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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第98話 金剛対三笠

ロバーツの乗艦である旗艦金剛が敵を発見した時、敵からも金剛以下三笠と河内の三隻が発見されている。艦隊決戦ならこのまま真っ直ぐ進んですれ違い様に反航戦を挑むか、丁字戦に持ち込むのが定石だろう。しかし敵は金剛ら日ノ本海軍に挑んでくるどころか、反転して逃げ出したのだ。


「なんだ!? 連中はやる気が無いのか!?」


思わぬ展開にロバーツが戸惑う。陸の戦いを経験したデール王国兵なら逃げ出すのも理解出来る。しかし彼等海軍は一度も金剛と砲火を交えていないのだ。逃げるのには速すぎるタイミングでもある。しかしこれには理由があった。陸で先鋒軍が壊滅したと報告を受けたフランは、同じような被害を避けるため、すぐ海軍に連絡していたのだ。『敵は未知の兵器を所持している。大型バリスタより長射程で高威力の武器を』と。その連絡を受けた海軍は、とりあえず定石通りの戦闘を回避し、様子を見るため日ノ本海軍と距離を取り始めたのだった。


§ § §


「未知の兵器と言われてもな……どう対処したものやら」


デール王国海軍の指揮官であるボードワンは困惑していた。開戦の知らせと同時に意気揚々と出撃した新生デール王国海軍は、三笠型の同型艦に改良を加えた新造戦艦を複数揃え、不埒な日ノ本公国発祥の地でもあり、最重要拠点でもある南の孤島――『種子島たねがしま』を目指していたのだが、それは緊急に入ったフランからの知らせにより中断されることになる。


「ですから、フラン様は不用意に近づくなとおっしゃっています。敵の兵器の性能が解るまで辛抱だと」
「それはわかるが、逃げ回ってばかりでは兵の士気に関わる。実際に自分の目で見てみないことには、対策も何もあったものではない」


フランは配下に命令する時、侍従であるセルビーを通す事が多い。これは彼女が横着なのではなく、この世界における国王と臣下の一般的なやり取りなのだ。その為に無駄に時間がかかり、情報が正確に伝達できないという弊害が未だに根強く残っている。今回もそれが悪い方向に働いたのだった。フランに直接説得されたのなら、不満を覚えつつもボードワンは従っただろう。しかし話している相手が侍従のセルビーなら別だ。自分は艦隊の指揮艦であり侍従に命令される謂われは無い――そう考えたボードワンは、セルビーの忠告に従おうとしなかった。


「敵の武器がいかに強力とは言っても、一撃で艦隊が全滅するほどではないのだろう? なら何処をやられてもいいように散開しつつ包囲し、こちらの射程に入るまで犠牲を覚悟で突っ込むしか無い」
「しかし……」
「悪いがもう敵は目の前だ。フラン様には後で報告する」


いくつかの注意点を聞いただけで、ボードワンは現状選べる最善の手を瞬時に選択していた。それだけでも彼が並大抵の指揮官でないことが解る。兵や船の犠牲を厭わない非情な決断だったが、彼等にとってそれは唯一の勝機でもある。


「ボードワン様! 予定通り我が艦隊は敵艦隊の周囲に散らばりました!」
「よし! 信号送れ! これより突入を開始する!」


等間隔で距離を取る味方の船に対して手旗信号が送られると、それを確認した船は次の船へ同じ信号を送っていく。デール王国海軍の全ての艦艇は進路を輪の中央――つまり金剛ら日ノ本海軍に向けて舵を切った。急速に縮まっていく彼我の距離。接近しつつ大型バリスタの発射準備を急がせていたボードワンの耳に、突然雷のような轟音が響いてきた。


「な!?」


金剛の横っ腹が火を噴いたと思ったら、自分の目前に居たはずの味方の船が、一瞬にしてバラバラに吹き飛ばされているのが見えた。現在デール王国海軍の中核を担っているのは、三笠と同型の大型船だ。従来の船を大きく上回る性能は他国の海軍を圧倒しうるに十分な力を持っている。そんな彼等の自信作が、ただの一撃で粉砕されてしまったのだ。まさに轟沈である。


「ぼ、ボードワン様!」
「狼狽えるな! ここで引けば敵の思うつぼだ! 接近してこちらの射程に入りさえすれば数の差で勝てる! 進めー!」


取り囲まれている状態の金剛、三笠、河内の三隻は、輪の中心で円を描くようにゆっくりと回転しつつ攻撃を続行している。砲撃を受けたデール王国の船はそのほとんどが轟沈ないし大破しているが、彼等はそんな犠牲を顧みること無く金剛らに迫った。


§ § §


「提督! 敵の足が止まりません!」
「やるな! 敵の指揮官は肝が据わってやがる! 攻撃の手を緩めるなよ!」


当初デール王国海軍の艦艇は二十隻からなる大艦隊だったにもかかわらず、金剛らに近づくまでにその数を半分近くに減らしていた。それでも彼等の足は止まらない。そしていよいよ大型バリスタの射程内に金剛らを捉えると、今までのお返しとばかりに猛烈な攻撃を開始した。頭上を凄まじい速度で巨大な矢が過ぎ去っていく。人体に当たればひとたまりも無い攻撃だ。思わず首を竦めそうになるのを堪え、ロバーツは怒鳴り声を上げた。


「三笠と河内に伝えろ! 単縦陣でこの場を突破する!」
「了解!」


うなりを上げて迫る大型バリスタの矢が船体に激突し、激しい衝撃を受ける金剛。後続の三笠と河内にもいくつもの矢が命中しているが、不思議と船体自体には損害が見られなかった。それもそのはず。金剛はもとより、この二年で三笠型も何度となく改修を重ねており、今彼等の体は鉄板で補強されていたのだから。


§ § §


「何故だ! なぜ攻撃が通らん!? 当たっているはずだろう!」


船は全て木造という常識にとらわれたボードワンにとって、鉄で覆われた金剛らの防御力は理不尽を体現したようなものだ。通常弾は当然として、火矢ですら命中してもそれ程効果が見られないのだ。敵の甲板は確かに炎上しているのに、あっという間に鎮火してしまう。これは単に甲板に消火用の砂を持ち込んだだけの単純な消火方法なのだが、興奮したボードワンはそれに気がつかなかった。


既に味方の艦艇は数隻を残すのみとなっている。しかし金剛らも全くの無傷というわけでは無い。船体はともかく帆の防御力など上げようが無いので、多くの矢に貫かれたマストは穴だらけになっていた。速度の低下はいかんともしがたく、そこに突っ込んでくるデール王国海軍。捨て身で突撃してきたボードワンの旗艦が、今正に金剛の横っ腹に激突しようとしていた。





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