人外と友達になる方法
第44話 手を取る勇気 〜認定試験篇〜
舞姫は淡々と話し始めた。
「私ね……もういらないんだって…」
「いらないって、どういう事ですか?」
「そのまんまよ。宮園家に私の居場所はもう無いの……」
「何で、次期当主なんじゃ……」
舞姫は次期当主という言葉を聞いた瞬間、少しだけ寂しそうな表情をした。
「一ヶ月前まではそうだったわ……」
「どうして急に……」
「実は私ね……養子なんだ」
「え……?」
「パパとママはなかなか子供が出来なくて……だから傘下の家で一番妖力の高い子供を自分たちの子供として育てることにしたの」
「でも、それなら尚更何で……あ、もしかして?」
舞姫は竜夜の顔をチラリと見て言った。
「そうよ……ママに赤ちゃんが出来たの。まだ性別はわからないけど、正式に本家の血を引いてる正真正銘の後継者になる子がね……」
「だから舞姫様は当主の継承権がなくなったってことですか……?」
「…………」
返事は無い。
つまりそういう事なのだ。
「笑いたきゃ笑いなさいよ。当主になれない私に価値なんて無いんだから」
「じゃあ、妖術師辞めるんですか?」
「ううん……妖術師は続けるわ……それだけが唯一、私が私でいられる気がするから……」
幼い頃から妖術師のいろはを教え込まれ、妖術に全てを捧げてきた舞姫には、妖術師以外の人生など考えられない。
「それなら うちの隊に入りませんか? まあ、僕が決められる事じゃないですけど……」
竜夜の口から思っても見なかった言葉が飛び出した。
「無理よ……知らないでしょうけど、さっきあんたのことを悪く言っちゃって…あんたのとこの隊長を怒らせちゃったの……合わせる顔がないわ……」
「僕のことをって何か言ったんですか?」
「その……才能が無いとか……切り捨てたほうが良いとか……」
「……じゃあ、僕に謝って下さい」
「ごめん……なさい……」
舞姫は殴られても仕方ないと覚悟しながらもう一度頭を下げる。
「……ぷっ!」
舞姫が顔を上げると、竜夜は口に手を当てて必死に笑いを堪えようとしていた。
「ちょ! 何笑ってるのよ! こっちは真剣に謝ってるんだから!」
それでも竜夜は笑っている。
「す、すみません……舞姫様でもそんな風に悩んだりするんだなって思って。今まで身分的にお話しする機会がありませんでしたけど、舞姫様もやっぱり普通の女の子なんですね」
「当たり前じゃない! 私のことなんだと思ってるのよ!」
竜夜の無礼な発言に舞姫は怒りを感じる。
しかし不快な気はしない。むしろこうやって感情のままに喋るのは久しぶりに感じる。
「怒って……ないの?」
「はい。怒ってませんよ。確かに僕に才能は無いですし……」
竜夜は暗い雰囲気を打ち消すかのようにパチンッと一回手を叩いた。
「それじゃ、悠火さんに謝って仲直りしましょうよ! 宮園家に居場所がないなら、僕たちが舞姫様の居場所になります! 宮園家に舞姫様が必要でなくても、僕たちには必要なんです!」
舞姫の心の中に竜夜の言葉が響く。
思い返せば今までそんな言葉を誰かに言ってもらえたことはなかった。
ずっと聞きたかった言葉がやっと聞けたのだ。
「今更……許してもらえるかしら……」
「悠火さんの面倒見の良さを舐めちゃいけませんよ。あの人困ってる人はもれなく助けないと気が済まないみたいですしね」
竜夜はそう笑いながら舞姫に手を伸ばす。
「行きましょう!」
舞姫は後一歩を踏み出せなかった。
差し伸べられた手が振りほどかれることはないのはわかっている。この手を取るのが正解だというのもわかっている。
それでも、後一歩が踏み出せなかった。
『今日、お前にとって人生を変える出会いがある』
舞姫は父の言葉を思い出した。ようやくわかった。その出会いとは悠火たちのことだったのだ。
舞姫の背中を押したのは、奇しくも父の言葉だった。
「……ええ」
竜夜と舞姫は悠火たちの待つ菊の間へと急いだ。
竜夜が帰ってくるのには思っていたより時間がかかった。
しかし、帰ってきた竜夜の隣に舞姫が立っているのを見て、悠火はその理由がわかった。
「竜夜、説明してくれ」
「えっと……」
「私がするわ」
舞姫が一歩前に出る。
「ごめんなさい……知らなかったじゃ許されないのはわかってるそれでも謝らせて欲しい……ごめんなさい」
「……竜夜に話を聞いたのか?」
「ええ……本当に悪いことをしたわ……」
「竜夜はこれで良いのか?」
「はい。舞姫様の事情もわかりましたし……」
「事情?」
竜夜は舞姫と眼を合わせる。
舞姫は一瞬躊躇ったが小さく頷いて話し始めた。
そして話が終わると舞姫は静かに深呼吸をした。
「虫がいい話なのはわかってる。だけど……私をこの隊に入らせてもらえないかしら……」
悠火は奏鳴、光秀とアイコンタクトで合図する。
「事情はよくわかった……竜夜も許してるみたいだし、舞姫を歓迎するよ。ようこそ伊鳴隊へ!」
悠火が舞姫に手を差し出す。
その手を取るのにもう迷いはなかった。
「よろしく……お願いします……」
手を取った舞姫の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。それは留まるところを知らず、溢れ出した涙が一粒、また一粒と床に落ちて弾ける。
こうして伊鳴隊の五人目、宮園舞姫が加わった。
そして、ようやく悠火達はスタートラインに立ったのだった。
読んでいただきありがとうございます。コングです。
いよいよ五人揃いました! これからはバトルも多くなると思います。でもほのぼの日常回が書きやすいので、そっちも増えると思いますが…
そういえば、今回はツンもデレもなかったなぁ……
次回は頑張らねば。
それではまた次回!
2020/5/12一部改稿
「私ね……もういらないんだって…」
「いらないって、どういう事ですか?」
「そのまんまよ。宮園家に私の居場所はもう無いの……」
「何で、次期当主なんじゃ……」
舞姫は次期当主という言葉を聞いた瞬間、少しだけ寂しそうな表情をした。
「一ヶ月前まではそうだったわ……」
「どうして急に……」
「実は私ね……養子なんだ」
「え……?」
「パパとママはなかなか子供が出来なくて……だから傘下の家で一番妖力の高い子供を自分たちの子供として育てることにしたの」
「でも、それなら尚更何で……あ、もしかして?」
舞姫は竜夜の顔をチラリと見て言った。
「そうよ……ママに赤ちゃんが出来たの。まだ性別はわからないけど、正式に本家の血を引いてる正真正銘の後継者になる子がね……」
「だから舞姫様は当主の継承権がなくなったってことですか……?」
「…………」
返事は無い。
つまりそういう事なのだ。
「笑いたきゃ笑いなさいよ。当主になれない私に価値なんて無いんだから」
「じゃあ、妖術師辞めるんですか?」
「ううん……妖術師は続けるわ……それだけが唯一、私が私でいられる気がするから……」
幼い頃から妖術師のいろはを教え込まれ、妖術に全てを捧げてきた舞姫には、妖術師以外の人生など考えられない。
「それなら うちの隊に入りませんか? まあ、僕が決められる事じゃないですけど……」
竜夜の口から思っても見なかった言葉が飛び出した。
「無理よ……知らないでしょうけど、さっきあんたのことを悪く言っちゃって…あんたのとこの隊長を怒らせちゃったの……合わせる顔がないわ……」
「僕のことをって何か言ったんですか?」
「その……才能が無いとか……切り捨てたほうが良いとか……」
「……じゃあ、僕に謝って下さい」
「ごめん……なさい……」
舞姫は殴られても仕方ないと覚悟しながらもう一度頭を下げる。
「……ぷっ!」
舞姫が顔を上げると、竜夜は口に手を当てて必死に笑いを堪えようとしていた。
「ちょ! 何笑ってるのよ! こっちは真剣に謝ってるんだから!」
それでも竜夜は笑っている。
「す、すみません……舞姫様でもそんな風に悩んだりするんだなって思って。今まで身分的にお話しする機会がありませんでしたけど、舞姫様もやっぱり普通の女の子なんですね」
「当たり前じゃない! 私のことなんだと思ってるのよ!」
竜夜の無礼な発言に舞姫は怒りを感じる。
しかし不快な気はしない。むしろこうやって感情のままに喋るのは久しぶりに感じる。
「怒って……ないの?」
「はい。怒ってませんよ。確かに僕に才能は無いですし……」
竜夜は暗い雰囲気を打ち消すかのようにパチンッと一回手を叩いた。
「それじゃ、悠火さんに謝って仲直りしましょうよ! 宮園家に居場所がないなら、僕たちが舞姫様の居場所になります! 宮園家に舞姫様が必要でなくても、僕たちには必要なんです!」
舞姫の心の中に竜夜の言葉が響く。
思い返せば今までそんな言葉を誰かに言ってもらえたことはなかった。
ずっと聞きたかった言葉がやっと聞けたのだ。
「今更……許してもらえるかしら……」
「悠火さんの面倒見の良さを舐めちゃいけませんよ。あの人困ってる人はもれなく助けないと気が済まないみたいですしね」
竜夜はそう笑いながら舞姫に手を伸ばす。
「行きましょう!」
舞姫は後一歩を踏み出せなかった。
差し伸べられた手が振りほどかれることはないのはわかっている。この手を取るのが正解だというのもわかっている。
それでも、後一歩が踏み出せなかった。
『今日、お前にとって人生を変える出会いがある』
舞姫は父の言葉を思い出した。ようやくわかった。その出会いとは悠火たちのことだったのだ。
舞姫の背中を押したのは、奇しくも父の言葉だった。
「……ええ」
竜夜と舞姫は悠火たちの待つ菊の間へと急いだ。
竜夜が帰ってくるのには思っていたより時間がかかった。
しかし、帰ってきた竜夜の隣に舞姫が立っているのを見て、悠火はその理由がわかった。
「竜夜、説明してくれ」
「えっと……」
「私がするわ」
舞姫が一歩前に出る。
「ごめんなさい……知らなかったじゃ許されないのはわかってるそれでも謝らせて欲しい……ごめんなさい」
「……竜夜に話を聞いたのか?」
「ええ……本当に悪いことをしたわ……」
「竜夜はこれで良いのか?」
「はい。舞姫様の事情もわかりましたし……」
「事情?」
竜夜は舞姫と眼を合わせる。
舞姫は一瞬躊躇ったが小さく頷いて話し始めた。
そして話が終わると舞姫は静かに深呼吸をした。
「虫がいい話なのはわかってる。だけど……私をこの隊に入らせてもらえないかしら……」
悠火は奏鳴、光秀とアイコンタクトで合図する。
「事情はよくわかった……竜夜も許してるみたいだし、舞姫を歓迎するよ。ようこそ伊鳴隊へ!」
悠火が舞姫に手を差し出す。
その手を取るのにもう迷いはなかった。
「よろしく……お願いします……」
手を取った舞姫の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。それは留まるところを知らず、溢れ出した涙が一粒、また一粒と床に落ちて弾ける。
こうして伊鳴隊の五人目、宮園舞姫が加わった。
そして、ようやく悠火達はスタートラインに立ったのだった。
読んでいただきありがとうございます。コングです。
いよいよ五人揃いました! これからはバトルも多くなると思います。でもほのぼの日常回が書きやすいので、そっちも増えると思いますが…
そういえば、今回はツンもデレもなかったなぁ……
次回は頑張らねば。
それではまた次回!
2020/5/12一部改稿
「現代アクション」の人気作品
書籍化作品
-
-
841
-
-
159
-
-
107
-
-
0
-
-
2
-
-
52
-
-
381
-
-
440
-
-
147
コメント