とある魔族の成り上がり
第38話 毒
夕食までには時間があると言う事なので、俺達は別室で待機する事になった。目の前のテーブルにはリーシュとハグリー二人分の報酬が置かれている。と言っても満額ではなく、一人金貨二枚に減らされていた。魔族達を撃退する事は出来なくても、とりあえず生きて情報を持ち帰った事に対する報酬だ。
「毒……ですか?」
「そうだ。腹を壊す程度でいい。軽くセイスの体調を崩して『支配』を効きやすくするんだ」
部屋の案内役を買って出て、そのまま居座ったシードに対して一つの提案をする。俺が新たに手に入れたスキル『支配』は、相手が弱っていれば弱っている程成功しやすい。もがき苦しむほど強力な毒など論外だが、少し調子が悪くなる毒があれば使うべきだ。セイスに対して恨みはない。しかし、俺が成り上がるために出来る事は何でもやってやる。
「今からですと……なかなか難しいですね」
なんだかんだと時間をとられたので今が昼前。晩餐は遅くても午後七時に始まるらしいので、あまり時間は残されていない。そこらの露店で毒物を売ってるとも思えないし、入手は難しいかも知れないな。
「無理かな?」
「正直言って無理だと思います。日数をかければ何とかなりそうですが……」
申し訳なさそうなシードに手を振って、気にするなと言っておく。単なる思い付きだし、あればいい程度の考えだったから落胆もしていない。しばらく考え込んだシードだったが、何かを思いついたように再び口を開いた。
「薬はともかく、酒ならどうでしょうか?」
「酒?」
シードの話によると、どうやらセイスは酒に弱いらしい。普段の食事で飲む事は無く、誰かに招かれた時や、反対に人を招いた時にしか酒を口にしないんだとか。飲んだ量はコップ一杯ほどにも関わらず、大抵その後はべろんべろんに酔っぱらって足元もおぼつかなくなるらしい。シードはそんな状態のセイスを何度も介抱した経験があるんだとか。
「恐らく、この後の晩餐ではケイオス様達にのみ酒が提供されるでしょう。でもセイス殿には出ないはず。そこで提案があります」
シードの提案はこうだ。これから街に出て酒場に直行し、手土産になりそうなそこそこ値の張る強い酒を買ってくる。セイスは内心断りたいだろうが、客人――それも大事な護衛であるシードの命を救ってくれた恩人の手土産を拒絶する事も出来ないはずだから、ほぼ確実に口にしてくれるだろうとの事だ。
「なるほどな。それなら上手くいきそうだ。さっそく街に買いに行こう」
幸いリーシュ達の報酬としてもらった金貨四枚がある。ある程度値が張る酒でも問題なく買えるはずだ。俺はテーブルに上にあった金貨を引っ掴み、一枚ずつリーシュとハグリーに渡す。
「ケイオス?」
「なんだこれ?」
「お前達の取り分だよ。今日の晩餐が終わったら一日休みにするから、好きに使って来るといい」
奴隷の自分達が報酬を貰えるとは思っていなかったのか、二人とも目を白黒させていた。命懸けで戦ったのに無報酬では今後のやる気も変わってくる。ある程度息抜きさせないと手を抜かれる恐れもあるし、働きに対する報酬は支払うべきだろう。
「ケイオス様! 自らの奴隷にそんな施しをするなんて、なんてお優しい方だ!」
横で何やら感動して涙を流すシードを放っておいて、とりあえず俺達は屋敷を出る事にした。シードは仕事が残っているらしく屋敷に留まったので、買い出しに出たのはいつもの面子だ。とりあえず大通りに出た俺達は、左右にある商店を眺めながら当てもなく歩いていた。流石に商業国家と言うだけあって通りは人で溢れており、扱う商品も様々だ。
「酒を探すんだから、酒場にでも行くのか?」
「あそこは安酒しか扱っていないだろう。貴族が飲む様な高い酒なら、専門的に扱う店があると思うぞ」
「ケイオス、あれ」
ハグリーの疑問に答えていると、リーシュが通りにある店の一つを指さしていた。その店は店の軒先に大きな樽を二つ入口に並べていて、いかにも酒を扱っていますと言わんばかりの店だ。店の中からは宿屋の一階にある酒場のように酔客の喧騒などは聞こえてこない。恐る恐る中に入って見ると、酒がつまったいくつもの棚が並んでおり、店の一番奥にあるカウンターには店主らしき男が暇そうに座っていた。
「いらっしゃい……酒が入り用かな?」
「贈答用で強い酒は置いてないかな? 予算は金貨一枚で」
初老の域を出るか出ないかと言った外見の店主は俺の言葉に反応してゆっくりと立ちあがり、自分の背後にある棚の中からいくつかの酒瓶を取り出してカウンターへと並べる。それはどれも酒瓶だと言うのに立派な造形をしていて、まるで一つの芸術作品のようだ。
「その予算ならこのあたりかな? どれも飲み越えのあるいい酒だよ。強い酒だから、余程の酒飲みじゃないと辛いかもな」
並んである酒瓶の一つを手に取って蓋を開けて匂いを嗅いでみたが、少し吸っただけでも頭がクラクラしそうな酒の匂いだった。これだけ強ければ酒の弱いセイスを酔い潰すなど簡単に出来るだろう。正直どれも違いがわからないので適当に一つ選び、代金を払ってさっさと店を後にする。
これで準備は完了だ。後は晩餐の時刻を待つとしよう。
「毒……ですか?」
「そうだ。腹を壊す程度でいい。軽くセイスの体調を崩して『支配』を効きやすくするんだ」
部屋の案内役を買って出て、そのまま居座ったシードに対して一つの提案をする。俺が新たに手に入れたスキル『支配』は、相手が弱っていれば弱っている程成功しやすい。もがき苦しむほど強力な毒など論外だが、少し調子が悪くなる毒があれば使うべきだ。セイスに対して恨みはない。しかし、俺が成り上がるために出来る事は何でもやってやる。
「今からですと……なかなか難しいですね」
なんだかんだと時間をとられたので今が昼前。晩餐は遅くても午後七時に始まるらしいので、あまり時間は残されていない。そこらの露店で毒物を売ってるとも思えないし、入手は難しいかも知れないな。
「無理かな?」
「正直言って無理だと思います。日数をかければ何とかなりそうですが……」
申し訳なさそうなシードに手を振って、気にするなと言っておく。単なる思い付きだし、あればいい程度の考えだったから落胆もしていない。しばらく考え込んだシードだったが、何かを思いついたように再び口を開いた。
「薬はともかく、酒ならどうでしょうか?」
「酒?」
シードの話によると、どうやらセイスは酒に弱いらしい。普段の食事で飲む事は無く、誰かに招かれた時や、反対に人を招いた時にしか酒を口にしないんだとか。飲んだ量はコップ一杯ほどにも関わらず、大抵その後はべろんべろんに酔っぱらって足元もおぼつかなくなるらしい。シードはそんな状態のセイスを何度も介抱した経験があるんだとか。
「恐らく、この後の晩餐ではケイオス様達にのみ酒が提供されるでしょう。でもセイス殿には出ないはず。そこで提案があります」
シードの提案はこうだ。これから街に出て酒場に直行し、手土産になりそうなそこそこ値の張る強い酒を買ってくる。セイスは内心断りたいだろうが、客人――それも大事な護衛であるシードの命を救ってくれた恩人の手土産を拒絶する事も出来ないはずだから、ほぼ確実に口にしてくれるだろうとの事だ。
「なるほどな。それなら上手くいきそうだ。さっそく街に買いに行こう」
幸いリーシュ達の報酬としてもらった金貨四枚がある。ある程度値が張る酒でも問題なく買えるはずだ。俺はテーブルに上にあった金貨を引っ掴み、一枚ずつリーシュとハグリーに渡す。
「ケイオス?」
「なんだこれ?」
「お前達の取り分だよ。今日の晩餐が終わったら一日休みにするから、好きに使って来るといい」
奴隷の自分達が報酬を貰えるとは思っていなかったのか、二人とも目を白黒させていた。命懸けで戦ったのに無報酬では今後のやる気も変わってくる。ある程度息抜きさせないと手を抜かれる恐れもあるし、働きに対する報酬は支払うべきだろう。
「ケイオス様! 自らの奴隷にそんな施しをするなんて、なんてお優しい方だ!」
横で何やら感動して涙を流すシードを放っておいて、とりあえず俺達は屋敷を出る事にした。シードは仕事が残っているらしく屋敷に留まったので、買い出しに出たのはいつもの面子だ。とりあえず大通りに出た俺達は、左右にある商店を眺めながら当てもなく歩いていた。流石に商業国家と言うだけあって通りは人で溢れており、扱う商品も様々だ。
「酒を探すんだから、酒場にでも行くのか?」
「あそこは安酒しか扱っていないだろう。貴族が飲む様な高い酒なら、専門的に扱う店があると思うぞ」
「ケイオス、あれ」
ハグリーの疑問に答えていると、リーシュが通りにある店の一つを指さしていた。その店は店の軒先に大きな樽を二つ入口に並べていて、いかにも酒を扱っていますと言わんばかりの店だ。店の中からは宿屋の一階にある酒場のように酔客の喧騒などは聞こえてこない。恐る恐る中に入って見ると、酒がつまったいくつもの棚が並んでおり、店の一番奥にあるカウンターには店主らしき男が暇そうに座っていた。
「いらっしゃい……酒が入り用かな?」
「贈答用で強い酒は置いてないかな? 予算は金貨一枚で」
初老の域を出るか出ないかと言った外見の店主は俺の言葉に反応してゆっくりと立ちあがり、自分の背後にある棚の中からいくつかの酒瓶を取り出してカウンターへと並べる。それはどれも酒瓶だと言うのに立派な造形をしていて、まるで一つの芸術作品のようだ。
「その予算ならこのあたりかな? どれも飲み越えのあるいい酒だよ。強い酒だから、余程の酒飲みじゃないと辛いかもな」
並んである酒瓶の一つを手に取って蓋を開けて匂いを嗅いでみたが、少し吸っただけでも頭がクラクラしそうな酒の匂いだった。これだけ強ければ酒の弱いセイスを酔い潰すなど簡単に出来るだろう。正直どれも違いがわからないので適当に一つ選び、代金を払ってさっさと店を後にする。
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