人外と友達になる方法
第18話 妖域にて 〜狐々愛過去篇〜
いつも通りの朝がやって来た。
「おはよう悠火……どしたの?」
悠火に普段通り挨拶をした光秀だったが、思わず悠火の顔を二度見してしまった。
「ん? 光秀か……どうって?」
「何か凄い疲れてない?」
悠火は目の下にクマを作っている。
「昨日夜更かししてな」
「何してたの? まさか勉強じゃないだろうし」
「失礼だな! 俺だって勉強くらいするよ! まあ昨日は勉強はしてないけど」
「結局してないんじゃないか……で? 何してたんだ?」
「ゲーム」
昨日は結局狐々愛に一勝もできず、夜中の三時までゲームをしていた。
「ゲーム? ああ、狐々愛さんとか」
「そ、あいつ強いのなんのって」
「僕もゲームはからっきしだからね」
スポーツ万能、学力も全国模試上位、おまけにイケメンという三拍子揃っている光秀の唯一の弱点、それがゲームだ。
マ◯オカートをやらせると、開始早々逆走し始めるレベルだ。
「そういや、奏鳴は?」
「あいつは今日朝練があるらしいよ」
奏鳴は陸上部だ。
奏鳴はもともと足が速かったため、ほとんど練習無しでも大会で入賞する。
運動だけで言えば光秀よりもスペックは上だ。
「何で? あいついつも行ってないじゃん? 大会近いのか?」
奏鳴は大会にはきちんと参加することを条件に今のような待遇をしてもらっている。
「何でも新しく女子マネが入ったとか」
「不純だな」
「だね」
「誰が不純だ!」
いつの間にいたのか奏鳴が二人の後ろに立っていた。
朝練の時間はまだ終わっていないのだが。
今もグラウンドからは掛け声が聞こえてくる。
「奏、いつの間に」
「ちょうど今来たところだ」
「朝練は?」
「女子マネいないからバックれた」
「「ほら不純」」
悠火と光秀の意見は全く同じだ。
いくら健全な男子高校生でも、自重はした方がいい。
特に奏鳴は。
「あれ? そういえば狐々愛さんは?」
光秀はいつも悠火と共に登校する狐々愛が居ないことに気が付いた。
「あいつは今日は休みだ」
「何かあったの?」
悠火は辺りをキョロキョロと見渡して二人にしか聞こえないような声で話す。
「この間の雷王に話を聞きに行くって言ってた」
「雷王に?」
「そう、何か妖域に行くって」
「妖域? 何だそれ」
「また興味を惹かれる用語が……」
二人とも“妖域”という単語に興味津々だ。
まあ、確かに男心をくすぐる厨二ワードではある。
「それどうやって行くんだ?」
「何か門みたいなのを術式で出してた。昨日の夜」
「……本当に術式は僕の知識も想像も上回るね。驚かされてばっかりだよ」
術式には常識というものは一切通用しないということをここ数日で嫌という程見てきた。
超強力な水鉄砲、突然現れる門、火の玉に自在に動く雷など、当たり前が通用しないことだらけだ。
「いつか行ってみたいものだね」
「確かにな……おっ、そろそろSHRじゃん。それじゃ」
三人はそれぞれの席へと戻る。
SHRも終わり一時限目が始まる。ちなみに狐々愛の欠席理由は風邪だそうだ。
静香と校長の繋がりが本当に謎だが、静香の圧力でなんとかしたそうだ。
草木も生えない荒野、奈落と呼ばれるその場所に佇む建物がある。
その名も“妖封牢”。
ここには数多の妖怪が封印されている。
その全てが悪事を働き封印された者だ。
天命が尽きるまで封印が解かれることはなく、一度封印されたが最期、死ぬまで出ることは叶わない。
「ここから出せぇ!」
「もう人間を殺したりねぇよ!」
「あの妖術師ぶっ殺してやる!」
入ってきた当初は皆このような口を叩く元気がある。
しかし数年、数十年、数百年と過ぎて行くうちに絶望し、いつしか抜け殻のように死んでゆくのだ。
「まったく、喧しいのう」
そんな殺伐とした場所に狐々愛はいた。
「あぁ? 何だテメェ! ぶっ殺すぞ!」
牢屋に入れられるのはせいぜい下級妖怪だ。
上級になると結界をしっかりと張っていないと容易く逃げられてしまう。
そして、中でも特級妖怪はその体に術式が込められた札を何枚も貼られ、幾重にも重なった結界で封印されている。
それ程までに特級とは危険な存在なのだ。
「やれるものならやってみよ……あまり妾を怒らせるでないぞ、三下の分際で」
「こっちが牢屋に入ってるからって、小娘風情が調子に乗るなよ!」
牢屋の中から威勢のいい声が聞こえてくる。
「下級が何人でかかって来ようと結果は同じじゃ」
狐々愛の言葉に遂に限界を迎えた妖怪たちから罵詈雑言を浴びせられる。
「いいだろう、俺の力を見せてやるよ!」
牢屋の中で妖怪が術式を唱える。
「あまり時間をとらせるでない」
しかし、その術式を唱え終わる前に狐々愛の放った攻撃でその妖怪は吹き飛び気絶した。
「これでわかったじゃろ? 妾と貴様らの力の差が。今日は貴様らに用があるのではない、妾は先を急ぐでの」
狐々愛は妖封牢の上階へと向かう。
そこには上級妖怪の封印部屋がある。
「ここか?」
部屋を守る門番に聞く。
「はい。こちらでございます」
門番は恐る恐る言う。
「怖がらんでもよい。妾は悪い妖怪が嫌いなだけじゃ」
狐々愛は部屋の門に手をかけ、ゆっくりと開門する。
薄暗い部屋、そしてその中央に鎖と呪符で封印された雷王がいた。
「それでは話を聞かせてもらおうかの? 雷王……」
「天狐……」
「話してもらおう、四百年前妾が封印された後のことを」
読んでいただきありがとうございます。コングです。
少し前に「年内に後10話」とか言ってましたが無理でした。すみません。
年内にあと1話! あと1話は何とかあげたい!
それではまた次回!
2020/4/18一部改稿
妖怪達の住む世界のことを“妖界”としていましたが、“妖域”に変更いたしました。
「おはよう悠火……どしたの?」
悠火に普段通り挨拶をした光秀だったが、思わず悠火の顔を二度見してしまった。
「ん? 光秀か……どうって?」
「何か凄い疲れてない?」
悠火は目の下にクマを作っている。
「昨日夜更かししてな」
「何してたの? まさか勉強じゃないだろうし」
「失礼だな! 俺だって勉強くらいするよ! まあ昨日は勉強はしてないけど」
「結局してないんじゃないか……で? 何してたんだ?」
「ゲーム」
昨日は結局狐々愛に一勝もできず、夜中の三時までゲームをしていた。
「ゲーム? ああ、狐々愛さんとか」
「そ、あいつ強いのなんのって」
「僕もゲームはからっきしだからね」
スポーツ万能、学力も全国模試上位、おまけにイケメンという三拍子揃っている光秀の唯一の弱点、それがゲームだ。
マ◯オカートをやらせると、開始早々逆走し始めるレベルだ。
「そういや、奏鳴は?」
「あいつは今日朝練があるらしいよ」
奏鳴は陸上部だ。
奏鳴はもともと足が速かったため、ほとんど練習無しでも大会で入賞する。
運動だけで言えば光秀よりもスペックは上だ。
「何で? あいついつも行ってないじゃん? 大会近いのか?」
奏鳴は大会にはきちんと参加することを条件に今のような待遇をしてもらっている。
「何でも新しく女子マネが入ったとか」
「不純だな」
「だね」
「誰が不純だ!」
いつの間にいたのか奏鳴が二人の後ろに立っていた。
朝練の時間はまだ終わっていないのだが。
今もグラウンドからは掛け声が聞こえてくる。
「奏、いつの間に」
「ちょうど今来たところだ」
「朝練は?」
「女子マネいないからバックれた」
「「ほら不純」」
悠火と光秀の意見は全く同じだ。
いくら健全な男子高校生でも、自重はした方がいい。
特に奏鳴は。
「あれ? そういえば狐々愛さんは?」
光秀はいつも悠火と共に登校する狐々愛が居ないことに気が付いた。
「あいつは今日は休みだ」
「何かあったの?」
悠火は辺りをキョロキョロと見渡して二人にしか聞こえないような声で話す。
「この間の雷王に話を聞きに行くって言ってた」
「雷王に?」
「そう、何か妖域に行くって」
「妖域? 何だそれ」
「また興味を惹かれる用語が……」
二人とも“妖域”という単語に興味津々だ。
まあ、確かに男心をくすぐる厨二ワードではある。
「それどうやって行くんだ?」
「何か門みたいなのを術式で出してた。昨日の夜」
「……本当に術式は僕の知識も想像も上回るね。驚かされてばっかりだよ」
術式には常識というものは一切通用しないということをここ数日で嫌という程見てきた。
超強力な水鉄砲、突然現れる門、火の玉に自在に動く雷など、当たり前が通用しないことだらけだ。
「いつか行ってみたいものだね」
「確かにな……おっ、そろそろSHRじゃん。それじゃ」
三人はそれぞれの席へと戻る。
SHRも終わり一時限目が始まる。ちなみに狐々愛の欠席理由は風邪だそうだ。
静香と校長の繋がりが本当に謎だが、静香の圧力でなんとかしたそうだ。
草木も生えない荒野、奈落と呼ばれるその場所に佇む建物がある。
その名も“妖封牢”。
ここには数多の妖怪が封印されている。
その全てが悪事を働き封印された者だ。
天命が尽きるまで封印が解かれることはなく、一度封印されたが最期、死ぬまで出ることは叶わない。
「ここから出せぇ!」
「もう人間を殺したりねぇよ!」
「あの妖術師ぶっ殺してやる!」
入ってきた当初は皆このような口を叩く元気がある。
しかし数年、数十年、数百年と過ぎて行くうちに絶望し、いつしか抜け殻のように死んでゆくのだ。
「まったく、喧しいのう」
そんな殺伐とした場所に狐々愛はいた。
「あぁ? 何だテメェ! ぶっ殺すぞ!」
牢屋に入れられるのはせいぜい下級妖怪だ。
上級になると結界をしっかりと張っていないと容易く逃げられてしまう。
そして、中でも特級妖怪はその体に術式が込められた札を何枚も貼られ、幾重にも重なった結界で封印されている。
それ程までに特級とは危険な存在なのだ。
「やれるものならやってみよ……あまり妾を怒らせるでないぞ、三下の分際で」
「こっちが牢屋に入ってるからって、小娘風情が調子に乗るなよ!」
牢屋の中から威勢のいい声が聞こえてくる。
「下級が何人でかかって来ようと結果は同じじゃ」
狐々愛の言葉に遂に限界を迎えた妖怪たちから罵詈雑言を浴びせられる。
「いいだろう、俺の力を見せてやるよ!」
牢屋の中で妖怪が術式を唱える。
「あまり時間をとらせるでない」
しかし、その術式を唱え終わる前に狐々愛の放った攻撃でその妖怪は吹き飛び気絶した。
「これでわかったじゃろ? 妾と貴様らの力の差が。今日は貴様らに用があるのではない、妾は先を急ぐでの」
狐々愛は妖封牢の上階へと向かう。
そこには上級妖怪の封印部屋がある。
「ここか?」
部屋を守る門番に聞く。
「はい。こちらでございます」
門番は恐る恐る言う。
「怖がらんでもよい。妾は悪い妖怪が嫌いなだけじゃ」
狐々愛は部屋の門に手をかけ、ゆっくりと開門する。
薄暗い部屋、そしてその中央に鎖と呪符で封印された雷王がいた。
「それでは話を聞かせてもらおうかの? 雷王……」
「天狐……」
「話してもらおう、四百年前妾が封印された後のことを」
読んでいただきありがとうございます。コングです。
少し前に「年内に後10話」とか言ってましたが無理でした。すみません。
年内にあと1話! あと1話は何とかあげたい!
それではまた次回!
2020/4/18一部改稿
妖怪達の住む世界のことを“妖界”としていましたが、“妖域”に変更いたしました。
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