とある魔族の成り上がり
第55話 レイク・ヴィクトリア号
レイク・ヴィクトリア号。それは巨大な船の集合体とも言える存在だった。やたら平べったい作りの船の甲板には土が敷き詰められており、パッと見た限りでは移動する小島に見えなくもない。船同士の間には橋が掛けられ、その上を船上で生活する人々や、補給に立ち寄った船の乗員達が行き交っている。一応転落防止の為に柵がつけられているものの、腐っているので役に立つとは思えなかった。平べったいと言ってもそこは船であるので、恐らく地面の下には住居や倉庫などの生活施設があるのかもしれない。陸上で生活していると絶対お目にかかる事のない、そんな異様とも言える光景に、初めて訪れた俺達賞金稼ぎ達は呆けた表情で眺めるばかりだった。
「どうです? 凄いでしょう?」
「え……ええ……。想像以上です」
まるで自分の事のように誇るライオネルに、曖昧な返事を返すのがやっとだった。金貨の一欠片号は補給と修理を受けるために特殊な形の船に横づけし、現在はレイク・ヴィクトリア号の専門家達に預けられていた。修理が完了するのは早くて三日後らしく、その間俺達はこの船の上にある宿泊施設に泊まる事になっている。
「呆れたデカさだな。見ろよあれ、船の上だってのに野菜まで育ててるぞ」
横を歩くハグリーが指さす方に視線を向ければ、確かに彼の言う通り、船一隻丸ごと使った畑が広がっている。育てているのは野菜だけかと思ったがそんな事は無く、麦に似た作物や木に生った果実なども見受けられた。完全に自給自足体勢を構築しているようだ。
「これは……まるで一つの国ですね」
「まさにその通りですよ。国王こそ居ないものの、このレイク・ヴィクトリア号は複数居る船長の合議で統治される独立国となっています。彼等は独自の軍事力を保持して他国の干渉を許さず、この船の上で何か起きれば彼等の法律で裁かれる事になります」
ライオネルの言った通り、船上の至る所に行き交う人々を監視する兵士の姿が見られた。
「まあ、我々にとっては有り難い状況とも言えますね。仮に襲撃されたとしても、彼等が居れば少なくとも殺される事は無いはずだ」
そう言って、ライオネルは手続きの為に訪れた係の人間と話し始める。金貨の一欠片号の修理や補給はもちろんだが、戦闘で亡くなった船員達の遺体を預かってもらう必要があるためだ。このレイク・ヴィクトリア号は、航海途中で亡くなったり、急病で亡くなったりする人々を一時的に預かる遺体安置所まで備えているらしい。金貨の一欠片号の船員達の遺体は一旦ここに預けられて、後日商会の別の船が引き取りに来る段取りだそうだ。
ライオネルと俺達賞金稼ぎを含めた一団はイクスを中心とした団子状態で、先に降りていた船員が押さえた宿屋に向けて歩みを進めている。人でごった返している上に肉の壁がイクスを取り囲んでいるので、この状態で無理矢理連れていく事など不可能だ。
一行が訪れた宿屋は二階建てで、今にも崩れそうなほど老朽化した建物だった。このレイク・ヴィクトリア号が浮かぶリムニ湖は海と繋がっていないはずだから、海風による腐食なのではなく、単なる経年劣化なのだろう。そんなオンボロ宿屋の入口をライオネルを先頭にくぐると、中では様々な船乗りたちがテーブルを取り囲み、食事や酒を摂りながら騒いでいた。料理やジョッキを運ぶ給仕達が忙しく歩き回る様は、まるで戦場だ。
「いらっしゃい! 予約してたイグレシア商会の人達だね? 部屋の用意は出来てるから二階に上がってくれていいよ。鍵は内側からしかかからないから安心してね。食事が必要なら一階で頼むか、外で食べて来てちょうだい」
宿に入って来た俺達を見つけた女将らしい人物が、豊かな胸と腹のぜい肉を揺らしながら笑顔で話しかけてくる。
「しばらく世話になります。よろしく」
外見はともかく、流石に本職が商人だけあってライオネルは馬鹿丁寧に女将に対応していた。女将の話によると、俺達一行が取っている部屋は全部で六つ。二階にある部屋のほとんどが俺達で占められているらしい。俺と同室になるのはイクス、リーシュ、ルナールの三人。同姓で固めているのは、イクスに対する護衛と、彼女に対して良からぬ行為に及ぶ不届き者を防ぐためでもある。俺が元の体だったら別室に移されていただろうな。
他の部屋はハグリー達残りの奴隷と、ライオネルはじめ金貨の一欠片号の乗員達が何組かに別れて寝泊まりする事になっていた。俺達の部屋の正面にライオネル。真横にハグリーと言った具合だ。
「しばらくゆっくり出来そうね。女しか居ないし、気兼ねしなくて助かるわ」
「確かに。男が居ないと安心だな。ケイオス?」
早速ベッドでくつろぎだしたイクスの発言にリーシュが意味ありげにニヤついている。そう言えば、この中で俺が男だと知っているのはリーシュだけだったな。
「イクスさんの身は我々が守るので安心してください」
イクスを安心させるように言ってみたものの、ここもどこまで安全かわかったものではない。何事も無く再び出港出来ればいいんだけどな。
「どうです? 凄いでしょう?」
「え……ええ……。想像以上です」
まるで自分の事のように誇るライオネルに、曖昧な返事を返すのがやっとだった。金貨の一欠片号は補給と修理を受けるために特殊な形の船に横づけし、現在はレイク・ヴィクトリア号の専門家達に預けられていた。修理が完了するのは早くて三日後らしく、その間俺達はこの船の上にある宿泊施設に泊まる事になっている。
「呆れたデカさだな。見ろよあれ、船の上だってのに野菜まで育ててるぞ」
横を歩くハグリーが指さす方に視線を向ければ、確かに彼の言う通り、船一隻丸ごと使った畑が広がっている。育てているのは野菜だけかと思ったがそんな事は無く、麦に似た作物や木に生った果実なども見受けられた。完全に自給自足体勢を構築しているようだ。
「これは……まるで一つの国ですね」
「まさにその通りですよ。国王こそ居ないものの、このレイク・ヴィクトリア号は複数居る船長の合議で統治される独立国となっています。彼等は独自の軍事力を保持して他国の干渉を許さず、この船の上で何か起きれば彼等の法律で裁かれる事になります」
ライオネルの言った通り、船上の至る所に行き交う人々を監視する兵士の姿が見られた。
「まあ、我々にとっては有り難い状況とも言えますね。仮に襲撃されたとしても、彼等が居れば少なくとも殺される事は無いはずだ」
そう言って、ライオネルは手続きの為に訪れた係の人間と話し始める。金貨の一欠片号の修理や補給はもちろんだが、戦闘で亡くなった船員達の遺体を預かってもらう必要があるためだ。このレイク・ヴィクトリア号は、航海途中で亡くなったり、急病で亡くなったりする人々を一時的に預かる遺体安置所まで備えているらしい。金貨の一欠片号の船員達の遺体は一旦ここに預けられて、後日商会の別の船が引き取りに来る段取りだそうだ。
ライオネルと俺達賞金稼ぎを含めた一団はイクスを中心とした団子状態で、先に降りていた船員が押さえた宿屋に向けて歩みを進めている。人でごった返している上に肉の壁がイクスを取り囲んでいるので、この状態で無理矢理連れていく事など不可能だ。
一行が訪れた宿屋は二階建てで、今にも崩れそうなほど老朽化した建物だった。このレイク・ヴィクトリア号が浮かぶリムニ湖は海と繋がっていないはずだから、海風による腐食なのではなく、単なる経年劣化なのだろう。そんなオンボロ宿屋の入口をライオネルを先頭にくぐると、中では様々な船乗りたちがテーブルを取り囲み、食事や酒を摂りながら騒いでいた。料理やジョッキを運ぶ給仕達が忙しく歩き回る様は、まるで戦場だ。
「いらっしゃい! 予約してたイグレシア商会の人達だね? 部屋の用意は出来てるから二階に上がってくれていいよ。鍵は内側からしかかからないから安心してね。食事が必要なら一階で頼むか、外で食べて来てちょうだい」
宿に入って来た俺達を見つけた女将らしい人物が、豊かな胸と腹のぜい肉を揺らしながら笑顔で話しかけてくる。
「しばらく世話になります。よろしく」
外見はともかく、流石に本職が商人だけあってライオネルは馬鹿丁寧に女将に対応していた。女将の話によると、俺達一行が取っている部屋は全部で六つ。二階にある部屋のほとんどが俺達で占められているらしい。俺と同室になるのはイクス、リーシュ、ルナールの三人。同姓で固めているのは、イクスに対する護衛と、彼女に対して良からぬ行為に及ぶ不届き者を防ぐためでもある。俺が元の体だったら別室に移されていただろうな。
他の部屋はハグリー達残りの奴隷と、ライオネルはじめ金貨の一欠片号の乗員達が何組かに別れて寝泊まりする事になっていた。俺達の部屋の正面にライオネル。真横にハグリーと言った具合だ。
「しばらくゆっくり出来そうね。女しか居ないし、気兼ねしなくて助かるわ」
「確かに。男が居ないと安心だな。ケイオス?」
早速ベッドでくつろぎだしたイクスの発言にリーシュが意味ありげにニヤついている。そう言えば、この中で俺が男だと知っているのはリーシュだけだったな。
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