とある魔族の成り上がり

小林誉

第16話 初依頼達成

「で、まんまと逃げられたわけだ」
「…面目ない」


う○この臭いに気分が悪くなりながら外に出てリーシュに事情を説明した途端、案の定彼女に呆れられてしまった。仕方ないだろ、俺だって好きで逃がした訳じゃないんだ。


「ま、一応は依頼達成したのだし気にするほどでもないだろう。依頼書に詳細な人数は書かれていなかったし、一人二人は誤差の内だ」


そう言ってリーシュは俺の肩をポンポンと叩いた。初めての依頼でミスを犯した俺の事を気遣ってか、柄にもなく慰めてくれているようだ。それが何故か嬉しくもあり情けなくもあった。気を取り直した俺達は洞窟の入口で仕留めた盗賊達の死体から耳を削ぎ落し、依頼達成を報告するために街へと帰還する事にした。本音を言えばリーシュに抱えられて一気に帰りたかったところだが、彼女も俺同様に疲れている。これから良い信頼関係を築くためにも自分だけ楽をする訳に行かなかった。


賞金稼ぎ組合の建物の中に入った俺達は、係員に案内されるまま椅子に腰かけ自分達の順番が回って来るのを大人しく待つ。自分達の番になり早速カウンターに向かった俺達は、依頼達成の報告と共に証拠である乾いた血の付く耳を差し出した。グロテスクなので係員には若干引かれたようだ。やがて査定が終わったらしく、俺達二人は再びカウンターに呼び出されて職員から結果を教えられた。


「えーと、依頼は無事成功なされたみたいですね。期限も過ぎてませんし、違反行為もありません。本来の依頼料と盗賊一人につき銀貨五枚を上乗せして、全部で金貨二十枚のお支払いとなります」


そう言って、職員はジャリジャリと音のする袋をカウンターにごとりと置いた。中を確認すると確かに金貨が入っている。二十枚ではリーシュを買った時の値段にも届かないが、それでも随分と取り戻せた額だ。初依頼としては上出来だろう。金を受け取った後早速組合を後にしようとしたら、リーシュが声をかけてきた。


「おいケイオス。次の依頼を受けて行かないのか?」
「その前に俺の装備を整える。流石に今のままじゃ厳しいからな」


リーシュと違い、現在俺が身に纏っているのは襤褸同然の革鎧だ。今回はスキルのおかげで盗賊達が自滅してくれたが、これではいつ致命傷を負うか解ったもんじゃない。命あっての物種なので先に防御力を上げる必要があった。


通りに戻り適当に歩いていると、賞金稼ぎ相手に商売をしている店が何軒か見えてきた。長期的に外で活動するための保存食を取り扱う店や、手なずけた魔物を売る店、武器や防具を取り扱う店など様々な店が並んでいる。俺達が選んだのはその中の武器防具を扱う店、装備屋だ。


店に入ると様々な武器や防具が店内狭しと並べられ、賞金稼ぎと思われる人々が実際に手に取り品定めしている。俺は迷わず防具が並ぶ箇所に足を運ぶと、さっそく防具の選定に入る。


「何か目当ての防具でもあるのか?」
「うーん…俺の場合スキル次第で体が変化するから、プレートメイルみたいに体を覆う防具は却下だな。となれば、どんな体形でもある程度着こなせるものが良い」
「体が変化…?よく解らんが、これなんかどうだ?」


自分だけ見事な装備に身を包んだリーシュが適当に見繕った装備を差し出してくる。彼女は装備について造詣が深いのか、値段の割にはなかなかしっかりとした作りの物を選んだようだ。差し出されたのは三つ。一つは胸と背中を守るための部分的な鉄の胸当て。一つは腰まですっぽりと覆う鎖帷子。最後の一つは神官が着ているようなローブだった。


「少々値は張るが、これらなら十分な防御力を得られると思うぞ」
「確かにそうだな…」


ローブはどうかと思うが、鎖帷子と胸当ては体形が変化した後も十分使えそうだ。試着してみたが特に動きが阻害される事も無く、いつもと同じように動ける。結局俺はその二つを買う事に決め、早速その場で身に纏う事にした。鎖帷子の上から胸当てを装備すると重量がかなり増えるので体力の消耗や素早さの低下など様々なマイナス要因はあるが、それを補って余りある防御力を得られる事が出来た。


次は武器だ。俺が持っているのは何の変哲も無い短剣だけだし、スキルで出現する短剣は物理攻撃に使えないので、現状これだけで戦うのは正直厳しかった。残りの金をつぎ込めば名剣の一本も手に入るだろうが、武器の心得の無い俺が買っても豚に真珠だろう。なら優先するのはリーチの長さだ。間合いが長い武器なら、俺の様に素人でも何とか様になる程度には戦える。距離がひらけばスキルを使う隙も生まれるのだから。


散々迷った挙句、最終的に選んだ武器はリーシュと同じ槍だった。と言っても一撃に威力を籠められる重量の槍では無く、片手でも振り回せそうな軽量級の槍なのだが。もちろん良い材質で作られているため普通の槍の何倍もの値段がした。これで一通りの装備は整った。俺達は再び通りに戻りもさっき出たばかりの組合に戻って新しい依頼を受ける事にした。


掲示板の前には先ほどと変わらずちらほらと賞金稼ぎの姿が見られる。俺達は彼等の間を縫うように進み掲示板の前に取りつくと、張り付けられている依頼書を詳細に眺めていった。


「あまり変わり映えしないな…」
「そうだな。特に儲かりそうも無い依頼ばかりだが、かと言って何もしない訳にはいかんだろうし…取りあえず適当な依頼でも受けて日銭を稼いでおくか?」
「それが無難かな」


またスキル持ちと思われる討伐対象があれば良かったんだが、生憎こちらの都合のいいようにばかり事は進んでくれない。仕方が無いので俺達はゴブリン討伐と言うあまり実入りの良くない依頼を引き受ける事にした。


ゴブリン。子供の背丈ほどある小さな魔物で集団で動き回り、家畜や農作物を荒らしたり、たまに人を襲ったりもする厄介な魔物だ。一匹の力は少し体を鍛えた成人男性なら余裕で倒せるぐらいだが、数で動くために素人では厳しい相手だろう。それに奴等は繁殖力が強く、あっと言う間に数を増やしてしまう。そのためにゴブリン退治の依頼は絶える事が無いようだ。


「ゴブリンが出没するのはこの街の西にある村の近く。山の中らしい。出発は明日からにして、今日の所は宿に泊まろう」


初めての依頼をこなして気分が高揚していたが、疲れが溜まっているのは事実だ。今の俺にはあの安宿のベッドでも魅力的に思えてくる。さっさと戻って休むとしよう。

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