異世界転生チートマニュアル
第102話 壊滅
ファング隊の作った簡易要塞の周辺は空中の至る所で爆発が起き、まるで納涼花火大会の様相を呈していたが、空に咲くのは華麗な花火ではなく、人やペガサスの肉体が四散する汚い花火だった。それでも竜鱗団と言う援軍が現れた事で持ち直した天翼団の傭兵達は、果敢に要塞へと攻め寄せていった。しかし運良くカノン砲の弾幕を突破したとしても、次に彼等を待ち構えるのは火縄銃から切り替えられた新型銃だ。その名もミニエー銃。マスケットから進化したこの銃は、ミニエー弾と言う特殊な弾丸を使用して猛威を振るい、過去の銃を軒並み旧式化させた優れた銃だ。
装填方法が前込め式で時間のかかる欠点もあったが、ライフリングされた銃口から飛び出す弾丸は猛烈に回転しながら飛翔して、敵に甚大な被害を与えてくれる。同じ距離でマスケット銃と撃ち合えば勝負にもならず、一方的な殺戮劇が展開されたに違いない。
銃という武器を本格的に量産し、エギルによって育てられた職人集団は、剛士の無茶ぶりとも言える技術改良に十分以上に応えてくれた。そうでなくても戦争は技術の発展を加速させる。職人の腕と同様に加工するための技術や設備も飛躍的に進化を遂げ、銃の大量生産を可能にしていたのだ。
ミニエー銃の弱点である装填の遅さをカバーするため、熟練の弩兵が殺到するペガサスライダーに向けて次々と矢を放っている。ミニエー銃と弩、お互いが互いの短所を補う形で、彼等は空からの猛攻に立ち向かっていた。
「ファング将軍! ドラゴンです!」
「来たか! 一班から三班までは弾種を切り替えて対地攻撃の用意! 四班から六班はそのままペガサスの迎撃だ! バリスタ隊も手を抜くなよ!」
地響きを上げながら迫ってくる四足歩行の巨大なドラゴン。まだかなりの距離があると言うのに、その姿を目にした兵は本能的な恐怖を感じて体を硬くする。あれだけの巨体なら、ただ突っ込んでくるだけでこの防壁を簡単に粉砕する事が出来るだろう。しかし、厳しい訓練を経てきた彼等兵士は、恐怖に強ばりつつも戦う事を止めはしなかった。
鈍重そうな外見をしている割にドラゴンの足は意外と速い。体が大きいので一歩で進む距離が長いためだ。カノン砲が装填を急いでいる間にも、ドラゴンは要塞へと肉薄していた。
§ § §
「ははは! 連中ビビってやがるぞ!」
ウロコの背後には彼を盾にしながら追従する竜鱗団の兵士達がいた。その先頭を行くのはウロコの主であるラケルタだ。彼は天翼団がバタバタと落とされるような要塞を自分達が落とせる事を確信していたため、かなりの上機嫌だ。地の竜鱗団と空の天翼団――拮抗する二つの傭兵団の内、どちらかが消滅すれば自然と自分達の地位も上がる。それはつまり、傭兵の目的である金銭の増加を意味していた。
「ウロコに勝てる奴なんか居るかよ! コイツを止めたけりゃ他のドラゴンでも連れてこい!」
要塞から放たれた銃撃はウロコの体に全て弾かれている。鎧すら貫通するミニエー弾でも、ドラゴンの厚い鱗には無力でしかない。しかし、彼等は自らが罠に向かって突進しているのを知らなかった。
「行けー! そのままチンケな要塞なんぞぶっ壊して――うお!?」
「グオオオオォ!?」
要塞まであと少しと言ったところに到達したウロコは、突如陥没した地面に頭からはまり込む事になった。スピードの乗った巨体は落とし穴に勢いよく突っ込んで、底にあった土砂を盛大に巻き上げながらひっくり返って停止する。当然後ろを馬で進んでいたランケア達も急に止まれるはずもなく、後ろから押されるように次々と穴の中に落ちていく。
ファングはこの落とし穴を本来騎馬隊を想定して掘っていたのだが、ドラゴンの足が予想以上に速かったのと、ランケア達騎馬隊がドラゴンの後ろについてくると言う戦法をとったため、想定外の相手が罠にはまった形になった。
一番厄介なドラゴンがまさかの急停止。この嬉しい誤算にファング隊は俄然活気づき、兵の体から強ばりがなくなって、砲の装填速度も上がっていく。
「いつ~……クソッタレが……! なんなんだまったく……」
もがくウロコの手足を必死に避け、穴から這い出たランケアが見た光景――それは自分に向けられたカノン砲が火を噴く瞬間だった。彼にとって幸運だったのは即死できた事だろう。彼の背後にいた傭兵達や、身動きの取れないまま多数の砲弾の直撃を受けたウロコは、体のあちこちを引き裂かれ、抉られ、そぎ落とされて絶命していったのだから。いかに頑丈なドラゴンと言えど、至近距離から大砲の直撃を受けて無事で済むはずがなく、竜鱗団自慢のドラゴンはろくに活躍の場も与えられないまま、苦しみの声を上げて肉片へと姿を変えていった。
「ウ、ウロコが……!」
頼みのドラゴンと団長が戦死した事で、動揺した竜鱗団の傭兵が逃げだそうとしたものの、ファング隊の砲撃は容赦なく彼等を蹂躙していく。まるで地面を大砲で耕しているかのような蹂躙劇は小一時間ほど続き、空と陸、双方で死と破壊を量産していった。
この戦いに参加した天翼団と竜鱗団――大陸に名を轟かせる二つの傭兵団は、その戦力の九割以上を失って団自体の維持すら困難になり、後日解散の運びとなった。
装填方法が前込め式で時間のかかる欠点もあったが、ライフリングされた銃口から飛び出す弾丸は猛烈に回転しながら飛翔して、敵に甚大な被害を与えてくれる。同じ距離でマスケット銃と撃ち合えば勝負にもならず、一方的な殺戮劇が展開されたに違いない。
銃という武器を本格的に量産し、エギルによって育てられた職人集団は、剛士の無茶ぶりとも言える技術改良に十分以上に応えてくれた。そうでなくても戦争は技術の発展を加速させる。職人の腕と同様に加工するための技術や設備も飛躍的に進化を遂げ、銃の大量生産を可能にしていたのだ。
ミニエー銃の弱点である装填の遅さをカバーするため、熟練の弩兵が殺到するペガサスライダーに向けて次々と矢を放っている。ミニエー銃と弩、お互いが互いの短所を補う形で、彼等は空からの猛攻に立ち向かっていた。
「ファング将軍! ドラゴンです!」
「来たか! 一班から三班までは弾種を切り替えて対地攻撃の用意! 四班から六班はそのままペガサスの迎撃だ! バリスタ隊も手を抜くなよ!」
地響きを上げながら迫ってくる四足歩行の巨大なドラゴン。まだかなりの距離があると言うのに、その姿を目にした兵は本能的な恐怖を感じて体を硬くする。あれだけの巨体なら、ただ突っ込んでくるだけでこの防壁を簡単に粉砕する事が出来るだろう。しかし、厳しい訓練を経てきた彼等兵士は、恐怖に強ばりつつも戦う事を止めはしなかった。
鈍重そうな外見をしている割にドラゴンの足は意外と速い。体が大きいので一歩で進む距離が長いためだ。カノン砲が装填を急いでいる間にも、ドラゴンは要塞へと肉薄していた。
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「ははは! 連中ビビってやがるぞ!」
ウロコの背後には彼を盾にしながら追従する竜鱗団の兵士達がいた。その先頭を行くのはウロコの主であるラケルタだ。彼は天翼団がバタバタと落とされるような要塞を自分達が落とせる事を確信していたため、かなりの上機嫌だ。地の竜鱗団と空の天翼団――拮抗する二つの傭兵団の内、どちらかが消滅すれば自然と自分達の地位も上がる。それはつまり、傭兵の目的である金銭の増加を意味していた。
「ウロコに勝てる奴なんか居るかよ! コイツを止めたけりゃ他のドラゴンでも連れてこい!」
要塞から放たれた銃撃はウロコの体に全て弾かれている。鎧すら貫通するミニエー弾でも、ドラゴンの厚い鱗には無力でしかない。しかし、彼等は自らが罠に向かって突進しているのを知らなかった。
「行けー! そのままチンケな要塞なんぞぶっ壊して――うお!?」
「グオオオオォ!?」
要塞まであと少しと言ったところに到達したウロコは、突如陥没した地面に頭からはまり込む事になった。スピードの乗った巨体は落とし穴に勢いよく突っ込んで、底にあった土砂を盛大に巻き上げながらひっくり返って停止する。当然後ろを馬で進んでいたランケア達も急に止まれるはずもなく、後ろから押されるように次々と穴の中に落ちていく。
ファングはこの落とし穴を本来騎馬隊を想定して掘っていたのだが、ドラゴンの足が予想以上に速かったのと、ランケア達騎馬隊がドラゴンの後ろについてくると言う戦法をとったため、想定外の相手が罠にはまった形になった。
一番厄介なドラゴンがまさかの急停止。この嬉しい誤算にファング隊は俄然活気づき、兵の体から強ばりがなくなって、砲の装填速度も上がっていく。
「いつ~……クソッタレが……! なんなんだまったく……」
もがくウロコの手足を必死に避け、穴から這い出たランケアが見た光景――それは自分に向けられたカノン砲が火を噴く瞬間だった。彼にとって幸運だったのは即死できた事だろう。彼の背後にいた傭兵達や、身動きの取れないまま多数の砲弾の直撃を受けたウロコは、体のあちこちを引き裂かれ、抉られ、そぎ落とされて絶命していったのだから。いかに頑丈なドラゴンと言えど、至近距離から大砲の直撃を受けて無事で済むはずがなく、竜鱗団自慢のドラゴンはろくに活躍の場も与えられないまま、苦しみの声を上げて肉片へと姿を変えていった。
「ウ、ウロコが……!」
頼みのドラゴンと団長が戦死した事で、動揺した竜鱗団の傭兵が逃げだそうとしたものの、ファング隊の砲撃は容赦なく彼等を蹂躙していく。まるで地面を大砲で耕しているかのような蹂躙劇は小一時間ほど続き、空と陸、双方で死と破壊を量産していった。
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