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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第95話 降伏勧告

フラン軍先鋒が福岡の目前に迫る頃、剛士の元に予想外の人物から連絡が寄こされていた。CIC職員は普段動く事の無い通信棒が突然稼働し、人の声を話し始めた事に気がつくと、それを手に取り慌てて剛士の元に走り寄る。怪訝な表情を浮かべていた剛士だったが、職員が差しだしたそれを見た途端目を見開き、緊張しながらそっと耳に当てた。


「剛士殿。聞こえますか? 剛士殿」
「聞こえていますよ。何かご用ですかフラン殿」


そう。今剛士の耳に当てられている通信棒は、二年前彼と連絡を取るためにフランが手渡したものだった。懐かしいと言えるほどでもないが、久しぶりに聞くフランの声に剛士は警戒する。


(今更何の用だ? この期に及んで寝ぼけた事を言うつもりじゃあるまいな?)


ゴクリと喉を鳴らす剛士。周囲の職員に対して、情報漏れを防ぐため身振りで声を落とすように指示しながら、剛士はフランの言葉を静かに待つ。しかし、次に剛士の耳に聞こえてきた彼女の言葉は、彼の予想もしないものだった。


「……今回このような事態になってしまった事、私としては大変残念に思っています」


いきなり謝罪ともとれる発言に、フランの言っている意味がわからず、思わず首をかしげる剛士。


(残念に思うとはどう言う事だ? ひょっとしたら、一連の流れはフランではなく、別の何者かによって仕組まれた事だったのか?)


「それはどう言う――」
「様々な行き違いが積み重なり今回のような結果になったのでしょう。ですから剛士殿。無駄な犠牲を出す前に降伏してください。今降伏すれば、貴方をデール王国の一貴族として迎え入れる準備があります。既に我が軍の先鋒は貴方が治める街を攻撃圏内に収め、私の攻撃命令を今か今かと待っているところです。もう一度言います。剛士殿。無駄な抵抗は止めて降伏してください」


剛士の話を遮って、フランは言いたい事だけ言い切ってしまった。そのあまりな態度に剛士は鼻白む。


(何かと思えば降伏勧告か。寝言の方が面白い分まだマシだったな。聞いて損した)


「剛士殿。返答を――」
「何か勘違いしてやいませんかねフラン殿」


今度はフランの話を剛士が遮る。彼は椅子の背もたれに体重をかけると思い切りのけぞり、心底アホらしいと言うように鼻をほじりながらフランに語りかける。


「……勘違いとは?」
「互いの力量差をですよ。こう言っちゃ身も蓋もないが、こっちの戦力はデール王国など歯牙にもかけないほど強力なんだ。この場合、降伏勧告をするのは貴女じゃ無くて、私の方じゃ無いかと言ってるんです」
「――!」


曲がりなりにも剛士は社会人経験者であり、この世界でも同業者や貴族と接触する機会は多かった。その為態度や言葉遣いは特に気をつけており、時には必要以上にへりくだる場合もある。そんな彼がフランと話しているこの時だけは、わざと下品で尊大な態度を取っていた。そんな彼の変化にフランも気がついているのだろう。少しだけ戸惑ったように言葉がつまる。


「それは……いくらなんでも虚勢を張りすぎではありませんか? 貴方が我々に提供した技術によって、我が軍は格段に進歩を遂げているのですよ? なら、数を揃えた方が勝つのが道理ではないですか」
「そこですよ、そこ。少しは不思議に思わなかったんですか? いくら莫大な金を払ったとは言え、命綱である最新鋭の兵器を簡単に売り渡すなんて、そんな都合の良い事あると思いますか?」


小馬鹿にしたような剛士の言葉に、フランがグッと息をのむ気配があった。


「で、では、貴方は最初から我々を騙すつもりで劣った兵器を売ったと?」
「いいえ。騙していませんよ。アメリカじゃあるまいし、モンキーモデルを高額で売りつけるような真似はしない。あれはあの時点で最強の兵器だった。それは断言できる。ただ、そこから新たな兵器を作り出さない――などと言った覚えも無いんです」
「アメリ……?」
「とにかく、無駄な争いを避けるという話には同意できます。フラン殿。降伏しなさい。今なら貴女を我が国の一貴族として迎え入れると約束しますよ」
「な――!?」


さっき言われた事をそのまま返されて絶句するフラン。余裕綽々で降伏勧告を進めたつもりが、いつの間にか剛士のペースで話が進んでいる事に今更ながら気がついた彼女は、冷静さを取り戻すために一瞬間を空けた。


(いけない。彼は奇計奇策を用いる策士。今の話が本当だという確証も無い。そんな簡単に兵器の開発など出来るはずが無いし、こちらだって多くの兵器に改良を加えているのです。落ち着いて……冷静に……冷静になるのよフラン)


すっかり冷静さを取り戻したフランはふぅ――と息を吐くと、最初同様冷たい声色に戻っていた。


「そのような話には乗れませんね。残念です剛士殿。貴方が降伏さえしてくだされば、無駄な犠牲を出さずに済んだというのに」
「こっちも残念ですよフラン殿。今なら何不自由ない生活は保障できたのに。戦後、貴女は罪人として裁かれるか、私の妾をやることになるでしょうな」
「その減らず口が二度と聞けないと思うと残念です。次に私に合う時、貴方は首だけになっているでしょうから」


一方的に通信を打ち切り、フランは通信棒を机に叩きつけた。自分が圧倒的優位に立ちつつ剛士にプレッシャーを与えて判断力を鈍らせるはずが、気がついたら自分の方が手玉に取られていたのだ。プライドの高い彼女にとって、それは何よりも許しがたい結果だった。


(不愉快な男……! 絶対勝ち目などないと言うのに私を見下すように! それに、この私を妾ですって!? 下賤な生まれの男がなんて身の程知らずな……!)


一瞬でも自分が剛士の腕に抱かれている想像をしてしまい、フランは屈辱で叫びだしそうだった。そんな彼女の額には脂汗が浮いており、侍女であるセルビーがハンカチをソッと差し出してくる。


「陛下。やはり奴は降伏しませんか?」
「ええ。それは予想通りなんだけれど……。いえ、いいわ。何でもありません」


長年使えている主の普段見せない態度にセルビーは眉をひそめたが、特に自分からは発言したりしない。助言を求められるならともかく、主に対してああしろこうしろと言うのは、セルビーにとって不遜な行為なのだ。


「それより、先遣隊に攻撃命令を出しなさい。予定通り日ノ本公国制圧作戦を開始すると」
「承知しました。前線の指揮官にすぐ伝えて参ります」


退出したセルビーは、前線とのやり取りをするため通信棒の保管されている部屋へと向かう。そんな彼女を見送るフランは、自分の心の中に湧いた不安を消す事が出来ないでいた。





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