勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*暗黙の掟*

「…………リ…………セ、リ…………」


「…………」


「……ちょっと、センリ!!」


「…………んだよ、うるっせぇな……」


 心の中だけでの力説を止め、センリは声を掛けてきたソーマを睨み付けてそう応じた。


「……うるさいじゃないよ。僕たちがわざわざ説明してあげてるのに、君はずっと上の空だし……」


「……別に説明なんかいらねぇよ。もうこの状況は受け入れたから」


「……は?」


 センリのその言葉に、ソーマとクロードが驚いたように目を見開き、顔を見合わせて同時に言った。


「……凄いな……」
「……本当マジかよ……」


「…………」


 二人のこの反応を見る限り、やはりコレはこの世界の常識というわけではないらしい。
 少しだけ安心した。
 やはり、おかしいのは俺ではなく学院側なのだ。
 そんな事を考えて、センリが二人に問う。


「……で?寮長とやらは何処にいる? そいつに言って手続きすりゃ良いんだろ?」


「……ッ……!!」
「……ッ……!!」


「……むぐ――ッ!?」


 しかし、センリの言葉に、いきなり驚いたような表情になるソーマとクロード。
 二人が慌てて、センリの口を塞いでくる。


「……なん、だよ……いきなり……ッ!!?」


 センリは二人の手を振り払おうとするが、その前にソーマが声を潜めて言ってくる。


「……いいかい?センリ……言い忘れてたけど、学生寮ここではいくつかの暗黙の掟ルールがあるんだ」


「……はぁ!?暗黙の掟ルール!?なんだそれ……!? って、んな事より手ェ放せっつの!!」


 いい加減、頭にきたセンリが、今度こそ力ずくで二人を振り払った。


「…………」
「…………」


「……はぁ……はぁ……、……それで?暗黙の掟ルールがどうしたって?」


 ようやく自由の身となったセンリが、呼吸を整えて二人に問いかける。
 その問いに、声を潜めたままの二人が答えた。


「……順を追って説明すると、この馬鹿みたいに広い学生寮を管理しているのは、たった一人の寮長だけなんだ」


「……その寮長と、食堂の調理師や売店の店員以外は学院の生徒しかいない。この意味がわかる?」


「……学院の生徒は何千人もいるんだろ?普通に考えて、一人で全てを管理するなんて不可能だろうが」


「うん。そういう事」


「……だが、この寮では決して問題なんて起きねぇんだ。何千人もいるのに、俺らが知る限り、今まで一人だって門限を破った生徒はいない。この意味はわかるか?」


「知らねぇよ、そんなの……。ただ単に、人数が人数だから、運良くバレてないだけなんじゃないのか?」


 いくら名門校の "優秀" な生徒たちでも、今まで一度も寮のルールを破った生徒がいない、などというのは流石におかしいだろう。
 たまたま今までバレていないというだけで、一人くらいはいるはずだ。
 そう思って言ったセンリの答えが、ソーマによって否定された。


「それは無いよ」


「…………」


「この寮のセキュリティはとてつもなく強力でね……。学院の関係者登録された<ステータスプレート>を所持していないと出入り出来ないんだよ」


「……なるほどな。なら今、寮にいる生徒の名前と人数は、寮長様は把握済みという訳か」


「そういうこと。だから、門限破りはすぐにバレる」


「……なら何故、何も問題が起きていないんだ……?」


 その問いに、ソーマとクロードが同時に答えた。




「「 寮生全員が、寮長の事を恐れているからだよ 」」





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