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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第94話 CIC

剛士達が戦いの決意を決めてからしばらくすると、デール王国内に潜伏させているスパイからの情報により、フランが軍を出撃させたとの連絡が入った。それに応じて日ノ本公国全土は戦時体制へと移行した。各地の関所は閉じられ、最前線の街は、出る事は出来ても入る事が出来なくなる。補給のために街に寄った者達へは、次の街まで持つ食料と水が無償で与えられる。これは冒険者か行商人など日々の糧に移動を基本とする人々に対した対策だった。街を守るために造られた堅牢な城壁には、最早旧式化して生産の終わっている火縄銃などが大量に運び込まれ、兵士達の手に渡っていく。


街中にある家屋の上には保湿性の良い薄布がかけられていき、市民総出で水をかけていく。火矢や攻城兵器による火事対策だ。彼等はその後戸締まりを終えると、貴重品を持って街のあちこちに儲けられた空き地へと足を向ける。空き地には大きな看板を手に持った兵士がそれぞれ立っており、自分達の地区の兵士が持つ看板の列に並ぶのだ。そして兵士の誘導に従って地下に設けられた防空壕へと避難していく。


数千単位の人間が特に混乱もなく粛々と行動している。ここまでスムーズにいくのは、月に一回強制参加させられている避難訓練のおかげだった。剛士は自分の領土になった街のほぼ全てに対して、区画整理を始めとする様々な改革を行っている。その最たる例がこの避難訓練だろう。街が攻撃を受けたら、取るものも取りあえず逃げるのがこの世界の住民の普通だ。そんな彼等にとって、あらかじめ逃げる訓練を行うというのは画期的だった。


もちろんここまで出来るまでに様々な困難があった。効果を疑問視する住民達の非協力や、防空壕を造るための労働力の確保に苦労など、越えなければならない課題は山積みだった。それに、国土全ての街に同じような施設を造るのなら、とても二年では足りなかっただろう。なので剛士は最前線の街にのみ防空壕を造り、他の街は避難訓練のみに留めておいたのだ。


「敵の位置は?」
「福岡に接近中です。距離は約30キロ。明日の昼前には到着するでしょう」


剛士達が今いる場所は大陸側にある首都だ。位置は最南端。名を鹿児島。別にこだわりがあってつけた名前ではなく、単に日本の地名を南から順に当てはめていっただけだ。その鹿児島の街の中央には旧フラン城がそびえ立っている。これが現在の王城だった。フランが統治していた頃に比べてあちこち様変わりしているものの、大体の形は変わっていない。


その王城の奥深くには、各地の情報を収集、分析、拡散するべき戦闘指揮所(Combat Information Center)――略してCICが儲けられている。モニターならぬ巨大な黒板にはデール王国の巨大な地図が貼り付けられており、その横の小さな黒板には各地から届けられている情報が随時書き込まれ、職員によって管理されていた。均一な机に事務員が腰掛け会話をする様は、まるでどこかの通販会社にあるコールセンターを彷彿とさせるが、やり取りする情報や緊張度合いはそれらの比ではない。


二年前に魔法使い隊のマリア達を使って剛士が量産させていた通信棒は数を増やし、今では各地に潜伏するスパイは勿論、末端の小隊指揮官にまで所持している。この世界における偵察と言えば陸か空が一般的だろう。だがそれでは情報の伝達が遅く、偵察要員の捕縛や殺害の危険がある。それを解決したのが通信棒による情報伝達の高速化及び多元化だ。


各地域や部隊を担当する職員は、細かい情報を拾い上げて専門の訓練を受けた上官へと回す。その情報を得た者は上と同時に横にも回し、情報の共有化を図る。軍全体の方針は剛士やファング、ロバーツが決定しているが、現場の指揮や部隊単位の補給などは分野の専門家に一任されていた。これは組織の硬直化や軍全体としての動きの鈍化を防ぐためだ。情報収集を行う職員のすぐ横では、各地の物資を管理する部署も忙しく動いている。その為、このCICは約三百人と言う大所帯となっていた。情報を扱うだけの部署でこの人数。この世界の常識では考えられない数だろう。


それだけ重要な区画だけ合って、入退室には厳しい制限が設けられている。身分証や身体検査を何重にもくぐり抜けなければ、ここに入る事は出来ない。それは公王である剛士や軍を率いるファングとて例外ではなかった。


「敵の先鋒はどのぐらいの数だ?」
「約五千です。デール王国はまず近隣の貴族を我々にぶつけて様子を見るつもりのようです」


剛士の質問に横に立っていた女性が淀みなく答えた。彼女はこの場における統括責任者のローズだ。かつて大陸にあった日ノ本商会の店舗責任者であったローズは、戦時における判断力や行動力、そして冷静さを大きく評価され、今や国における最重要施設の責任者に成り上がっていた。


「福岡の戦力は?」
「守備兵が二千。配備されている火器は火縄銃が三百にカノン砲が十五。後は弩が四百と大型バリスタが二十です」
「時間を稼ぐには十分な数だな。福岡だけでも先鋒ぐらいなら撃退できそうか」
「はい。しかし速く援軍を送らなければ――」
「解っている。ファング達の動きはどうだ?」


ローズは何かを確認するように黒板へと目を向けると、すぐ剛士に視線を戻した。


「ファング将軍率いる本隊は福岡到着に丸二日かかる計算です。現在は熊本で補給中ですね。ロバーツ提督は旗艦金剛、三笠、河内を率いて島を出ました。そのまま東回りで大陸沿いの港街に示威行動を取る予定です。榛名と妙義は西回りで向かっています」


新型の戦列艦はこの二年の間、二隻が完成していた。旗艦となるのはネームシップとなる金剛。そして二番艦は榛名だ。三笠は随伴艦扱いとなり、既に完成していた三笠型の河内と妙義も同じ扱いとなる。二年前に比べると、公国の海軍力は大幅な戦力強化が図られていた。その為、日本丸は完全に武装を取っ払い、商船として扱われるようになっている。


「今の所順調だな。数だけで見ると、とても勝ち目はないんだが」
「ええ。しかし、あれら新兵器の前ではデール王国の兵など枯れ木も同然でしょう」


緊張に体を強ばらせていた剛士と違い、ローズは余裕の態度を崩さない。そんな彼女の様子に剛士はハッとする。


(俺が情けない態度を見せるわけにはいかないな。嘘でも余裕があるように見せないと)


知らず猫背になりかけていた背筋をピンと伸ばし、剛士は正面の黒板を睨み据えて腕を組む。それだけで忙しく働く職員達に笑顔が戻ってきた。


「よし。これからが本番だ。情報を制するものは世界を制する。お前の力に期待しているぞ、ローズ」
「お任せください陛下。この大任、必ず果たしてご覧に入れます」





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