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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第79話 ブリューエットの処分

広間から離れたところにある場所に案内されたのは、以前フランと会談した部屋だった。外に見張りの騎士、そして中にはフランがいるのは当然として、そこにもう一人予想外の人物がいたのだ。フランとよく似た外見で、目の色が碧く、歳も少し上の女性。ドレスなどは身に纏っていないが、高級な生地で仕立てられた服を着ている。その女性は手を後ろ手に縛られた上に猿轡を噛まされ、荷物のように床に転がされている。彼女は不満げな視線でフランを睨み付けていた。戸惑う四人に向かって、フランはその女の事など視界に入っていないような態度で話しかけてくる。


「ようこそ皆様。ささ、そちらにお掛けください」
「は、はあ……」


笑顔を浮かべたフランの異様な雰囲気に飲まれ、四人は大人しく席に着く。しかし視線は縛られた女に固定されたままで、目の前にあるお茶やお茶請けにはまるで意識がいっていない。そんな彼等の様子にフランは一つ咳払いをすると、立ち上がって女のすぐ側まで歩くと、冷たい目で見下ろした。


「お気づきかも知れませんが、この者こそ先日まで私と争っていたブリューエット、その人です。本日皆様をお招きしたのは、この者の処分について相談をしたく思ったからです」


ひょっとして……とは思っていても、やはりフランの口からブリューエットだと知らされれば少なくない衝撃がある。元王族として優雅な暮らしをしていた女が、今や虜囚の身になって床に転がされているのだ。栄枯盛衰とは言うが、あまりに無残な現状に言葉もない。


(戦いの結果次第じゃ、俺やフランがこんな目にあってたかも知れないのか。……怖いな本当に。しかし俺達にブリューエットの処分を相談ってどう言う事だ? 確かに力は貸してるけど、王族の処分に口を出せる立場でもないと思うが……)


疑問に思っているのは剛士だけではないようで、他の三人も似たような表情だ。フランも彼等の疑問は言わずとも解っているのだろう。説明を始めた。


「今の時点で私が彼女に考えている処分は、まず処刑です。殺した方が後腐れもなく、再び蜂起される心配もありませんしね」


処刑と言う言葉に、ブリューエットがビクリと体を震わせる。今までその可能性を考えなかったのか、しきりに首を振りながらウーウーと唸り始めた。顔は完全に青ざめ、目からは涙が溢れている。しかしフランはそんな彼女に構う事なく、淡々と説明を続けていく。


「次に奴隷契約をして、このまま元の地位に就かせる方法。しかしこの場合、こちらにメリットがないので却下です。となれば奴隷商にでも売って戦の資金にするべきでしょうか? 元王族の姫ともなると、かなりの大金が動くはずですから。有力な商人が競って競り落とそうとするかも知れません」


処刑は嫌だが奴隷落ちも嫌だとばかりに、ブリューエットはしきりに首を振っている。ナディアやファングなどはフランの辛辣さにドン引きしているが、剛士とリーフはそうでもない。もともと処刑ぐらい当然と思っていた剛士と、他人に興味のないリーフの反応ならこんなものだろう。


「でも、悩みどころなんですよ。いずれかの手段を選んでも、今後の統治に多少の影響が出そうなのです。ブリューエット姉様に対する処分次第で、配下だった貴族達が土地を放棄してでもエルネスト兄様やマリアンヌ姉様の陣営に走る可能性がありますから。そこで相談なのですが、剛士殿。貴女は独身ですよね?」
「は? え、ええ……まあ。独身ですけど?」


突然既婚かどうかと質問されて目を白黒させる剛士。話の流れが読めないのだ。


「私はこのままブリューエット姉様を貴方に嫁がせて、貴方と私を縁戚にしてしまおうと考えています」
「はぁ!?」
「えぇぇ!」
「嫁!?」
「冗談でしょ!?」
「ウウゥ!?」


驚いていないのはフランだけだ。四人とブリューエットは目を見開いて驚愕の表情を浮かべている。


「剛士殿。これは将来独立し、王となる貴方にとっての餞別だと考えていただきたいのです。一商人が成り上がり、国王にまでなるのは確かに偉業でしょう。人々は貴方を褒め称え、英雄だと持ち上げるに違いありません。しかし、全ての人間が貴方に好意的であるかどうかと問われれば、それは明確に否と言えます。成り上がり、卑しい生まれ、馬の骨などなど、口さがない者達は好き勝手に言うはずです」
「…………」


(確かにそれはある。つまりフランは、少しでも俺に箔をつけさせるためにブリューエットの身柄を引き渡すと言うんだな。俺に対して恩を売りたいってわけか……。処刑や奴隷落ちより遙かにマシだとは言え、自分の姉を躊躇なく道具扱いするのは、流石王族ってところかな。肝が据わってる。それに処刑や奴隷落ちと違って、嫁に出すなら貴族達の反発も少ないってわけか)


内心冷や汗をかきつつ、剛士は瞬時に頭を働かせる。ブリューエットを受け入れた場合と、断った時に受けるメリットやデメリットをだ。今の所剛士の領地候補となっている地域は、フランの本拠地ロシェルと、ブリューエットの支配地域の一部に及ぶ。となれば、彼女を受け入れて後の統治をしやすくした方がいいかもしれない。逆に断るとどうなるだろう?
ブリューエットは良くて奴隷落ち、悪くすれば処刑。剛士はフランに悪い印象を持たれて帰るだけだ。何もいい事が無い。となれば、答えは一つだろう。


「ブリューエット姉様を伴侶として迎え入れれば、そんな声も少しは弱まるはずです。如何ですか剛士殿。この話を受け入れていただけますか?」


剛士は即答を避け、仲間達の顔を見る。ナディアやファングは複雑な表情をしているが、特に反対する様子もない。リーフは事態の流れに興味があるだけのようで、剛士の結婚自体には興味を示していない。つまり、剛士の意思次第というわけだ。


「……お受けします」
「良かった! 断られたらどうしようかと思っていました。それではすぐに準備をさせますね。セルビー」
「かしこまりました」


主の意を汲み、セルビーは静かに退室していく。準備という言葉に引っかかりを覚えた剛士だったが、それよりもフランの動きに気を取られていた。フランはさっきから涙目で唸っているブリューエットの体を突然起こすと、その猿轡をむしり取ったのだ。


「ぷはっ! フ、フラン!? 貴女何を考えているの! 私をこんな冴えない男に嫁がせるなんて! 王族をなんだと思って――」
「黙りなさい」


不意に放ったフランの腕の一振りが、ブリューエットの顔面に叩き込まれる。バシッ! と言う効果音でも聞こえてきそうなその勢いに、剛士は思わず首を竦めた。


「な!? 殴ったわね!」


驚くブリューエットの頬を、フランは再び張り倒す。為す術もなく喰らったブリューエットはそのまま床にひっくり返り、目を白黒させていた。


「二度もぶった! お父様にも殴られた事ないのに!」


(ア○ロかお前は……)


無言でツッコミを入れる剛士を余所に、フランはブリューエットを冷たく見下ろす。


「ブリューエット姉様。ご自分の立場を理解出来ていないようですから、体に教えて差し上げただけですわ。今の貴女はただの道具。処刑されないだけマシだと思いなさい。貴女はこれから全身全霊を持って剛士殿に仕え、心身共に彼を癒やして差し上げるのです。言っている意味……解りますよね?」


フランの言葉にブリューエットの顔色が変わる。つまり、フランはブリューエットに対して、剛士に抱かれろと言っているのだ。女なんだから体を使ってご機嫌取りをしろと。貴族の家に生まれれば政治的配慮で娘を差し出す家もあるだろう。しかしそれは力の弱い家の話で、王族がやる事ではない。あまりと言えばあまりの指図に、ブリューエットは口をパクパクとさせている。


「逆らおうと思っても無駄ですよ。貴女の意思は関係ありません。無理矢理そうさせますから」


そう言ってフランが視線を向けた先には、セルビーに伴われた奴隷商のイヴだった。


「フラン様。ご要望の品はこちらに」
「これが……なるほど。確かに特別な力を感じますね」


イヴが差し出した小さな箱には一つの指輪が収められていた。フランはそれを摘まみ上げると、物珍しそうにかざして見せている。それが何を意味するのかわからず、剛士は首をかしげた。そんな彼の疑問に答えたのはイヴだ。


「それは?」
「これは、特別に用意された奴隷専用の指輪です。高貴な生まれの方を奴隷にする場合、他の奴隷と同じように首輪を着けるわけにはいきませんから、指輪の形にしているのです。指輪になっていても効果は首輪より協力で、命令に逆らうと全身に激しい激痛が走るのですよ」


言うなれば奴隷の指輪と言ったところか。装備した途端妙な効果音と共に城からも街からも追い出されそうな呪いのアイテムを手に取り、フランはゆっくりとブリューエットに近づく。ブリューエットは縛られながら芋虫のように体をよじり、必死に逃げようとしている。


「止めて! フラン止めてちょうだい! いくらなんでも酷すぎるわ!」
「諦めなさい姉様。貴女はもう終わりなのです」


護衛の騎士がブリューエットの身柄を押さえつける間、フランは彼女の指に無理矢理指輪をはめてしまった。瞬間、ブリューエットの全身が淡い光を放つと同時に、電気が走ったようにのけぞった。奴隷契約が体を作り替えているのだろう。声もなくもだえていたブリューエットだったが、やがて落ち着いたのか、息も絶え絶えになってフランを睨んだ。フランはそんな視線を無視して、騎士達に目配せをする。すると騎士達はブリューエットの拘束を解いていった。


「フラン……貴女……こんな真似をして……」
「立ちなさい」


フランが命令した途端、ブリューエットは反射的に立ち上がる。本人の意思と無関係に体が動いたようで、その目は驚愕に見開かれていた。


「ふむ。契約は上手くいっているようですね」
「当然です。いい加減なものをフラン様に差し上げる訳にはいきませんから」


(今のやり取り……ブリューエットの主はフランになったって事か。俺の嫁にするって言うなら、俺を主にするべき何じゃないのか?)


内心不満に思いつつも、一度交わしてしまった契約は今更変えられないと解っているだけに、剛士は口をつぐんだ。


「さて、それではブリューエット姉様。貴女に与える事が出来る二つの絶対命令権。その内の一つを早速行使させていただきます」


フランは指輪に手を添えると、力のこもった声でブリューエットに対して命令を下す。


「フランの名において命じます。ブリューエットよ。剛士殿のために全身全霊を持って仕え、彼の欲望を満たして差し上げなさい」


「なんて事を! そんな命令私が――」


言葉の途中で再び体をのけぞらせたブリューエットは、まるで稲妻に打たれたかのように床に倒れ込んだ。そしてゆっくりと体を起こし、そのまま剛士の目の前に跪く。自分の行動が信じられないのか、ブリューエットは小刻みに口を震わせている。


「体が勝手に……! 何でこんな!」
「命令も上手く機能しているようです。では剛士殿。後はいかようにも彼女をお使いください。領内で働かせるなり、子を産ませるなり、貴女の自由です」


笑顔でそう言うフランに対して、剛士を始め四人は底知れない恐怖を感じていた。この女は、いざとなれば誰でも切り捨てる冷酷さがあると、そう本能で感じ取っていたのだ。まるでそんな彼女の視線から逃げるように、剛士は頭を下げる。


「フラン様。過分なご配慮、ありがとうございます。このご恩に報いるためにも、今後は十分以上にご助力させて頂きます。それでは、本日はこれにて失礼させていただきます。ブリューエット、ついて来い」


(怖い! 怖いよこの女! ただの甘いお姫様かと思ってたのに、中身が鬼だ!)


そそくさと急いで席を立つ四人と、戸惑いながら後に続くブリューエット。そんな彼等の背中を、フランは笑顔を浮かべながら眺めていた。



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