勇者の魂を受け継いだ問題児
*謎の少女*
「……はぁ、はぁ……ッ! クソが!どんだけ広いんだ、この森は……!!」
あれから一体、どれだけ進んだだろうか。
明るくなり、歩き始めてから4時間以上は経過していた。
その4時間、何も食べず、何も飲まず……太陽が昇ってきた方角(つまり東)に進んでいるのだが、一向に森から出られないでいた。
「……日本に、こんな森があったのかよ……ッ!!」
東京に住む優真にとって、これほど巨大な木が立ち並ぶ森など、ほとんどお目にかかれない。
そして自分が今、その森にいるのだから驚きだ。
―――そして、状況も最悪だった。
場所は不明。
何処に向かっているのかも不明。
なぜこんな場所にいるのかも不明。
おまけに、食べ物も飲み物も無く、体力も尽きかけている。(木の実らしき物が実っていたので、何個か穫ってきたのだが、知識がない為、食べられるのかどうか分からずにいる)
「……最悪、この木の実を食べるしかないのか……」
この見た目からして、あまり食べられそうな物ではなかった。
色は紫色で、形は少し小さいリンゴのようだった。
しかし、食べられる物であろうとなかろうと、一応、この木の実は唯一の非常食。
最悪、本当に食べなければならないのだ。
……非常食を命がけで食べるというのも、可笑しな話ではあるのだが。
そして、そのリンゴ擬きを睨み付け、ポケットに突っ込こむ。
―――そして、最悪なのは『状況』だけではないのだ。
優真の足には血が滲み、先ほどから軽く目眩もする。
なにせ裸足で、歩き慣れない森の中を4時間以上も歩き続けているのだ。
立っていられるのが不思議なくらいの最悪な状態。
しかし、そんな状態でも決して歩みを止めずに、1歩……また1歩と森の中を進んでいた。
「……はぁ、はぁ……ッ!大体、なんで俺がこんな状況に?俺が何をしたって言うんだ!?何もしてないだろ!?普通に夜中までゲームして、昼に目を覚ます……それの何が悪いんだ!!?誰にも迷惑かけてねえだろうが!!」
そんなどうしようもない事を叫びながらも、進む、進む……
ただ直向きに、前へ―――
※
そらから結局、どれくらい歩いただろうか。
相変わらず、辺りには木、木、木―――
本当に、『木』しかなかった。
―――しかし、そんな木だけの道もようやく終わりを告げた。
「……ん?あ、あれは……まさか……ッ!!」
木々の先に微かに見えた景色。
優真は慌てて、その場所へと向かった。
最後の力を振り絞り、草や低木の茂みを掻き分けて突き進んだ先には―――
「……や、やった……ッ!水だ!!」
そこに広がっていたのは、そこそこ大きな湖だった。
人間の命の源。
その湖の水は透明度がかなり高く、湖の底が見えるだけでなく、この湖に生息している小魚の影までもが、はっきりと見えるほどに綺麗だった。
そして、とうに体力の限界を超えていた優真は、視界に広がる湖に思いきり顔面を浸けて、ガブガブと水を飲み始めた。
「……っく、っく、っく………ぷはぁ……っ! ……美味ぇ……。『生き返る』って、こういう状態の事を言うんだな……」
生まれて初めて、水のありがたみを知った。
そして、十分すぎるほど水を飲んだ優真は、暗くなる前にこの森を出るために、再び歩き始めようとした。その時―――
「……ん?誰かいるのか……?」
優真が湖の中心部を目を凝らして、じっと見てみる。
あまり目が良いわけではないが、なぜかその時は、はっきりと見えたのだ。
透き通るような、白く綺麗な肌。きらびやかに輝く金色の髪。
それだけで自分と同じくらいの少女だという事が分かった。
「……え?な、何!??」
こんな湖に一人(正確には二人だが)の少女。
その少女は背中を向けているため、まだこちらには気づいていないようだが……間違いなく服を着ていない。
ここの水温は、別に冷たい訳ではないが、少なくとも温泉というほど熱い訳でもない。
湯浴みするにしては冷たすぎる水に、少女の下半身が浸かっている。
「……ああ、ようやく人に会えたのはいいが……これは、その……そう!不可抗力!不可抗力だ!!俺は悪くない!!……覗きなんて……これっぽっちも…………」
「…………」
「というか俺……なんでこんなにくっきりと見えるんだ……?」
優真が今いる位置から少女のいる所まで、大体、20メートルは離れている。
別に20メートル程度なら多少見えてもおかしくはないのだが、今の優真の目には、すぐ目の前にいるかのように、はっきりとくっきりと見えるのだ。
そんな自分の視力に、軽く引いていると……
「…………ッ!!だ、誰!!?」
湯浴みをしていた少女が突然、こちらを振り向いて、軽く殺気立った声音でそう言ってきた。
優真は透かさず、草木の影に隠れる。
……この反射神経。称賛すればいいのか、軽蔑すればいいのか。
しかし、見事だったと自画自賛する。
「…………」
どうやら、気づかれなかったらしい。……完璧だ。
しかし、少女はこちらの警戒を解かずに、時折チラチラと様子を伺ってくる。
―――間違いなく今出て行ったら殺される。
そう直感した優真は草木に隠れたまま、一切動かず、物音を立てず……
「(別に、覗きたい訳ではない……身動きとれないから、仕方なく……それに、俺には俺の考えが……)」
などと、再び心の中で正当化するも、草木の影からじっと少女の湯浴み姿を見物し続ける奴が何を言ったところで、説得力の欠片も感じなかった。
そして、それから数十分。
ようやく少女は湯浴みを終え、湖から岸へと上がった。何やら服を着ているようだ。
勿論、ここも観察…もとい、潜伏を続ける。
服を着終えた少女が、湖から立ち去ろうと、何処かへと向かって歩き出した。
「(……待ってたぞ……ッ!!)」
優真が小さくガッツポーズする。
そして、探偵気取った優真が、自分の推理を心の中で確認する。
「(……恐らく彼女はこの湖まで、一人で湯浴みに来ていたんだ。何処から?勿論、自分の家からだ。つまり、俺が何を言いたいのかと言うと、湯浴みを終えた彼女は自分の家へと向かうハズ……なら、あの少女の後を着いて行けば……!!)」
―――森から出られる。
仮にあの少女がこの森の何処かにある村に住んでいたとしても、その村の村人にでも聞けば、どちらにしろ森から出られる、という訳だ!
「(……俺、"天才" かよ!)」
などと、口元に笑みを浮かべながら、自画自賛するナルシスト。
しかし端から見れば、『湯浴み中の少女をガッツリ覗き、若気ながらその少女の後をストーキングする』という、ただの "変態" でしかない。
少女が立ち去ったのを確認した後、優真は隠れていた草木から出て、少し離れた位置から、少女のストーキングを開始したのだった。
あれから一体、どれだけ進んだだろうか。
明るくなり、歩き始めてから4時間以上は経過していた。
その4時間、何も食べず、何も飲まず……太陽が昇ってきた方角(つまり東)に進んでいるのだが、一向に森から出られないでいた。
「……日本に、こんな森があったのかよ……ッ!!」
東京に住む優真にとって、これほど巨大な木が立ち並ぶ森など、ほとんどお目にかかれない。
そして自分が今、その森にいるのだから驚きだ。
―――そして、状況も最悪だった。
場所は不明。
何処に向かっているのかも不明。
なぜこんな場所にいるのかも不明。
おまけに、食べ物も飲み物も無く、体力も尽きかけている。(木の実らしき物が実っていたので、何個か穫ってきたのだが、知識がない為、食べられるのかどうか分からずにいる)
「……最悪、この木の実を食べるしかないのか……」
この見た目からして、あまり食べられそうな物ではなかった。
色は紫色で、形は少し小さいリンゴのようだった。
しかし、食べられる物であろうとなかろうと、一応、この木の実は唯一の非常食。
最悪、本当に食べなければならないのだ。
……非常食を命がけで食べるというのも、可笑しな話ではあるのだが。
そして、そのリンゴ擬きを睨み付け、ポケットに突っ込こむ。
―――そして、最悪なのは『状況』だけではないのだ。
優真の足には血が滲み、先ほどから軽く目眩もする。
なにせ裸足で、歩き慣れない森の中を4時間以上も歩き続けているのだ。
立っていられるのが不思議なくらいの最悪な状態。
しかし、そんな状態でも決して歩みを止めずに、1歩……また1歩と森の中を進んでいた。
「……はぁ、はぁ……ッ!大体、なんで俺がこんな状況に?俺が何をしたって言うんだ!?何もしてないだろ!?普通に夜中までゲームして、昼に目を覚ます……それの何が悪いんだ!!?誰にも迷惑かけてねえだろうが!!」
そんなどうしようもない事を叫びながらも、進む、進む……
ただ直向きに、前へ―――
※
そらから結局、どれくらい歩いただろうか。
相変わらず、辺りには木、木、木―――
本当に、『木』しかなかった。
―――しかし、そんな木だけの道もようやく終わりを告げた。
「……ん?あ、あれは……まさか……ッ!!」
木々の先に微かに見えた景色。
優真は慌てて、その場所へと向かった。
最後の力を振り絞り、草や低木の茂みを掻き分けて突き進んだ先には―――
「……や、やった……ッ!水だ!!」
そこに広がっていたのは、そこそこ大きな湖だった。
人間の命の源。
その湖の水は透明度がかなり高く、湖の底が見えるだけでなく、この湖に生息している小魚の影までもが、はっきりと見えるほどに綺麗だった。
そして、とうに体力の限界を超えていた優真は、視界に広がる湖に思いきり顔面を浸けて、ガブガブと水を飲み始めた。
「……っく、っく、っく………ぷはぁ……っ! ……美味ぇ……。『生き返る』って、こういう状態の事を言うんだな……」
生まれて初めて、水のありがたみを知った。
そして、十分すぎるほど水を飲んだ優真は、暗くなる前にこの森を出るために、再び歩き始めようとした。その時―――
「……ん?誰かいるのか……?」
優真が湖の中心部を目を凝らして、じっと見てみる。
あまり目が良いわけではないが、なぜかその時は、はっきりと見えたのだ。
透き通るような、白く綺麗な肌。きらびやかに輝く金色の髪。
それだけで自分と同じくらいの少女だという事が分かった。
「……え?な、何!??」
こんな湖に一人(正確には二人だが)の少女。
その少女は背中を向けているため、まだこちらには気づいていないようだが……間違いなく服を着ていない。
ここの水温は、別に冷たい訳ではないが、少なくとも温泉というほど熱い訳でもない。
湯浴みするにしては冷たすぎる水に、少女の下半身が浸かっている。
「……ああ、ようやく人に会えたのはいいが……これは、その……そう!不可抗力!不可抗力だ!!俺は悪くない!!……覗きなんて……これっぽっちも…………」
「…………」
「というか俺……なんでこんなにくっきりと見えるんだ……?」
優真が今いる位置から少女のいる所まで、大体、20メートルは離れている。
別に20メートル程度なら多少見えてもおかしくはないのだが、今の優真の目には、すぐ目の前にいるかのように、はっきりとくっきりと見えるのだ。
そんな自分の視力に、軽く引いていると……
「…………ッ!!だ、誰!!?」
湯浴みをしていた少女が突然、こちらを振り向いて、軽く殺気立った声音でそう言ってきた。
優真は透かさず、草木の影に隠れる。
……この反射神経。称賛すればいいのか、軽蔑すればいいのか。
しかし、見事だったと自画自賛する。
「…………」
どうやら、気づかれなかったらしい。……完璧だ。
しかし、少女はこちらの警戒を解かずに、時折チラチラと様子を伺ってくる。
―――間違いなく今出て行ったら殺される。
そう直感した優真は草木に隠れたまま、一切動かず、物音を立てず……
「(別に、覗きたい訳ではない……身動きとれないから、仕方なく……それに、俺には俺の考えが……)」
などと、再び心の中で正当化するも、草木の影からじっと少女の湯浴み姿を見物し続ける奴が何を言ったところで、説得力の欠片も感じなかった。
そして、それから数十分。
ようやく少女は湯浴みを終え、湖から岸へと上がった。何やら服を着ているようだ。
勿論、ここも観察…もとい、潜伏を続ける。
服を着終えた少女が、湖から立ち去ろうと、何処かへと向かって歩き出した。
「(……待ってたぞ……ッ!!)」
優真が小さくガッツポーズする。
そして、探偵気取った優真が、自分の推理を心の中で確認する。
「(……恐らく彼女はこの湖まで、一人で湯浴みに来ていたんだ。何処から?勿論、自分の家からだ。つまり、俺が何を言いたいのかと言うと、湯浴みを終えた彼女は自分の家へと向かうハズ……なら、あの少女の後を着いて行けば……!!)」
―――森から出られる。
仮にあの少女がこの森の何処かにある村に住んでいたとしても、その村の村人にでも聞けば、どちらにしろ森から出られる、という訳だ!
「(……俺、"天才" かよ!)」
などと、口元に笑みを浮かべながら、自画自賛するナルシスト。
しかし端から見れば、『湯浴み中の少女をガッツリ覗き、若気ながらその少女の後をストーキングする』という、ただの "変態" でしかない。
少女が立ち去ったのを確認した後、優真は隠れていた草木から出て、少し離れた位置から、少女のストーキングを開始したのだった。
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