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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第99話 次の手

「ぶつかる!」
「衝撃に備えろ!」


船体のあちこちに穴を空けながら迫ってくるボードワンの旗艦。もはや衝突が避けられないと判断したロバーツが怒鳴り声を上げた次の瞬間、ドンッ――と、大気を震わせるような衝撃が走った。船上は一瞬の静寂に包まれる。ロバーツが恐る恐る目を開けてみると、目の前まで迫っていた敵旗艦の姿は跡形も無く、代わりに船の残骸が海の上を漂っていた。


「提督! 砲撃が間に合いました! 三笠からの支援もあって、敵旗艦は轟沈です!」


そう。金剛の横っ腹に突っ込んできたボードワンの旗艦は、間一髪の所で装填を終えた金剛の一斉砲撃を至近距離からまともに喰らってバラバラに吹き飛んでしまった。おまけに金剛を助けるべく三笠が攻撃を加えたこともあって、ボードワンの旗艦は影も形も残っていない。一瞬のうちにズタズタに引き裂かれた船の中に居ては生存など不可能で、船の残骸に混じって人体の欠片があちこちに漂っていた。


「残りの敵は!?」
「敵残存艦艇ありません! 我々の勝利です!」


勝利の報告に、甲板に居る者達だけでなく、船内で戦っていた者も一斉に歓声を上げた。笑顔を浮かべつつ肩をたたき、抱擁を交わす乗員達の顔を見ながらロバーツも一瞬顔をほころばせたが、彼はすぐさま気を引き締め直した。


「お前達気を抜くな! 船体の補修や怪我人の手当などやる事は山積みだぞ! 喜ぶのは港に帰ってからにしろ!」
『はい!』


彼の指示で乗員達が各自の仕事に取りかかる。ロバーツはそんな彼等から視線を逸らし、金剛と、それに随伴する三笠等の被害状況に目をやった。


「……こっちは一隻も沈まなかったから良かったが、こりゃ当分戦闘は無理だな。マストは全滅。船体も結構被害が大きい。怪我人も多いだろうし……。予備のマストに交換して種子島に戻るだけでも日数がかかりそうだ……」


敵の主力艦隊を叩き潰したものの自分達も当分動けない。痛み分け――とは言わないが、このまま敵の港湾都市に圧力をかける作戦が台無しになった責任を感じ、ロバーツは唇を噛みしめていた。


§ § §


「陛下、ロバーツ提督から連絡がありました。敵主力艦隊の撃滅に成功。しかし当方も損害多く、作戦の継続は不可能と判断。一旦種子島の母港に引き返すそうです」
「……そうか。ロバーツ達にはよくやったと伝えてくれ」
「承知しました」


ローズからの報告を受けた剛士は予定が狂った事で難しい顔になった。開戦前、剛士、ファング、ロバーツの三人で決めた大まかな流れは以下の通りだ。まず陸でファングが防御主体で動き、敵の出血を強いつつ時間を稼ぐ。その間海でロバーツが敵艦隊を叩いて制海権を得た後、敵港湾都市を軒並み砲撃して海路を遮断。その後ペガサスなどを乗せた艦隊が内陸部への夜間都市空襲を敢行して敵の後方を攪乱した後、敵の戦力を分散させる。そこで初めてファングら陸軍が侵攻を開始し、敵を各個撃破すると言う戦略だった。


しかし、ただでさえ数の少ない海軍の半分以上が当分動けなくなったとなれば、戦略の大幅な変更を余儀なくされる。現状、金剛型二隻の内一隻、三笠型三隻の内二隻が戦えなくなったのだ。


「榛名と妙義は?」
「今の所敵との接触は無いようです。このまま西海岸の攻撃を続行させますか?」


ローズの言葉に剛士は黙って首を振った。海軍力が半減した以上、このまま攻撃を続行させた場合、最悪の事態が起きる可能性がある。西海岸に居る敵が残る二隻に勝てる可能性は低いだろう。しかし、行動不能にするぐらいの結果は出すかも知れない。そうなったら日ノ本海軍は事実上消滅だ。デール王国の全艦艇と引き換えなら問題ないような気もするが、マリアンヌの時のように敵に援軍が現れる可能性も捨てきれないため、剛士は攻撃の続行を断念した。


「いや、このままじゃ種子島と大陸間の守りがガラ空きになる。二隻は一旦引き換えさせて哨戒任務に変更だ。金剛らが修理を完了するまでこちらから手を出さないように厳命しろ」
「承知しました。ファング様にもそう伝えておきます」
「頼む」


すぐ職員に命令を下すローズ。思い通りにならなかった結果に頭を抱えたい気分の剛士だったが、この大陸には彼以上に酷い気分の人物が居た。誰であろう、デール王国の女王であるフランだ。彼女は攻撃を控えるように伝えたはずの海軍が勝手に攻撃を開始し、挙げ句に撃破されたという報告を聞いて一瞬気が遠くなった。文字通り目の前が真っ暗になり全身から力が抜けたので、これが歩いている時や玉座に座っている時など人目を引く場所だったら、倒れ込んだ彼女を見て周囲が大騒ぎになっていただろう。幸い彼女が報告を受けたのは執務室で席に着いていた時だったので、慌てたのは侍従のセルビーだけに留まったが。


「ボードワンは一体何を考えて……なぜそんな事になっているのです! あれほど攻撃を控えろと言ったではありませんか!」


怒りで顔を真っ赤にしたフランがセルビーを怒鳴りつける。今回の件は伝達を他人任せにして自ら動くのを怠ったフランにも責任があるのだが、自分が直接配下とやり取りをするという常識の無いフランにとって、その欠点は理解しようが無かった。


「……申し訳ありません。注意するよう伝えたのですが、一方的に通信を打ち切られてしまって……」
「くっ……!」


ボードワンに文句を言おうにも、既に彼はこの世の人では無い。何か言いたければ自らがあの世に行って、彼の胸ぐらを掴み上げるしか無いのだ。


「それで、敵の動きはどうなりました?」
「沈める事は出来なかったようですが、少なくない損害は与えたようです。母港に引き返していくのを密偵が確認しています」
「……そのまま沿岸部分を攻撃される最悪の事態は避けられましたか。ひとまずは安心ですね……」


追撃が免れたと言っても事態が打開したわけではない。この後どう動くべきか、フランは頭を痛めていた。むやみに攻撃しても返り討ちに遭う。だからといって何もしなければ敵が好き勝手に動いてしまう。ジレンマに捉えられたフランは必死に知恵を絞り、ある一つの結論に至った。


「……仕方ありません。あんな連中の力を借りたくはありませんでしたが、好き嫌いを言える状況でもなくなりましたしね。セルビー、竜鱗団と天翼団に連絡を。敵の主力を攻撃するように命じなさい」
「かしこまりました」


名を口にするだけでも忌ま忌ましそうにするフラン。そんな彼女が嫌う恐るべき戦力が、ファング隊に襲いかかろうとしていた。



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