異世界転生チートマニュアル
第75話 前哨戦
三笠と日本丸が敵の海軍を叩いている頃、フランとブリューエットの主力がそれぞれ前哨戦を始めていた。戦場は国境ならぬ領土の境目。お互いが先行していた偵察隊を発見し、後続部隊が駆けつける形になったのだ。
フランの全軍が約二万。ブリューエットの全軍が約一万八千。双方合わせて四万近い大軍だが、そんな大軍がぶつかる事の出来る地形がそれ程あるわけでも無く、会敵したのが狭い山間だったため、直接戦闘に加われたのは千が良いところだった。まず敵を発見した両軍は互いに停止して援軍を待ち、それが到着してから遠距離攻撃の応酬が始まった。投石機など移動させにくいものを最前線に持って行くと乱戦時に放棄するしかなくなるので、攻撃手段は互いに弓だ。前に進み出た弓兵が大きく斜めに構え、手に持った弓から次々と矢を大空へと放っていく。放物線を描いた矢は落下の勢いを加えて敵軍に殺到し、犠牲者を増やしていった。負傷者が続出して味方に後方へと運ばれていく中、盾を構えた兵がゆっくりと前に進み出て、敵との距離を詰めていく。そしてある程度近寄ったら勢いよく走り出し、互いに剣や槍をぶつけ合うのだ。
「ぎえっ!?」
「ぐぎゃっ!」
「ぎゃあああ!」
体の一部を切り裂かれ、貫かれる者達が地へと倒れ伏していく中、無事な兵は次の獲物を求めて戦場を駆ける。激しい戦いが起こっているのは前線ばかりではない。頭上には敵の後方を狙った矢や魔法攻撃が行き交い、炸裂音と共に飛び散る人体や、焼け焦げたり凍り付いたり、はたまた石で押しつぶされたりする兵が現れては倒れていく激戦が続いている。
両軍とも貴重な魔法使いをここぞとばかりに投入し、敵軍を打ち破ろうとしていた。しかし、それにも次第に差が出てくる。ブリューエットの軍が攻勢を強め、フランの軍が押され始めたのだ。
「怯むな! 踏ん張れ! 押しかえ――」
味方を鼓舞しようと怒鳴り声を上げていた士官の一人が、飛んできた矢に頭を貫かれて落馬すると、彼の指揮していた小隊の隊員が勝手に退却を始めた。互角の戦いを演じていたのなら、当然空いた穴には敵がなだれ込んでくる。すると正面だけに注意していた他の部隊が横合いから攻撃を受ける事になり、抵抗むなしく倒れていく。それが連鎖的に続き混乱に拍車がかかる。そうなったらもうお終いだ。ボヤボヤしていると自分達は逃げる隙もなくなり命を落とす――最前線戦う兵達のほとんどがそう考えるまで、大した時間を必要としなかった。
一旦崩れ始めたらもろいものだ。もともと先鋒はフランの正規軍ではなく、周辺貴族の士気が低い軍が勤めていたために粘りがない。恐慌状態に陥った彼等は我先にと逃げ出して、後方で待機していたフラン軍主力と押し合うという、無様な姿をさらけ出した。
「どけ! どけってんだ!」
「早く下がれよ! 敵が追いついてくるだろうが!」
「逃げるな! 戦え! ここで踏ん張らなければ負ける!」
「もう負けてるんだよ馬鹿野郎!」
逃げようとする兵と踏みとどまろうとする兵。そんな混乱を敵が見逃してくれるはずもなく、ここぞとばかりに突進してきた。
「今だ! 追撃を仕掛けろ!」
「身の程知らずな第三王女派に現実を教えてやれ!」
「手柄の立て放題だ! 者ども、俺に続――が!?」
今まさにフランの軍へ到達しようとしていた敵軍に、どこからともなく飛来した矢の雨が突き立てられる。完全に予想外の方向からの奇襲に浮き足立ったところに、第二波の矢が殺到した。それを見た敵の指揮官は咄嗟に盾を構え身を守ろうとする。
「盾を構えろ! 矢が来るぞ!」
指揮官の声に反応した兵は多く、多くの矢が虚しくはじき返され――たりはしなかった。盾に激突した矢は、乾いた音と共に周囲に向けて粉末を撒き散らしていったのだ。
「がはっ!?」
「ゲホッ! ゲホゲホッ!」
「な、なんだこれは!? 目が痛い! 喉が!」
たった今横合いから矢の雨を降らせたのは、剛士が派遣した島の弩兵百だ。彼等は戦いが始まった途端に前線から離れ、絶好の狙撃ポイントに向けて移動していたのだ。弩兵の放つ矢の射程を知っているフランの軍なら、彼等のそんな行動を見逃しはしなかっただろう。しかしブリューエットの軍はそれを知らない。遠く離れた位置に移動したとしても、とても攻撃など届かないと高をくくっていた。そんな彼等は遊兵だと思っていた敵から思わぬ攻撃を受けた。しかも彼等が受けたのはただの矢ではなく、剛士の発明した特殊弾頭――催涙弾を装備した矢だ。
ただの弓なら、鎧や盾に阻まれて倒せる数もそれ程ではない。しかし催涙弾なら話は別だ。広範囲に、しかも敵味方関係無く被害を与える未知の兵器に、今度はブリューエットの軍が混乱に陥った。
「今だ! 敵が混乱している内に引け!」
「退却! 弓兵が足止めをしている間に退却しろ!」
「怪我人を置いていくな! 担いででも必ず連れて行け!」
本来なら混乱してる敵目がけて突撃し、思う存分手柄を上げたいと両軍の兵が思っただろう。ブリューエット側の兵はそれでも何人かが追撃しようという動きを見せたが、それは弩兵に狙撃されて阻止される。対してフランの軍は最初から後退を目的とした戦いだったので、一度撤退が決まれば素早い。予め用意してあった罠を置き土産として、さっさと戦場を離脱してしまった。そして味方の退却を見届けた後、弩兵達も特殊弾で敵の足を止めながら、悠々と退却していったのだ。
この前哨戦で受けた被害は、フラン軍が死者三百名。負傷者六百名に対し、ブリューエット軍は死者百名、負傷者七百名だった。フラン軍の死者が多いのは、主に退却前の混乱が理由である。ブリューエット軍は死者が少ない割に負傷者が多い。これは催涙弾で目や喉をやられたり、転んだ拍子に負傷した者や、味方の武器に当たった者が多かったためだ。
フラン軍は陣容を立て直すために一時後退し、ブリューエット軍はフラン領に少し侵入したところで停止した。互いに第二戦に向けての準備のために見えたが、これが単なる時間稼ぎであるとは、ブリューエット軍の誰も気がついていなかった。
フランの全軍が約二万。ブリューエットの全軍が約一万八千。双方合わせて四万近い大軍だが、そんな大軍がぶつかる事の出来る地形がそれ程あるわけでも無く、会敵したのが狭い山間だったため、直接戦闘に加われたのは千が良いところだった。まず敵を発見した両軍は互いに停止して援軍を待ち、それが到着してから遠距離攻撃の応酬が始まった。投石機など移動させにくいものを最前線に持って行くと乱戦時に放棄するしかなくなるので、攻撃手段は互いに弓だ。前に進み出た弓兵が大きく斜めに構え、手に持った弓から次々と矢を大空へと放っていく。放物線を描いた矢は落下の勢いを加えて敵軍に殺到し、犠牲者を増やしていった。負傷者が続出して味方に後方へと運ばれていく中、盾を構えた兵がゆっくりと前に進み出て、敵との距離を詰めていく。そしてある程度近寄ったら勢いよく走り出し、互いに剣や槍をぶつけ合うのだ。
「ぎえっ!?」
「ぐぎゃっ!」
「ぎゃあああ!」
体の一部を切り裂かれ、貫かれる者達が地へと倒れ伏していく中、無事な兵は次の獲物を求めて戦場を駆ける。激しい戦いが起こっているのは前線ばかりではない。頭上には敵の後方を狙った矢や魔法攻撃が行き交い、炸裂音と共に飛び散る人体や、焼け焦げたり凍り付いたり、はたまた石で押しつぶされたりする兵が現れては倒れていく激戦が続いている。
両軍とも貴重な魔法使いをここぞとばかりに投入し、敵軍を打ち破ろうとしていた。しかし、それにも次第に差が出てくる。ブリューエットの軍が攻勢を強め、フランの軍が押され始めたのだ。
「怯むな! 踏ん張れ! 押しかえ――」
味方を鼓舞しようと怒鳴り声を上げていた士官の一人が、飛んできた矢に頭を貫かれて落馬すると、彼の指揮していた小隊の隊員が勝手に退却を始めた。互角の戦いを演じていたのなら、当然空いた穴には敵がなだれ込んでくる。すると正面だけに注意していた他の部隊が横合いから攻撃を受ける事になり、抵抗むなしく倒れていく。それが連鎖的に続き混乱に拍車がかかる。そうなったらもうお終いだ。ボヤボヤしていると自分達は逃げる隙もなくなり命を落とす――最前線戦う兵達のほとんどがそう考えるまで、大した時間を必要としなかった。
一旦崩れ始めたらもろいものだ。もともと先鋒はフランの正規軍ではなく、周辺貴族の士気が低い軍が勤めていたために粘りがない。恐慌状態に陥った彼等は我先にと逃げ出して、後方で待機していたフラン軍主力と押し合うという、無様な姿をさらけ出した。
「どけ! どけってんだ!」
「早く下がれよ! 敵が追いついてくるだろうが!」
「逃げるな! 戦え! ここで踏ん張らなければ負ける!」
「もう負けてるんだよ馬鹿野郎!」
逃げようとする兵と踏みとどまろうとする兵。そんな混乱を敵が見逃してくれるはずもなく、ここぞとばかりに突進してきた。
「今だ! 追撃を仕掛けろ!」
「身の程知らずな第三王女派に現実を教えてやれ!」
「手柄の立て放題だ! 者ども、俺に続――が!?」
今まさにフランの軍へ到達しようとしていた敵軍に、どこからともなく飛来した矢の雨が突き立てられる。完全に予想外の方向からの奇襲に浮き足立ったところに、第二波の矢が殺到した。それを見た敵の指揮官は咄嗟に盾を構え身を守ろうとする。
「盾を構えろ! 矢が来るぞ!」
指揮官の声に反応した兵は多く、多くの矢が虚しくはじき返され――たりはしなかった。盾に激突した矢は、乾いた音と共に周囲に向けて粉末を撒き散らしていったのだ。
「がはっ!?」
「ゲホッ! ゲホゲホッ!」
「な、なんだこれは!? 目が痛い! 喉が!」
たった今横合いから矢の雨を降らせたのは、剛士が派遣した島の弩兵百だ。彼等は戦いが始まった途端に前線から離れ、絶好の狙撃ポイントに向けて移動していたのだ。弩兵の放つ矢の射程を知っているフランの軍なら、彼等のそんな行動を見逃しはしなかっただろう。しかしブリューエットの軍はそれを知らない。遠く離れた位置に移動したとしても、とても攻撃など届かないと高をくくっていた。そんな彼等は遊兵だと思っていた敵から思わぬ攻撃を受けた。しかも彼等が受けたのはただの矢ではなく、剛士の発明した特殊弾頭――催涙弾を装備した矢だ。
ただの弓なら、鎧や盾に阻まれて倒せる数もそれ程ではない。しかし催涙弾なら話は別だ。広範囲に、しかも敵味方関係無く被害を与える未知の兵器に、今度はブリューエットの軍が混乱に陥った。
「今だ! 敵が混乱している内に引け!」
「退却! 弓兵が足止めをしている間に退却しろ!」
「怪我人を置いていくな! 担いででも必ず連れて行け!」
本来なら混乱してる敵目がけて突撃し、思う存分手柄を上げたいと両軍の兵が思っただろう。ブリューエット側の兵はそれでも何人かが追撃しようという動きを見せたが、それは弩兵に狙撃されて阻止される。対してフランの軍は最初から後退を目的とした戦いだったので、一度撤退が決まれば素早い。予め用意してあった罠を置き土産として、さっさと戦場を離脱してしまった。そして味方の退却を見届けた後、弩兵達も特殊弾で敵の足を止めながら、悠々と退却していったのだ。
この前哨戦で受けた被害は、フラン軍が死者三百名。負傷者六百名に対し、ブリューエット軍は死者百名、負傷者七百名だった。フラン軍の死者が多いのは、主に退却前の混乱が理由である。ブリューエット軍は死者が少ない割に負傷者が多い。これは催涙弾で目や喉をやられたり、転んだ拍子に負傷した者や、味方の武器に当たった者が多かったためだ。
フラン軍は陣容を立て直すために一時後退し、ブリューエット軍はフラン領に少し侵入したところで停止した。互いに第二戦に向けての準備のために見えたが、これが単なる時間稼ぎであるとは、ブリューエット軍の誰も気がついていなかった。
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