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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第100話 天翼団と竜鱗団

デール王国の王都から離れること徒歩で半日。そこには広大な牧草地がある。季候も良く、王都の近くだけあって、平時ならピクニックにでも使われそうな場所なのだが、今はまるで様子が違っていた。難民キャンプを思わせるようなテントが無数に立ち並び、人と動物の糞尿が垂れ流しなのか、凄まじい臭気を周囲に放っている。臭いの原因である人間はどいつもこいつも人相が悪く、人を殺すことを生業にしている連中だと一目でわかる。杭につながれた動物は一見馬のようだが、馬と大きく違った部分があった。それは背中に生えた巨大な羽だ。この動物の名はペガサス。馬の姿に羽の生えた魔物で、空を自由に飛び回ることが出来る。ちなみに流星拳は使えない。


この地に駐留している彼等の名は天翼団。大陸各地で名を馳せる凄腕の傭兵団だ。所属する兵のほとんどが天馬を操るという特殊な傭兵団であり、機動力は他の追随を許さない。彼等はフランが大金を払って呼び寄せた予備戦力であったのだが、この場合捨て駒として投入される予定だった。


天翼団の団長であるホースと言う名の親父は、王都から駆けてきた早馬を出迎えると、特に礼を取る事も無く座ったまま話を聞く。


「――なので、ホース殿は今すぐ軍を率いて南下して欲しい。少し遅れて我が軍主力と、同じ傭兵団である竜鱗団も駆けつける予定だ」
「へいへい。わかりましたよ。前金は受け取ってるしな。やれというならやりますよ」


伝令役を務めるのは大体が良い家に生まれた若い騎士だ。彼等は育ちが良いだけ合って、礼儀作法は徹底的に叩き込まれている。そんな彼からすれば、礼儀の欠片もなく相手への敬意も感じられないホースの態度は不快以外の何物でもない。


「……確かに伝えたぞ。では失礼する」


そう吐き捨てるように言って野営地を後にしようとする伝令に、傭兵達の下品な笑いが浴びせられる。金と酒と女にしか興味のない傭兵にとって、真面目な騎士はからかいの対象なのだ。騎士が激高して向かってくれば、それが王からの使いであろうと実力で叩きのめす。それが彼等傭兵の流儀だった。


「団長。本当に出るんですか?」


騎士が去った後、副団長である小男がホースに尋ねた。傭兵団と言う存在は、勇ましい名前と違って正面切って戦うのはあまり多くない。命あっての物種だし、形勢が不利と見るやさっさと逃げ出すのが常だ。それだけに彼等はデール王国だけでなく、各国の正規軍から良く思われていない――が、戦力的に厳しい軍はそれが解っていても雇わなければならない場合があるのだ。


副団長の質問にホースは肩を竦めてみせる。真面目にやる気などない――言葉にしなくてもそれだけで副団長は理解した。


「まあ一当たりしてみんと駄目だろうな。流石にサボってばかりじゃ今後の活動がやりにくくなる。どうせ敵は地上軍だけだろう? いつも通り、空から槍でも降らせれば終わるさ。出撃の準備をさせろ!」
「へい!」


テントを飛び出した副団長の指示で、野営地は一気に騒がしくなっていく。ペガサスに鞍を取り付け、テントを畳み、自分達の装備を身につけていくのだ。彼等がそうやって忙しくしている頃、より前線に近い似たような牧草地でも、彼等と同じように忙しく動いている連中がいた。


「まったく……! いきなりやって来てすぐに出撃しろとは! 連中は何を考えてやがる!」


天翼団同様に、急な出撃を命じられた彼等は竜鱗団と言う名の傭兵団だ。知名度と戦力は天翼団程でないが、彼等は他の傭兵団とは違う強みがある。竜鱗と言う名の元になったドラゴンを飼い慣らしているのだ。ドラゴン――言わずと知れたファンタジー世界の最強生物。トカゲを大きくして羽を生やしたデザインで、空を飛び口から光線を吐く。高い知能でありとあらゆる言語と魔法を使いこなす上に、金銀財宝を集めるのが好きと言うカラスのような習性を持ち、中には七つの玉を集めるとどんな願いも叶えてくれる特殊能力を持つ個体も居るらしい。そんな最強の生物を飼い慣らしているのなら驚きなのだが、彼等が飼っているのは地竜と呼ばれる知能の低いドラゴンで、ドラゴンとは名ばかりの小さな竜だ。


と言っても大きさは中型トラック程はあり、並の攻撃など簡単に跳ね返す固い鱗と、どんな頑強な鎧も紙のように引き裂く強靱な牙と爪を持っている。そんな生物に人を襲わせれば、少数の軍隊などたちどころに蹴散らせてしまうだろう。


「お頭! ウロコの野郎が腹を空かせて機嫌を悪くしてますぜ!」
「少しだけ食わせて機嫌をとっとけ! 満腹になると動かないし、人を襲わなくなるからな!」


地竜の名はウロコ。この性別不明のドラゴンは、団長であるラケルタが子供の頃、偶然拾った卵から孵したものだ。それ以来ずっとラケルタが面倒を見てきたのだが、所詮トカゲはトカゲ。飼い主程度は認識できても、それ以外の事は全くわからず、隙あらば周囲の人間を餌にしようと牙を剥く有様だ。それでも面倒見だけは良かった団長のラケルタはウロコを捨てることなく育て続けた。もっとも、愛情などとっくに枯渇していたのだが。


「相手の軍は一万そこそこだろ? 天翼の連中もいるし、デール王国の本隊も後詰めで来るそうじゃないか。楽な仕事になりそうだな」


ウロコをけしかけただけで敵は四散する――そう確信したラケルタは、いまいち緊張感の感じられない調子で全軍の出撃を命じた。その先に待ち構える連中が、従来の常識から大きくかけ離れた軍隊である事も知らずに。



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