勇者の魂を受け継いだ問題児
*早朝の学生寮―1*
―――プルプルプルプル……プルプルプルプル……。
早朝。時刻は5時半。
センリの寮室に備え付けてある内線電話が、突然鳴り出した。
「……んん……。……ん、だよ……うるっせぇなぁ……!」
―――プルプルプルプル……プルプルプルプル……。
「…………」
居留守して電話が切れるまで数十秒間待ってみたのだが、一向に切れる気配がない。
このまま待ち続けてもうるさいだけなので、センリは渋々ベッドから立ちあがり、電話に出た。
「……誰だ」
「あっ、ようやく出た。……俺だよ。俺俺。俺だけどさ~」
「…………」
センリはそれ以上何も言わず、静かに受話器を元の場所に戻した。それで静かになる。
そして再びベッドに戻ろうと踵を返した瞬間、再び電話が鳴り出した。
―――プルプルプルプル……プルプルプルプル……。
「…………」
電話を睨み付ける。
だが、センリは出ない。
―――プルプルプルプル……プルプルプルプル……。
「……はぁ……」
無限に鳴り続ける内線電話。
今すぐ内線電話を破壊したいという衝動を抑える為に、渋々、再び受話器を取った。
「……何の用だ」
「おい!センリ! なんで電話切るんだよ!」
「…………」
いきなり怒鳴られた。
どうやら相手の方も、かなり機嫌が悪いらしい。
ちなみに相手はクロードだ。
センリが再びクロードに問うた。
「……こんな朝っぱらから、一体何の用だ?」
「……あー、もしかして寝てた? 悪ぃ悪ぃ……」
「…………」
少しでも反省しているなら、次からは気を付けて貰いたい。
いや、本当に。
「……で、何だよ?」
「いやぁ、お前と一緒に食堂に行こうかな~、と思ってな……」
「…………。アー、ナルホド、ナルホド……」
つまり俺は、それだけの為に、こんな朝早くに起こされたらしい。
無意識に、受話器を握る手に力が入る。
「……ん?なんだ……? なんか、めっちゃギシギシって音聞こえるけど……?」
「……は?気のせいだろ……」
「…………。そっか。気のせいか……」
「ああ。気のせいだ」
そこでクロードが話を戻す。
「……で、どうする? お前、まだ寝るの?」
「……どうするって……。 つーか、なんで俺なんだよ? ソーマでも誘えばいいだろ?」
「いや、いつもはそうなんだけどさ~、俺が起きた時にはもうあいつ、部屋に居なかったんだよ……。 もしかして、もう一人で食堂に行ったのかも……」
「…………」
そんな事を言われて、昨日の出来事を思い出す。
“もう、二度と僕に話しかけないでね”
どうやら、自分で言った事は守ってくれるらしい。
あいつの言葉通り、金輪際、俺に話しかけて来ないつもりなのかもしれない。
「つーわけでさ……今から俺そっち行くから、一緒に食堂行こうぜ」
「……俺の意見は……?」
どこかの青髪同様、勝手に話を進めるクロードにそう問いかけた。
すると呆れたようにクロードが言ってきた。
「……お前、まだ寝んの? 早く行かねーと、本当に混むぞ?食堂……」
「……あー、もう、わーったよ。行きゃあ良いんだろ、行きゃあ! 誰かさんのお蔭で完全に目が覚めちまったし……」
「んじゃ決まりな! 10分後にそっち行くから準備しとけよ」
「……ああ」
それだけ言って、センリは受話器を置いた。
※
―――朝の食堂にて。
まだ6時前だというのに、食堂には数百人の寮生たちが各々の朝食をとっていた。
その食堂の一角。
フィリシア・サヤ・シャノンの3人も、一つのテーブルに集まって食事をしていた。
彼女たちのテーブルの上には、トーストやハムエッグ、スパゲッティなどの朝食定番料理が並んでいる。
そんな料理が並ぶテーブルの上に突っ伏した青髪少女、シャノンが唸った。
「……うぅ……」
そんな様子を見た銀髪少女、フィリシアが心配そうに声をかける。
「……どうしたんですか?シャノンさん。 朝起きてからずっと元気がないようですが……?」
「……ぅうむ……」
そこで、シャノンの正面に座る赤髪少女、サヤが呆れ顔で言った。
「……はぁ、まったく……遅くまで起きてるからでしょ? だから早く寝なさいってあれほど言ったでしょうが……あんた、本っ当に朝弱いんだから。 ……ほらっ、あんたの大好物のスパゲッティよ」
「……むぅぅ……。………かっぷらーめん?」
「スパゲッティって言ってるでしょ! なに寝ボケてんのよ」
「ふふふっ」
「……というかあんた……夜中どこで何やってたのよ? 売店にちょっと買い物に行ってくる~って言って、結局30分くらい帰って来なかったじゃない」
「……ふぇ……? ああ……だいじょーぶ、だいじょーぶ……」
「……は? 何が大丈夫なのよ?」
「……あたしは、まだまだ元気だよ~?」
「…………。 ダメだこりゃ。全然会話が成立してない……」
「あ、あはは……でもまぁ、今日は "休み" ですし……」
いつものようにフィリシアがフォローをいれるが、サヤが目尻を吊り上げて言った。
「あのねぇ、いくら休みだからってこんな不規則な生活していたら―――」
「あ~~っ!もう、わーかってるってば!!」
サヤの言葉を聞いたシャノンが、心底鬱陶しげにそう言った後、ついに起き上がった。
「……はぁぁぁ…………眠い…………」
こんな事なら早く寝ていれば……なんて後悔、今更しても遅すぎるという事くらい分かってる。
渋々といった感じで、大好物のスパゲッティに箸を伸ばして、目一杯口の中に詰め込むが……正直、全然美味しくない。
「……はぁぁぁ……これじゃあ、折角のスパゲッティが勿体ないよぉ……」
「……シャノンさん……」
俯きながらそう言うシャノンに、何と声をかけてやれば良いのかと悩むフィリシアとは打って変わり、
「自業自得でしょ」
サヤが至極真っ当な正論を言い放つ。
「……もう!サヤさん……その言い方はさすがに―――」
「事実でしょ?」
「……っ……」
サヤの言葉で押し黙るフィリシア。
そんなフィリシアを見据えて、サヤが続ける。
「フィリスはシャノンの事を甘やかし過ぎ……。 いつも言ってるけど、過度な優しさは本当の優しさじゃないわよ」
「…………。……そう、ですね……」
そう言って、フィリシアまでもが俯いてしまう。
それを見たサヤがため息を吐いて、
「あー、もう! 別に私は、こんな空気にしたくて言ったんじゃないわよっ! 今、私が言った事は気にしなくていいから、さっさと食べちゃいましょ!」
「…………」
「…………」
そう言って、目の前にあるトーストに噛り付くサヤ。
そんなサヤの様子を見て、フィリシアとシャノンがクスッと笑みを溢した。
「なんだかんだ言っても、サヤっちはいつも優しいねっ!」
「素直じゃないサヤさん、なんだか可愛いです」
「~~~っ~~~!!」
すると、サヤの頬がみるみると紅潮していく。
そんなサヤが二人を睨み付けて、
「……うう、うるさいわねっ! いいからあんたたちも早く食べちゃいなさいよっ!」
「「 はーいっ! 」」
シャノンがそう言ってから食べたスパゲッティは、とっても美味しかった。
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