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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第103話 内通者

天翼団と竜鱗団が敗れる。その報告を戦意高揚のために催した晩餐会の最中に聞かされた時、フランは持っていたティーカップを床に叩きつけて激怒した。


「あれだけ大金を払ったというのに、ろくに損害も与えられずに壊滅したというのですか!? 大陸一と名高い傭兵が聞いて呆れます!」


正確には依頼料の全額では無く半額なのだが、この際それは関係無かった。彼女にとって敗北したと言う事実のみが重要なのだ。底冷えのする凶悪な目つきで、フランは足下に平伏する伝令を睨み付ける。


「……それで、何か収穫はあったのですか?」
「は、はい……その、敵の新兵器の射程と、空の敵に対しても攻撃出来ると解ったので――」
「それは前回の戦いで解っていた事でしょう! 物見は一体何をしていたのです!」


怒鳴りすぎたフランは頭に血が上りすぎたため、貧血気味になって崩れるように椅子に腰掛けた。慌てて侍従のセルビーや近衛騎士が駆け寄ろうとするが、彼女はそれを手で制する。


「結局何もわからずにただ消耗しただけ……このまま本隊をぶつけるのは危険すぎますね。何か別の手を考えないと……」


フランとしては頭の痛い問題だ。敵の新兵器の威力があまりに強すぎて打開策が見いだせない。数の上ではまだ圧倒しているものの、正面からぶつかればどう転ぶか解ったものではないので、賭けに出るのは危険すぎる。一度負ければ取り返しがつかないのだから当然だった。


ざわざわと広間に集まった貴族達がざわめく。本来なら結束を求める為に集めた宴なのに、これでは逆効果にしかならない。敗北を報告する伝令と取り乱す女王――それを見た貴族が何を考えるかなど、想像に難くなかった。


(マズい……。何とかここで彼等を引き留めないと……)


一筋の汗を垂らしながらフランが頭を悩ませている時、一人の貴族が玉座に座る彼女の前に跪いた。


「フラン様」
「貴方は……ヴィッツレーベン子爵……」


取り乱すフランを落ち着かせるように、柔和な笑みを浮かべたこの初老の男は、エルヴィン・フォン・ヴィッツレーベン子爵。彼は生粋のデール貴族ではなく、隣国からの亡命貴族だ。と言っても亡命したのは彼の祖父であり、彼と彼の父はデール王国で生まれ育っている。


亡命当初、彼の祖父は裏切り者や蝙蝠子爵と揶揄される事が多く、かなり悔しい思いをしていたようだが、そんな声も代を重ねる事で次第に薄らいでいった。そして現在、彼の家はデール王国内で手広く商売を広げ、一流の商売人としての才覚を見せ、一目置かれるようになっている。フラン統治後に頭角を現してきた貴族の一人だ。そんな男がどうして自分の前に出てきたのか解らず戸惑うフランに、ヴィッツレーベンは衆目の中、堂々とした口調でこう言った。


「私に日ノ本公国を壊滅させるための策があります。是非お耳に入れたいのですが、出来れば人目の少ないところで……」
「……冗談の類いではなさそうですね。話を聞きましょう。着いて来なさい」


中座して席を外す女王とヴィッツレーベン子爵、二人を見送る多くの貴族は、戸惑いながらも宴を再開させていた。


§ § §


「面会? 俺に?」
「はい。亡命を希望する貴族だそうです。身元の確認も済んでいますし、偽物の可能性は限りなく低いかと。お会いになりますか?」


ファングから敵の傭兵部隊を撃滅したとの知らせを受けた剛士は、とりあえず戦局が膠着状態になっている間、溜まっている執務を片付けようと悪戦苦闘している最中、侍従の一人からそんな報告を受けて首をかしげる。


「それはデール王国からの亡命って事だよな? 名前は?」
「エルヴィン・フォン・ヴィッツレーベン子爵です。女王フランが国内統一後に頭角を現してきた貴族の一人ですね」


(聞いた事も無いな。面倒だからパスしたいけど、そうも言ってられんか。上手くすれば敵が次々寝返るかもしれんし)
「会おう。謁見の間に通しておけ」
「かしこまりました」


メイドに着替えを手伝わせながら、剛士は仕事用の服に着替えていく。いつもはジャージ――とは言わないまでも、かなりラフな格好で執務をする彼だが、流石に王として他者に面会する時ぐらいは気を遣うのだ。


「お待たせしたかな」
「とんでもございません。お目にかかれて光栄です公王陛下。私の名はエルヴィン・フォン・ヴィッツレーベン。現在デール王国に籍を置く貴族の一人です」


慇懃な挨拶で頭を下げる男を剛士は特に表情も変えずに見つめていた。謁見の間を使っているとは言え、この場は二人の他に護衛の騎士しかいない。あくまでもエルヴィンは敵国の貴族であるので、私的な会見という形を取っているのだ。


「ヴィッツレーベン卿は――」
「陛下、どうぞ親しみを込めてエルヴィンとお呼びください」
「……エルヴィン殿は、デール王国にしては珍しい名前だな。何か理由があるのか?」


剛士の知る限り、デール王国の貴族にはエルヴィンのように長ったらしい名前の貴族は居ない。女王のフランでさえ短い名前なのだから、他の貴族も似たようなものなのだ。


「私の祖父はフランク王国からの亡命者ですので、その影響で私もこのような名を名乗っております。フォンと言うのは貴族につく称号……と、考えていただければ間違いないかと」
「なるほど」


(ドイツ風だな……。つまりこれを日本風に当てはめると、織田・上総介かずさのすけ・信長とか、羽柴・誠三せいぞう・秀吉みたいになるわけか)


うんうんと理解したように何度も頷く剛士。一部激しく間違っているが、剛士の認識は大体正しい。


「――か、陛下?」
「む!? いやすまない。ちょっと考え事をしていてな」
「お疲れのようですね。お察しします」


余計な事に気を取られていた剛士はエルヴィンの声に引き戻された。そんな彼に、心の底から同情したとでも言うような心配顔を浮かべるエルヴィン。剛士は何でも無いと手を振ってみせる。


「それより本題に移ろう。亡命を希望すると聞いたが……それはまことか?」
「もちろんでございます。このエルヴィン。陛下にお味方するため、デール王国内を分裂させてご覧に入れましょう」


ニヤリ――と、不敵な笑みを浮かべたエルヴィンに、剛士はゴクリと喉を鳴らした。

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