とある魔族の成り上がり
第76話 別のスキル
エルフ達の頭目と思われる男の後に続くのは、俺、シーリ、ラウの三人だ。リーシュ達は武装こそ解除されてはいないものの、エルフ特製の木でできた牢屋に入れられてしまった。造りとしては脆いので力ずくで突破できそうだが、牢屋というからには何か仕掛けがあってもおかしくない。くれぐれも軽挙妄動は控えて大人しく待てと言い残し、俺達三人はエルフとの交渉を始めることになった。大木の中身をくり抜いた簡単な作りの部屋に案内され、木製の椅子を指さされる。座れと言いたいらしい。
「弁明があるなら聞いてやろう。なぜ我らが領域に断りもなく侵入したんだ? この森は王国より自治権を認められたエルフの聖域なのだぞ」
席につくなり、代表者らしきさっきのエルフが開口一番こちらを批判してきた。さっきからずっと高圧的な態度で腹が立つが、激昂しても得になる事は一つもないのでぐっと我慢する。
「それは謝ります。ただ言っておきたいのは、我々はここがそんな土地だと知らなかったと言うことです。我々はただ水や食料が欲しくて森に入っただけであって、何もあなた方と敵対したくてここに来たんじゃないんです」
平身低頭。ただ謝罪する俺の言葉に男は厳しい目を向けるだけだ。頭から否定するつもりもないが、無条件で信じる気もないと言った感じだろうか。男の視線は俺の上を滑り、隣で着席しているラウに向けられる。
「この者の言っていることは本当か? 見たところ君は自分の意志を奪われ、その身を不当に扱われているようだが……さっきの言葉もこの者等に無理やり言わされたのではないのか?」
ゴクリ――と、唾を飲み込むのを抑えられなかった。今ラウが自分を助けてくれと訴えたら、エルフ達は俺達を即座に敵と認定し襲い掛かってくるに違いない。この場にシーリがいるおかげで俺はなんとか生き残れる可能性があるものの、牢に囚われているイクス達が無事に済むとは到底思えない。黙って隙を窺うシーリの身が固くなったのを知ってか知らずか、この事態を打開できる唯一の人物であるラウは、ニコリともしない真剣な表情で男の目を見返す。
「無理やりじゃないわ。確かに出会いこそ奴隷という最悪な形だったけど、一緒に困難を乗り越えている内にそこまで嫌じゃなくなってきたの。ケイオスが言ったように、私達に敵対の意思はない。少しの食べ物を分けてもらえればすぐに森から出ていきます」
今までのラウからは考えられないようなその言動に、俺は意外さを隠せなかった。俺に敵意むき出しだった彼女なら、確実に裏切ってエルフ達に助けを求めると思ったからだ。いったい彼女の中でどんな心境の変化があったんだろうか。
「ふむ……そこまで言うなら信用しよう。お前達の望みどおり、食料を与えてこの地を去る事をゆるそう」
その言葉にホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、男は耳を疑うような言葉を続けながら俺を指差した。
「ただし、それには条件がある。見たところお前はスキル持ちだ。お前のスキルを我が部族に捧げるなら、このまま見逃してやってもいい」
「スキルを……捧げる?」
男の言葉の意味がわからず、思わず問い返す。俺は吸収のスキルのお陰で他人のスキルを奪い取ることが出来るが、自分の持つスキルを他者に譲り渡す事など出来ない。ひょっとしてこの森に住むエルフ達には、俺と同じように吸収のスキルを持っているのだろうか?
「我ら部族には、スキルを奪って他者に与える能力を持った者がいるのだ。その者にお前の持つスキルを捧げるなら、お前達を開放しようじゃないか」
やはり俺と同じような能力を持つ者がいたのか。しかもスキルを奪うだけでなく、他者に与えることが出来るとなると、俺より優れた能力と見て間違いない。しかし困った。現在俺には『吸収』『氷の矢』『支配』の3つのスキルがあるが、もし支配か吸収を奪われると今後開拓どころではなくなってしまう。吸収がないと俺は一生女のままだし、支配が奪われたら凶悪な強さを持ったシーリや、大森林で開拓中のシオンら魔族を敵に回すことになってしまう。そうなると独立どころではなくなるので、なんとしても避けたい事態だった。
「それはつまり……無能力者になれって事ですか?」
「端的に言えばそうなる。どうする? 大人しくスキルを差し出すか、それとも牢屋で何年も過ごすことを選ぶか。選択権はお前にある」
「…………」
シーリの実力を持ってすれば、この場にいるエルフ達を皆殺しにするのは訳もない事だと思う。しかし、こっちが暴れている間、連中が無抵抗でいるはずがない。牢で身動きできないイクス達は確実に殺されるし、そうなったら火薬の増産など夢のまた夢。それを考えるとエルフ達の条件を飲むしかなかった。
「……わかりました。スキルを捧げます」
「ケイオス様!? よろしいのですか?」
「構わない。みんなの命には代えられない」
驚くシーリをなだめつつ、俺は全く逆の事を考えていた。相手がどんなスキルなのかは知らないが、直接接触するなら俺にも相手のスキルを奪う隙は必ず生まれる。仮に俺にも任意のスキルを他者に与える力が備われば、俺達の勢力全員をスキル持ちにさせる事だって可能なのだ。一か八かの危険な賭けだが、今より遥かに強力な力が手に入る可能性があるなら、試してみる価値はある。
「いいだろう。では早速儀式を行おうではないか。お前だけ付いて来るがいい」
そう言うと、男は返事も待たずに立ち上がり、さっさと外に出てしまった。後に続くために立ち上がった俺を一瞬シーリが止めようとしたが、それは他のエルフに制される。
「心配いらない。すぐに済む」
シーリなら一人で放っておいても大丈夫だろうし、同族であるラウには危害を加えたりはしないはず。前を歩くエルフの背を睨みながら、俺はいつでもスキルを発動できるよう、意識を集中し始めた。 
「弁明があるなら聞いてやろう。なぜ我らが領域に断りもなく侵入したんだ? この森は王国より自治権を認められたエルフの聖域なのだぞ」
席につくなり、代表者らしきさっきのエルフが開口一番こちらを批判してきた。さっきからずっと高圧的な態度で腹が立つが、激昂しても得になる事は一つもないのでぐっと我慢する。
「それは謝ります。ただ言っておきたいのは、我々はここがそんな土地だと知らなかったと言うことです。我々はただ水や食料が欲しくて森に入っただけであって、何もあなた方と敵対したくてここに来たんじゃないんです」
平身低頭。ただ謝罪する俺の言葉に男は厳しい目を向けるだけだ。頭から否定するつもりもないが、無条件で信じる気もないと言った感じだろうか。男の視線は俺の上を滑り、隣で着席しているラウに向けられる。
「この者の言っていることは本当か? 見たところ君は自分の意志を奪われ、その身を不当に扱われているようだが……さっきの言葉もこの者等に無理やり言わされたのではないのか?」
ゴクリ――と、唾を飲み込むのを抑えられなかった。今ラウが自分を助けてくれと訴えたら、エルフ達は俺達を即座に敵と認定し襲い掛かってくるに違いない。この場にシーリがいるおかげで俺はなんとか生き残れる可能性があるものの、牢に囚われているイクス達が無事に済むとは到底思えない。黙って隙を窺うシーリの身が固くなったのを知ってか知らずか、この事態を打開できる唯一の人物であるラウは、ニコリともしない真剣な表情で男の目を見返す。
「無理やりじゃないわ。確かに出会いこそ奴隷という最悪な形だったけど、一緒に困難を乗り越えている内にそこまで嫌じゃなくなってきたの。ケイオスが言ったように、私達に敵対の意思はない。少しの食べ物を分けてもらえればすぐに森から出ていきます」
今までのラウからは考えられないようなその言動に、俺は意外さを隠せなかった。俺に敵意むき出しだった彼女なら、確実に裏切ってエルフ達に助けを求めると思ったからだ。いったい彼女の中でどんな心境の変化があったんだろうか。
「ふむ……そこまで言うなら信用しよう。お前達の望みどおり、食料を与えてこの地を去る事をゆるそう」
その言葉にホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、男は耳を疑うような言葉を続けながら俺を指差した。
「ただし、それには条件がある。見たところお前はスキル持ちだ。お前のスキルを我が部族に捧げるなら、このまま見逃してやってもいい」
「スキルを……捧げる?」
男の言葉の意味がわからず、思わず問い返す。俺は吸収のスキルのお陰で他人のスキルを奪い取ることが出来るが、自分の持つスキルを他者に譲り渡す事など出来ない。ひょっとしてこの森に住むエルフ達には、俺と同じように吸収のスキルを持っているのだろうか?
「我ら部族には、スキルを奪って他者に与える能力を持った者がいるのだ。その者にお前の持つスキルを捧げるなら、お前達を開放しようじゃないか」
やはり俺と同じような能力を持つ者がいたのか。しかもスキルを奪うだけでなく、他者に与えることが出来るとなると、俺より優れた能力と見て間違いない。しかし困った。現在俺には『吸収』『氷の矢』『支配』の3つのスキルがあるが、もし支配か吸収を奪われると今後開拓どころではなくなってしまう。吸収がないと俺は一生女のままだし、支配が奪われたら凶悪な強さを持ったシーリや、大森林で開拓中のシオンら魔族を敵に回すことになってしまう。そうなると独立どころではなくなるので、なんとしても避けたい事態だった。
「それはつまり……無能力者になれって事ですか?」
「端的に言えばそうなる。どうする? 大人しくスキルを差し出すか、それとも牢屋で何年も過ごすことを選ぶか。選択権はお前にある」
「…………」
シーリの実力を持ってすれば、この場にいるエルフ達を皆殺しにするのは訳もない事だと思う。しかし、こっちが暴れている間、連中が無抵抗でいるはずがない。牢で身動きできないイクス達は確実に殺されるし、そうなったら火薬の増産など夢のまた夢。それを考えるとエルフ達の条件を飲むしかなかった。
「……わかりました。スキルを捧げます」
「ケイオス様!? よろしいのですか?」
「構わない。みんなの命には代えられない」
驚くシーリをなだめつつ、俺は全く逆の事を考えていた。相手がどんなスキルなのかは知らないが、直接接触するなら俺にも相手のスキルを奪う隙は必ず生まれる。仮に俺にも任意のスキルを他者に与える力が備われば、俺達の勢力全員をスキル持ちにさせる事だって可能なのだ。一か八かの危険な賭けだが、今より遥かに強力な力が手に入る可能性があるなら、試してみる価値はある。
「いいだろう。では早速儀式を行おうではないか。お前だけ付いて来るがいい」
そう言うと、男は返事も待たずに立ち上がり、さっさと外に出てしまった。後に続くために立ち上がった俺を一瞬シーリが止めようとしたが、それは他のエルフに制される。
「心配いらない。すぐに済む」
シーリなら一人で放っておいても大丈夫だろうし、同族であるラウには危害を加えたりはしないはず。前を歩くエルフの背を睨みながら、俺はいつでもスキルを発動できるよう、意識を集中し始めた。 
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