とある魔族の成り上がり
第109話 リン
拘束だけでなく、目隠しと猿轡に加えて大きな袋にスッポリと入れたリンを担ぎ、俺達はピエスの屋敷の一角に移動していた。負傷した兵士達はじきに回復するだろう。ピエスは今回の騒動の詫びとして彼等にいくらかの金銭を与え、何日か休みを取らせる予定のようだ。ま、口止め料ってことだろう。
そうこうしている内にピエスに命令して招かせた人物が屋敷へとやって来た。目つきが悪くピリピリとして雰囲気を漂わせ、一目で堅気じゃないとわかる男だ。男は負傷した兵士達を怪訝そうな顔で眺めていたが、特に何か口にする事なく大人しく案内される。
「よく来てくれた。私がこの館の主、ピエスだ」
「お初にお目にかかります旦那。本日は奴隷契約をお望みとか?」
裏社会の人間なのか、名乗りもしない男にピエスは鼻白む。ま、名乗ったところで偽名だろうし、いちいち気にしてもしょうがない。
「そうだ。反抗的なある女を奴隷に仕立て上げたい。出来るか?」
「可能です。ですが……ちょいとばかり値が張りますよ?」
「かまわん」
そう、支配のスキルが通用しなかったリンに対しての切り札が、この奴隷契約だ。これなら多少反抗的でも命令一つで言う事を聞かせられるし、逃げられる心配もない。いざという時に自決させるのも簡単だ。
袋から顔だけ出された状態のリンは周囲を憎々しげに睨んでいたが、首輪を手にした男を視界に収めた途端激しく暴れ始めた。奴隷契約させられるのがわかったんだろう。だが今更いくら暴れようとも無駄なだけ。ハグリー達に押さえつけられたリンは何事か呻いているが、そんな彼女を無視して準備は淡々と進められた。
「主になるお方は旦那で?」
「いや、私ではない。こちらの方だ」
「……わかりやした。ではこの小皿に血を少々いただけやすか?」
「わかった」
久しぶりだが、奴隷契約自体はリーシュやハグリー達のおかげで何度か経験がある。俺は受け取ったナイフで躊躇う事なく指の先端を切り、滴る血液を男が差し出す小皿に落とした。
「結構です。では少々お待ちを」
そう言うと、男は小皿の血を首輪に垂らす。すると首輪が徐々に発光し始め、男は光り続ける首輪を手にリンへと近寄っていった。
「んー!!」
「ジタバタすんな! いい加減諦めろ!」
最後の力を振り絞って暴れるリンを押さえるのも一苦労だ。どこにこんな力が残されていたのかと言いたいような暴れっぷりにハグリー達も顔をしかめている。そんなリンに馬乗りになった男は暴れる彼女の首を押さえつけ、強引に首輪を装着してしまった。それでも尚抵抗しようとする気配がリンから感じられたため、俺は早速彼女に命令した。
「暴れるな!」
「!?」
俺の命令を無視して動こうとした瞬間、リンの首輪が瞬時に締まり彼女の首を圧迫する。気管を塞がれた彼女は反射的に動きを止め、それと同時に首輪も元の大きさへと戻った。
「どうやら説明の必要は無さそうですね。ではあっしはこの辺で。料金は後日請求させていただきやす」
ペコリと頭を下げて出て行く男。支払いなどはピエスがするだろうから気にする必要はないな。今はリンの事が最優先だ。もう契約も完了したのでリンの拘束はハグリー達によって解かれている。彼女はきつく縛られて痛む体をさすりながら、恨みがましい目で俺を睨み付けていた。
「……よくもこんな事を……。絶対に復讐してやる!」
「……最初にお前が奴隷だと言う事を体にわからせる必要があるな」
俺は無言でリンに近づきその首輪に手を添えた。一瞬払いのけようとしたようだが、直前で動きが止まる。契約の力が働いているんだろう。俺は首輪に手を添えたまま主の特権である絶対命令権と言う名の呪いを付与した。
「命令する。俺に逆らうな。仲間に危害を与える言動を取るな。以上だ」
俺の言葉に反応した首輪が一瞬光を放ち、命令が有効になったのを教えてくれる。これでリンは俺や仲間達に危害を加える事が出来なくなったわけだ。三つある命令権の内一つ残したのは保険のためだ。最悪、仲間の内誰かを切り捨てなければいけない場合や自決を命令する場合、本人の意思に関係なく行動させなければいけない。この先反抗的な態度が解消するとも思えないが、シーリと互角にやり合える剣の腕はそれを無視しても魅力的だ。これからの戦いになくてはならない存在になるだろう。
「よかった。これで君も我々の仲間だなリン。共にケイオス様のために働こうではないか」
「ピエス様……」
笑顔でそう言うピエスの姿に、リンはもう何も言う気がなくなったのだろう。静かに頭を左右に振るだけだった。
リンの逃亡と言う予想外の出来事はあったが、とにかくこれでピエスは仲間に引き入れる事が出来た。後は残り三人の議員を急いで何とかしよう。
そうこうしている内にピエスに命令して招かせた人物が屋敷へとやって来た。目つきが悪くピリピリとして雰囲気を漂わせ、一目で堅気じゃないとわかる男だ。男は負傷した兵士達を怪訝そうな顔で眺めていたが、特に何か口にする事なく大人しく案内される。
「よく来てくれた。私がこの館の主、ピエスだ」
「お初にお目にかかります旦那。本日は奴隷契約をお望みとか?」
裏社会の人間なのか、名乗りもしない男にピエスは鼻白む。ま、名乗ったところで偽名だろうし、いちいち気にしてもしょうがない。
「そうだ。反抗的なある女を奴隷に仕立て上げたい。出来るか?」
「可能です。ですが……ちょいとばかり値が張りますよ?」
「かまわん」
そう、支配のスキルが通用しなかったリンに対しての切り札が、この奴隷契約だ。これなら多少反抗的でも命令一つで言う事を聞かせられるし、逃げられる心配もない。いざという時に自決させるのも簡単だ。
袋から顔だけ出された状態のリンは周囲を憎々しげに睨んでいたが、首輪を手にした男を視界に収めた途端激しく暴れ始めた。奴隷契約させられるのがわかったんだろう。だが今更いくら暴れようとも無駄なだけ。ハグリー達に押さえつけられたリンは何事か呻いているが、そんな彼女を無視して準備は淡々と進められた。
「主になるお方は旦那で?」
「いや、私ではない。こちらの方だ」
「……わかりやした。ではこの小皿に血を少々いただけやすか?」
「わかった」
久しぶりだが、奴隷契約自体はリーシュやハグリー達のおかげで何度か経験がある。俺は受け取ったナイフで躊躇う事なく指の先端を切り、滴る血液を男が差し出す小皿に落とした。
「結構です。では少々お待ちを」
そう言うと、男は小皿の血を首輪に垂らす。すると首輪が徐々に発光し始め、男は光り続ける首輪を手にリンへと近寄っていった。
「んー!!」
「ジタバタすんな! いい加減諦めろ!」
最後の力を振り絞って暴れるリンを押さえるのも一苦労だ。どこにこんな力が残されていたのかと言いたいような暴れっぷりにハグリー達も顔をしかめている。そんなリンに馬乗りになった男は暴れる彼女の首を押さえつけ、強引に首輪を装着してしまった。それでも尚抵抗しようとする気配がリンから感じられたため、俺は早速彼女に命令した。
「暴れるな!」
「!?」
俺の命令を無視して動こうとした瞬間、リンの首輪が瞬時に締まり彼女の首を圧迫する。気管を塞がれた彼女は反射的に動きを止め、それと同時に首輪も元の大きさへと戻った。
「どうやら説明の必要は無さそうですね。ではあっしはこの辺で。料金は後日請求させていただきやす」
ペコリと頭を下げて出て行く男。支払いなどはピエスがするだろうから気にする必要はないな。今はリンの事が最優先だ。もう契約も完了したのでリンの拘束はハグリー達によって解かれている。彼女はきつく縛られて痛む体をさすりながら、恨みがましい目で俺を睨み付けていた。
「……よくもこんな事を……。絶対に復讐してやる!」
「……最初にお前が奴隷だと言う事を体にわからせる必要があるな」
俺は無言でリンに近づきその首輪に手を添えた。一瞬払いのけようとしたようだが、直前で動きが止まる。契約の力が働いているんだろう。俺は首輪に手を添えたまま主の特権である絶対命令権と言う名の呪いを付与した。
「命令する。俺に逆らうな。仲間に危害を与える言動を取るな。以上だ」
俺の言葉に反応した首輪が一瞬光を放ち、命令が有効になったのを教えてくれる。これでリンは俺や仲間達に危害を加える事が出来なくなったわけだ。三つある命令権の内一つ残したのは保険のためだ。最悪、仲間の内誰かを切り捨てなければいけない場合や自決を命令する場合、本人の意思に関係なく行動させなければいけない。この先反抗的な態度が解消するとも思えないが、シーリと互角にやり合える剣の腕はそれを無視しても魅力的だ。これからの戦いになくてはならない存在になるだろう。
「よかった。これで君も我々の仲間だなリン。共にケイオス様のために働こうではないか」
「ピエス様……」
笑顔でそう言うピエスの姿に、リンはもう何も言う気がなくなったのだろう。静かに頭を左右に振るだけだった。
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