異世界転生チートマニュアル

小林誉

第92話 日ノ本公国誕生

内戦の終結からしばらくするとフランは約束通り、剛士の島の対岸からかつての自分の領地であった範囲を、剛士の領土として与えた。それと同時に独立を承認し、剛士は晴れて公国の国王となったのだ。


公国の名前は『日ノひのもと』つまり呼び名は日ノ本公国ひのもとこうこくと言う事になる。この世界に住む人々にとって馴染みのない名前ではあるものの、大体の人には肯定的に受け入れられていた。


新しく日ノ本公国に組み入れられた土地に住むかつての貴族達の扱いだが、彼等はフランに命じられて強制的に中央付近へ土地替えされている。かなりの反発を招いたようだが、フランが中央へと移り、尚且つ今まで以上に広い領地を与えられるとなった途端、手の平を返した。これは、エルネストやマリアンヌに味方した貴族の大半が処分されたから出来た事だ。


フランによる貴族達の配置転換や賞罰、粛正が中央で吹き荒れている頃、日ノ本公国の公王である剛士は寝る間もないほど忙しい日々を過ごしていた。なにせ今までと違い管理する領土が一気に増えたのだ。末端の仕事は各自に任せてはいるものの、それを誰に任せれば良いのか、人材を確保してどこに配置するかに頭を悩まされていた。


現在日ノ本公国には貴族が少ない。剛士の仲間であるファング、ナディア、リーフは当然として、海軍提督のロバーツ、兵器開発の責任者であるエギル、魔法使いをまとめるマリア、造船所の責任者であるポルトにも、小さいながらもそれぞれ領地が与えられて貴族になっていたのだが、それでもまだ土地には余裕がある。これは将来的に生まれるであろう貴族のために、現段階では直轄地として扱う事が決まっていた。


公国が誕生すると同時に噂を耳にした民達が、デール国内だけでなく周辺国からも多く移住してきた。多様な兵器や生活用品、そして新しい娯楽を生み出し、身一つから王にまで上り詰めた英雄の元で暮らしたい。自分も成り上がりたい。しがらみのない国で一から出直したいなどなど理由は様々だが、彼等が希望を抱いて移り住んできたのは間違いない。


剛士もそんな彼等を拒む事なく受け入れた。住民税を安くして国土の開発を優先し、商業行為に必要な資格をギルドに緩和させるなどして経済活動を活発にさせていった。それでも仕事にあぶれる人間は出てくる。そんな者達は公共での土木工事に雇い入れて食い扶持を与え、向いている者は軍へ勧誘していった。


「すべての道はローマに通ず――じゃないけど、道を整備するのは基本中の基本だ。シム○ティでシティーズ○カイラインでも、道を整備してから区画を造るだろ? 流通が良くなれば経済も上向きになる。だからまずやる事は街道の整備と拡充だ」
「……前半言ってる事の意味はよくわからんが、街道の整備には賛成だ。軍も動員して早急に終わらせよう」


陸軍の責任者であるファングが舵を取り、日ノ本公国の街道は整備が始まった。同時に海軍も規模を大きくする。島の造船所は更に規模が大きくなり、戦列艦クラスが三隻ほど同時に造れるようになっている。大陸側にいくつかある港はそれらが停泊できるように水深や桟橋が工事され、港湾都市へ発展していくだろう。


それと同時に、剛士は国内の冒険者達に多くの依頼を出していた。内容は島で出していたものと同じだ。ダンジョンから取れる鉱石の類を持ち帰れば国が買い取る――と。火薬の大量生産には硝石が必要なのだが、流石に島のダンジョンだけでは数が足りないし、将来的には枯渇するのが目に見えている。これは先を見越した動きだ。


そして、剛士からフランへの武器供与も問題なく完了していた。剛士からは三笠型の一隻と弩二百。フランからはそれと引き換えに、雇い入れた兵に対する莫大な金銭。これで日ノ本商会は借金を帳消しにした上、公国としての運営資金を得たのだ。


三笠と弩を手に入れたフランは早速自国の造船技師を全て集め、三笠の解析と造船を命じた。そして軍に普及している弓を弩へ順次入れ替えていくよう命じ、対日ノ本公国戦への準備を急いだ。


大麻の扱いは日ノ本公国が独占する事になり、フランは今後それらに触れる権限を失ってしまった。商会から買い取る事は出来ても、公国として独立した地の産物を独占販売する事は出来ないからだ。


島における銃と大砲の量産化は完全に軌道に乗っており、職人と射撃手共に熟練者が増えてきている。しかし、火薬と銃、大砲の生産は島でのみ行われており、大陸側に回される事はない。これは火薬兵器を秘匿するために必要な措置だった。


日ノ本公国とデール王国。この両者を比較すると、国土は約6倍差、人口は5倍差ぐらいだろう。先の内戦で大量に戦死者を出したために、デール王国の人口は極端に減っているが、新興国である日ノ本公国は逆に増えていた。互いの勢いの差が明確になった形だ。


常備軍は日ノ本公国が陸軍1万5000。海軍3000。デール王国は陸軍6万。海軍が1万と言った陣容だ。2年も経てば両者ともかなり数の増減はあるだろうが、現状はこの数値だった。


そして二年後。いよいよ事態が動き始める。



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