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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第110話 デール王国軍動く

デール王国軍動く。それも余力を残さず全軍で。後方の守りすら空にしたその圧倒的布陣は剛士達日ノ本公国軍に戦慄をもたらした。デール王国に潜伏させている多数のスパイが各地から敵の出撃情報を送ってきたが、それが一日の内に、しかも同時でとなれば、CICの面々を動揺させるのに十分な報告だった。


「全軍!? 一人残らずか? 間違いないのか!?」
「百や二百は残しているはずですが、その程度なら誤差の範囲なので、ほぼ全軍と見て間違いないと思います。敵は総力戦に打って出ました陛下」
「そんな馬鹿な! 奴等正気か!?」


兵器の質で圧倒していても日ノ本公国軍のとれる戦法はそれほど多くない。まずカノン砲などの重量物はそう簡単に移動できる物ではないし、火薬の扱いも慎重を要する。アメリカ映画みたく、突撃して銃を乱射、そして戦争が終わった――などと簡単には済まないのだ。なので彼等日ノ本公国軍が選んだのは、初撃で敵に恐怖を抱かせて足を止め、慎重に接近してくるものを少しずつ、確実に削り取っていく。言わば防御主体の戦術だ。


弾薬の枯渇と敵の威圧を両立できる唯一の戦術だっただけに、剛士はこの戦術に絶対の自信を持っていた。しかし現実はこれだ。犠牲を無視して前に進み、更に途中の都市すら無視して敵の本拠地だけを叩く――まともな指揮官なら絶対選ばないような手段を、冷静で、且つ貴族連中を押さえるのに必死なフランが選ぶとは少しも思わなかったのだ。


一番恐れていた事態が現実になり剛士は焦りを隠せない。額には冷や汗が流れ、腕組みした腕はうっ血するほど強く握りしめられている。そんな公王の姿を目にしたローズは密かに気合いを入れ直す。自分の立場は公王の補佐。動揺している彼を正気に戻し、対策を実行させるのが仕事なのだ――と。


「陛下。起こってしまった事を嘆いていても仕方ありません。現状我々のするべき事は、その対抗策を練る事です。前進か後退か。戦うのか降伏するのか。戦うのならどのような手段を選ぶのか。それを迅速に決める必要があります」
「……そうだった。すまんローズ」


もう個人で右往左往していたような気楽な立場じゃなくなっている。それを思いだした剛士は瞬時に頭を切り替えた。間抜けた表情が、突飛で冷徹な策をいくつも生み出した公王のそれに変わる。自分が信頼した王が戻ってきた事に、ローズは密かに胸をなで下ろす。


「ファング隊をすぐに戻す事は可能か?」
「今すぐとなると難しいです。ファング隊の駐屯地から半日程度の距離に、彼等を取り囲むように布陣している一軍があります。撤退しようとすれば当然追撃されるでしょう」
「なら手持ちの地雷をありったけ敷設させておけ。それで時間が稼げるはずだ」


戦後の事を考えて地雷を極力敷設せず特攻兵器のように仕立て上げたばかりだというのに、その努力をあっさりと放棄した剛士。ローズが驚いて彼を見ると、剛士は解っているとばかりに腕を振った。


「戦後の事なら問題ない。ゴーレム爆弾でヒントを得たからな。埋めた地雷は巨大なローラー状のゴーレムで残らず除去できるはずだ」


剛士が言っている物――それはコロコロの事だ。粘着性があり、部屋で動物や人間の毛、そして埃などを残さず取り除いてくれるご家庭の便利アイテム。あれの形状をそのまま大きくして転がせれば、地面に埋めた地雷を爆発させながら除去できると考えているのだ。この場合ロードーラーだ! とでも絶叫するべきだろうか。あっさりと問題点を解決した剛士に、改めてローズは感心している。やはり自分達の主はただ者ではないと思っているのだ。


「地雷の敷設に時間をかけてからの撤退となりますと、デール王国軍よりも遅れて移動する事になります。それに彼等の足では……」
「間に合いそうにないか?」
「残念ながら」


事実は事実として伝える。副官として、補佐としてこれが出来る人間はそれほど多くない。大体が指揮官の不評を避けるために言葉や表現を選び、事実より少しマシなような伝えるのだ。その点ローズは遠慮がない。彼女は報告者の主観など不要だと思っているし、情報の正確さを何よりも理解している人間なのだ。


ローズに与えられた情報で、今何が出来るのか剛士は頭を必死で捻る。既に敵は動き出しており、それらはいくつも別れ、ファング隊を大きく迂回しつつ鹿児島まで到達しつつあるのだ。


「敵海上戦力はどうなってる?」
「大陸西側に残された艦船を総動員しているようです。こちらと種子島の輸送路を遮断するような動きを見せています」
「兵糧攻めにする気か? 確かに鹿児島は長期戦に向いていないからな」


公都鹿児島は王城の他、商店や住宅が密集する大都市ではあるが、城壁内に抱える耕作地はそれほど多くない。公都に住む住人の人数を考えた場合、一月も籠城出来れば良い方だろう。なので亀やニートのように引きこもるのではなく、短期決戦で挑む必要があった。


「稼働中の榛名らを迎撃に向かわせますか?」
「……そうだな。動く船は鹿児島と種子島の間を警戒させろ。種子島の守備兵には万が一敵の襲撃があった場合、島の固定砲台で迎撃させよう。彼等には二十四時間の警戒態勢を布かせておけ。金剛の修理が長引きそうなら、船内のカノン砲を取り外して使わせろ」
「承知しました」


矢継ぎ早に指示を出す剛士。追い詰められた彼の頭はこれまで以上に冴えていた。


「ファング隊の魔法使いだけ先に帰還させろ。ゴーレムを使わないなら彼女達は必要ない。それより鹿児島でゴーレム爆弾を作らせた方がマシだ」
「はい。では彼女達とその護衛の兵を急いで戻らせるよう、ファング将軍に伝えておきます」
「各都市は援軍など色気を出さず、防衛に努めさせておけ。この期に及んで敵もちょっかいは出さないと思うが、念には念だ」
「はい。そのように」


一気に指示を出した剛士は椅子に全体重を預けて天を見上げる。しかしそこには青空などなく、無機質な石造りの天井があるだけだ。


「……いよいよ正念場だな。フランも次があるとは思っていないだろうから、これが最終決戦と言っていい。俺かあの女か、生き残るのはどっちになるかな」


ポツリと呟いた彼の言葉は、周囲の誰の耳にも届いていなかった。



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