カラフルカラーはカオス色

冬野氷景

第一話 イカれたメンバー達 後編

「初めまして、私は二年の群青 雨(れいん)です、よろしくね」


さすがに警戒している俺にれいんさんは自己紹介をする。

「初めまして、俺

「初めまして、私は二年の群青 雨(れいん)です、よろしくね」


ん?




「初めまして、私は二年の


れいんさんは初めからぶっ飛んでいた。


「れいん、自己紹介はもう終わった」
見かねた部長が声をかける。

「あれ?そうなんだ、ところであなたは?」プシャアア

れいんさんから滝のような汗が噴き出した。


「は…初めまして、響 十十って言います…見学者です…」

「そうなんだ、よろしくね響くん」ヌギヌギ

れいんさんは下着姿になった。



何かのバグだろうか?

現実に頭が追いつかない。

「れいん、落ち着くのだ。1+1は?」

「?」ギギギギ

れいんさんは謎の音を発した。

「れいんさんっ!しっかりっ!お茶いれましたっ!飲んで下さい!」

「うん、ありがとね」ゴクゴク

「お茶にアタシの体液も搾っていれておきました!惚れ薬的です!」

「おええ」ゲロロ

当然のように吐き出したものは俺に降り注ぐ

今のは太陽が悪かった






「う…うわぁあぁあぁあぁあぁぁあっ!!」



精神の限界を迎えた俺は靴も履かずに逃げ出した。



---------


「はぁ…はぁっ……はぁ」ゼェゼェ

全速力で走っていたが

途中で足裏が痛くなり立ち止まる。

まだ森を半分も過ぎていなかった。


木に片腕をつき、もう片方の腕は腰を曲げ膝に置き、息を整える。


深呼吸をし、森林から生まれる風と木々のざわめきを聴き、木漏れ日を見る。



少し落ち着いた


そうだ、きっとあれらは幻覚だったのだ。


ジ○リ作品でもよくあることだ


きっと刺激を求めた俺の心に住むト○ロのようなものだ


俺の方にもト○ロが現れてくれたらよかったのに





そうやって心を落ち着けていると


二人の美少女が追いかけてきた



「待たんかぁぁぁあああっ!」


「まっへふらふぁーーひっ!」



夜永さんと太陽だった



なんだ幻覚か



心を落ち着けた俺はもう幻覚に惑わされない


必死に二人を真っ黒○ろすけのイメージにすり変える



しかし、その異常な姿からはどうやってもイメージの変換は不可能だった


スリスリスリスリスリスリスリ

夜永さんは相変わらずサラシにふんどし姿だった

何故か相撲取りがやる摺り足で両手を交互に突きだしながら走る

さながら相撲部屋の稽古風景だ


それなのに異常な速度で近づいてくる





太陽はというと、ザリガニに口をはさまれていた

また食べようとしていたのだろうか

しかし逆襲にあい、口をハサミで鋏まれて涙目になりながら

走っていた

その姿はさながら……さながら……なんだろうな?




冷静に見ていた俺だが距離が近づくと頭が働かなくなった




「はぁっ」ピョン


太陽が突然跳躍し木の枝にナマケモノのようにぶら下がる

細い枝だったため太陽の体重を支えきれず

枝は折れ、太陽は背中から地面に落ちた


「ぎゃっ」ドンッ


ポキッ


一緒に落ちた枝から分かれた更に細い枝が落ちた衝撃で折れ

より俺に近い、太陽の前方にいた夜永さんの方へ飛び


露になっている尻に突き刺さった



「イヨォォォォォォッ」ぽんっ


夜永さんは歌舞伎役者のように

お囃子を自分で口ずさみ


その場に倒れた


見れば太陽も落ちた衝撃で口から泡を吹き気絶していた


ザリガニが泡にまみれている





もう色々とわけがわからなかった




「…ごめん」



木々の間の闇から雪音さんが現れる


何故か第一声は謝罪だった


雪音さんは忘れていた俺の革靴を持ってきてくれていた


しゃがみ、それを俺の前に揃えてくれた



「…あなたには怖い思いをさせた、それは部長の私の責任」

俺は驚く、雪音さんは普通に喋っていた

最早普通に喋っているだけで驚いてしまった



でも、もしかしたら

「いつもこうじゃない…」

雪音さんは続ける

「入学式の日に太陽が入ってくれて…今日も貴方が来てくれて…皆少し舞い上がっていた……私もそう」



やはりそうだったのか


舞い上がり方が異次元だったが


「それまで…ずっと三人だったから…」


なるほど、きっと創設からこれまで色々あったのだろう


うつむきながら話す雪音さんは

今まで以上に消え入りそうだった


目を離すともう二度と会えなくなってしまいそうな



それは少し惜しく感じる



「あの…雪音さ


「だからこれで許してほしい」

雪音さんはしゃがみ

下着を膝まで下ろし

和式便所で用をたす姿でふんばった


「…っ!ふっ……」プッ プス~


雪音さんは空気を尻から漏らしながら何かを待っている


「っ…悟飯が…」

ご飯?

「セルと…かめはめ波で……一騎打ちに…なった時の…悟空の…セリフ……お願い……」プップリッ

「な…なんでですか?」

「お願い……」プスッ

お尻から空気を漏らしながら雪音さんは

涙目になりながら上目遣いで

俺に懇願する


「で、でぇじょうぶだ、地球へのダメージはドラゴンボールで、元に戻る」


ブウッ!!


「今だッ!!」




「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
ブリリリ!!ブスブスッ!!ブリリリリリリっ!!!
ブウウッッッ!!ミチミチっ!!ビョーーーーンっ!!!
ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブリリリリリリリリ
ボハァッ!!ブバッ!!
チーンチーン ぬちゅっ カーン ばうあ~っ!!



「………」


目の前で繰り広げられる悪夢に


俺は限界をむかえ気絶した



---------


サアアァァァァァッ……


「……ん」

静かな……心地よい風が木々を通り抜ける音で目を覚ます

目に飛び込んできたのは森に空いた小さな穴

そこからはたまにどこから飛んできたのか桜の花びらが舞う

晴れ渡る空、どこまでも続く青。



「気がついた?」


その下には深い青、風に舞う深海の青髪。


二つの弾む大きな山の向こうから顔を覗かせたのは


後光差す、穏やかな女神のような優しい顔


「……れいんさん」


俺はれいんさんの膝の上に頭を乗せ横たわっていた。

森の中、ここからだけははっきりと空が見える。

形容するならば

まるでここだけが天国へと通じる光の道


そんな風に見てとれた。


「ごめんね、ビックリしたでしょ?」


れいんさんは穏やかに話す


二つの山を除けば触れ合いそうなくらい近くに


桜の花を纏う女神が顔があった。



「私もね、初めはビックリしたなぁ」


空を見上げ、れいんさんは続ける。


「私ね、物覚えとかそういうの悪くて…勉強もあまりできないんだ」


そんな風には……一見すれば見えない

どちらかというと優等生に見える

ただ、少しだけれいんさんを知ってしまった俺には

そんなフォローの言葉をかけられなかった。



「だからね、毎日つまらなかった。だって何やっても人並みにできなかったから」


俺ははっとする


理由は違えど


俺も同じだから


「毎日荒れてたんだよ、学校にも馴染めなかった」


れいんさんは悲しそうに語る。


後光が差しているせいか


二つの意味で顔に影がさす。



「でもね、雪ちゃんと夜ちゃんに誘われて」


「毎日が楽しくなったんだ」



楽しい…楽しいのか、これは。


「二人はね、リアじゅうを目指すためにこの部を創ったんだって」



リア充……一学年しか違わないのに時代を感じる。


今はウェイ系と言ったり陽キャと言ったりするんじゃなかったか。


まぁ呼び方なんてどうでもいい。

俺はれいんさんの話に聞き入る。


「だからね、リアルをじゆうに生きるんだって」




自由が過ぎるような気がするが。



ん?

リア充…リアじゆう…?


もしかして漢字を勘違いしているのだろうか。



「あの……リア充のじゅうは充実しているのじゅうで自由って事ではないんじゃ……」



「一緒だよ」



れいんさんは言い切る。



「だって充実してる人は皆、自由に生きてるもん」



「自由に生きてない人が毎日充実してるなんて言わないでしょ?」



「だからリア充は自由なんだよ」


微妙に確信を突くような事を

れいんさんは言った。


自由に生きれば充実する…か。




「二人はね、それを教えてくれた」


「だからね、私も出来ない事を気にしないで」


「何も隠さないで自由に生きてみたの」


「そしたらね、毎日楽しいんだ」


「だってそしたら何でも気にせずできるから」


「それからかな、まだ人並みにはできないけど」


「少しずつできる事も増えてきたんだよ」


日が隙間から差しれいんさんの顔から徐々に影が消える。


「それで気付いたんだ、毎日をつまらなくしてたのは」


「私自身だったんだって」








その言葉は



俺に向けられた言葉だった。





俺は、れいんさんの過去の姿だった。



「響くんもね、さっきは少ししか話せなかったけど」


「何か昔の私と同じ感じがしたんだ」




「でもね、ここに来て皆と話して」


「何か色々と…感じる事ができたと思うんだ」



色々どころではなかったが


確かに俺はここに来て


きっとこうなんだろうと思う事はしなかった


皆自由で


想像の斜め上に吹き飛んでいったから




「上手く説明できないけどね、ここはそういう部活なんだよきっと」



「だからね、もし響くんが今ここで何かを感じてくれたなら」


「いつでも来てほしいな、そうしたら嬉しいよ」ふふっ


れいんさんは小さく声を出し笑う






れいんさんは


いや


きっと皆は


普通なんだ



普通に自由を求めて普通に生きたい


皆 ただそれだけだったんだ




「ごめんね、私バカだから上手く説明できないや」あはは





もう俺の心は決まっていた。




何故なら今の俺もきっと


不自由だから



俺も自由になりたいから



「自由部」


「え?」


突然言葉を発した俺にれいんさんは目を見開く。


「自由を求める人の、リア自由を目指す『自由部』なんてどうですか?部活の名前」



俺は下かられいんさんの目を見据え言う。


「当面の活動はそれぞれのやりたい事を皆で探す…顧問も必要ですね。理解ある教師を探しましょう」



「響くん……入ってくれる…の?」




「ええ、是非。入部させてください」




れいんさんは今までの優しい微笑みと違い


辺り一面に光がさすような とびきりの笑顔で


俺に笑いかけた。



「やったぁ、これでやっと正式な部活だね!」

「これからよろしくね響くん!」

「ねえねえまずは何しようか?皆で歓迎会やろっか!」


満天な笑みではしゃぐれいんさん。

落ち着いた、清楚なイメージから一転する。

きっと元来は太陽に負けないくらい

明るい人なのだろう


「俺も…こうなれるのかな」



いや、そうするのは自分自身だ。


きっと大丈夫だろう


だって俺達は自由に生きていくんだから









「あっ」

はしゃいでいたれいんさんが突然うつむく


「……?どうかしましたか?」


相変わらず膝枕をしてもらっているので

うつむいたれいんさんの顔は

唇が触れあいそうな程近づいていた。

青い髪が鼻をくすぐる、とてもいい香りがする。



「来ちゃった」

来ちゃった?


誰がだ?

誰かか側にいるのだろうか


れいんさんの顔が目の前にあるので起き上がる事ができない


「はぁっ……はぁっ」


れいんさんは汗をかき苦しそうにしている。

漏れる吐息からは甘い匂い

苦しそうにしているれいんさんには悪いが

少し鼓動が高鳴る。


端から見れば恋人達の情事にも見えてしまいかねない体勢。



「んっ……はぁっ…」


れいんさんがようやく顔を上げる

そのまま天を仰ぎ

何かを我慢するかのように

苦しそうにしている


その隙に俺は起き上がり

れいんさんを気遣う。


「あの……大丈夫ですか?」


れいんさんは再びうつむき、震えながら言った。


「に…逃げて……」



逃げて?

何から?

とても嫌な予感がしたと共に


遠くから走ってくる姿が三人分。


部長と部員達だった


皆から逃げろということか?


しかし入部の覚悟を決めた今となっては


あの三人はただ自由を求める個性的な人達に思える。

逃げる必要などない。


「今月は早い!もう来おったか!」
夜永さんが焦っている。

「どうしたんですか?!皆さん何を…」
先週入部したばかりの太陽は事態を理解しておらず皆について走っているだけのようだ。





そして部長の雪音が太陽と、俺に説明するかのように


キャラに似合わず声を荒げた



「皆!逃げて!」



「れいんは!」







「生理が始まると狂人になってしまう!!」






顔をあげたれいんさんは



目を限界まで見開き



ニタリと笑いながら






血まみれだった。




顔が。





生理ってそんな感じだったろうか?




声にならない叫びをあげ逃げ出す俺に

15メートルくらい飛び上がった彼女が

血と汗とを撒き散らしながら俺にのしかかった。



そしてスカートをたくしあげた彼女は


「キーマカレースプラッシュ!」


と謎の単語を叫びながら体からでる液体を全て俺にかけ

「れろれろれろれろれろ」

とそれらにまみれた俺を舐めていた


血と汗と尿とおりものまみれになった俺は思う。



これで俺も

自由になれウヒヒ




こうして再び自由へ羽ばたき始めた俺は



やれやれハーレム無双系主人公から




はちゃめちゃが押し寄せてくる系主人公に進化した。




              第一話   完










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