ…はぁ…」
冬香は武道場の床に座り込み肩で息をしていた。
「もう限界か?まぁ、予想よりは持ったな」
豪は冬香にそう言うと水を差し出す。今、冬香は豪に体術の中でも比較的簡単にできるという組討術を教えてもらっていた。およそ二時間も動き回っていたというのに豪は全く息がきれていない。流石はマフィアグループリーダーというところか。冬香はそんなことを考えながら水を飲み干した。
「体力と筋力は申し分ない。あとは肝心な技量だな。それさえ学べば実戦でも通じるようになる」
「本当?強くなれる?」
「あぁ、このまま練習していけば強くなる。飲み込みは早い方だと思うしな。一ヶ月くらい経ったら銃術も教えてやる」
冬香はようやく息を整えると豪を見上げる。
「豪はやっぱり強いね」
「まぁな。明日行きつけの店に武器の仕入れへ行く。お前も来るか?」
「うん、行きたい」
冬香はそう答え、笑みを見せる。実際、母を超えるため闘うと決めたあの時から武器屋へは一度行ってみたいと思っていたのだ。手持ち金は少ないがナイフくらいならギリギリ買えるだろう。
部屋で豪に剣術は使えるのか聞いてみたところ、剣術や小太刀術、二刀術は教えられるほど上手くないと言っていたので剣術系の武術は独学でどうにかするしかない。
それでも、体術と銃術は教えてくれるのだから豪には感謝しなければならないだろう。自分一人では決して成し得ないことに手を貸してくれているのだから。冬香がそんなことを考えていると豪が口を開いた。
「それなら今日はもう休め。明日は十ニ時に家を出る」
「うん、分かった」
冬香は豪の言葉に従うと、大人しく部屋へ戻った。本当ならもう少し色々と教わりたいところだったのだがこれ以上は体が持たない。そう判断したのだ。
部屋へ戻ると冬香はベッドへと崩れ落ちた。体力はある方だと自負していたのだが流石に二時間も大人に合わせて動き回れば疲れないわけがない。気が付けば冬香は深い眠りについていた。

冬香が目を覚ましたのは朝の五時半だった。早い起床だとは思うが自主練習をしたいと考えた冬香は早めに起きることにしたのだ。今日は武器屋へ行くと豪が言っていたのでどんな武器が見られるのだろうという期待も相まって冬香の頭は冴えていた。
昨日、豪に教えて貰った組討術を一つ一つ丁寧に確認していく。一通り技を復習した後、我流で蹴り技に挑戦してみることにした。
技術的にはまだまだ拙い部分も多かったが、元々体が柔らかかった冬香は足もよく上がり、上段回し蹴りのような技を覚えるのにさほど苦労はせずにすんだ。だがやはり我流は隙が生まれてしまい実戦で使うことは出来なさそうだった。
体術は豪に全て教わった方がいいと判断した冬香は徹底的に体力作りに励んだ。
三十分ほど動いた後、自力でどうにかしなければならない剣術を学ぶことにした。豪から渡されていた携帯端末を操作し、剣術の動画を見ていた時、豪に扉を叩かれる。
「冬香?起きているか?」
「うん、起きてるよ」
そう返すと扉を開けて豪が部屋に入ってきた。手には刀が握られている。
「その刀、どうしたの?」
「昨日壊滅させてきたマフィアグループにあった刀だ。好きに使っていい」
冬香は少しの間、あ然としていた。まさかあれからマフィアグループを壊滅させてきたとは。どれだけ体力があるのだろうか。そんなことを考えていた冬香だったがすぐに別の考えに思い至る。刀を貰えるということは剣術の練習が出来るということだ。少しでも強くなりたい冬香にとっては嬉しい知らせだった。
「私が使っていいの?」
「あぁ、ただし俺は剣術は教えてやれない。それでもいいのか?」
「大丈夫。今、独学中だから」
冬香はそう即答した。それを受けて豪が冬香に刀を差し出す。冬香はその刀を受け取り感触を確かめるように柄へ触れた。この刀で闘うことが出来る。そう思うととても嬉しかった。
「そうか。余談だがその刀の銘は叢雲、というらしい」
「むら…くも…」
冬香は刀の銘を呼び、柄を撫でると笑みを浮かべる。
「そろそろ店に行くが準備は出来ているのか?」
豪にそう聞かれたがあまり物を持っていない冬香に必要なものなど携帯端末と先程渡された刀以外には特に思い当たらなかった。
「うん、大丈夫」
「なら、もう行くぞ」
豪からそう言われ冬香も豪に続いて部屋を出る。刀を持っていく必要があるのか豪に聞かれたが、自分用の武器を手に入れて嬉しかった冬香は持っていくと言って聞かなかった。
豪に案内され車に乗り込んで少しすると早めに起きたせいか急激な睡魔に襲われる。あくびを噛み殺していると豪が「眠いなら寝ていて構わない」と言ってくれた。その善意に甘えて暫しの眠りについた。

「冬香、着いたぞ。起きろ」
豪にそう言われ冬香は眠い目を擦りながら起き上がる。
「ん…豪…着いた?」
「あぁ、着いた。行くぞ」
豪の言葉通り冬香が車から降りると目の前には見たからに怪しそうな店が路地裏の奥に建っていた。
「豪が言ってた店ってここ?」
冬香はそう問いかけるが豪はその問にあぁ、と答えるだけだ。そのまま店へと歩いていき豪がドアを開けると中には大量の武器類と一人の男の姿があった。冬香は反射的に刀へと手を伸ばすが、豪に片手で制される。
「久しぶりだな、鵜宮」
そう豪が挨拶すると鵜宮と呼ばれた男も言葉を返す。
「うん。久しぶりだね、城ノ内。元気そうで何より」
「心にもない事をよく言う」
「相変わらず城ノ内は酷い言い草だね。ところでその女の子誰?」
鵜宮と呼ばれた男はそこで初めて冬香に興味を示した。
「昨日俺が拾った。名前は如月冬香という」
「へぇ、城ノ内が女の子拾うなんて珍しいこともあるね」
「たまたま知り合いの娘だったってだけだ。他意はない」
「そっかー。あ、俺は鵜宮新。よろしくね」
新はそう言うと冬香に右手を差し出す。冬香は一瞬躊躇したが差し出された手を取った。
「それで今日は何の用?」
新が豪へそう問う。
「新しい武器を買いにきた。俺はまだ必要ないが冬香に何か買ってやりたい」
その言葉にまず反応したのは冬香だった。
「どうして私に?」
「銃術も教えてやると言っただろう?だから練習に使う銃を買ってやる」
冬香にとってその気持ちはとても嬉しいものだったが、喜びと同時に罪悪感にも駆られた。ただでさえ、豪には多大な迷惑をかけている。これ以上は申し訳ない。冬香はそう思っていたのだが二人は勝手に話を進め始めた。
「初心者でも扱いやすいものはあるか?」
「それならライフル銃よりは拳銃の方がいいかもね」
「あぁ、リボルバー以外がいい」
「じゃあ、これとかどう?」
そう言って新が豪に手渡したのは拳銃型の銃だった。
「いいかもしれないな。冬香、少し持ってみろ」
豪にそう言われ銃を受け取ると想像以上に重かった。だが、驚くほどよく手に馴染む。
「ん、持ちやすい」
「なら良かった。試しに撃ってみる?」
「え…?撃っていいの?」
「うん、いいよー。じゃ、射撃場行こっか」
新にそう言われ、三人で射撃場へと向かった。



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