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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第70話 増員

「エドガーや彼の主立った家臣は捕らえ、牢に放り込んだと連絡がありました。軍の主力は帰還予定ですが、一部はジェラール将軍と共に街に駐留し、治安維持と復旧に当たるそうです。それと、今回の攻撃による住民の被害は軽微です」
「そう。住民の犠牲が少なかったのは何よりです。まずは勝利を祝いましょう」


セルビーから勝利の一報を聞いたフランに笑顔は無い。もともと勝って当然の戦力差の上に、三笠による背後からの奇襲攻撃まで加わったのだ。負ける方がどうかしている。


「いずれ事を構える事になると解っていても、いざ始まってしまうと憂鬱ですね。これでエルネスト兄様はこちらを完全に敵と見なしたはず。自分に大人しく従うならともかく、明確に敵対行為に及んだら、もう一切の容赦はしないでしょう」


腹違いとは言え、兄妹であるのにろくに会話も無かった兄の事を思い出し、フランはそっとため息を吐く。


フランの兄エルネストは、幼い頃から王となるべく育てられた人間だ。誰もが自分にかしずくのを当然と思い、他人の命を何とも思わない冷血漢だ。それは兄妹であるフランや他の王女達にも同様で、自分に敵対するなら容赦なく排除すると常日頃から公言していた。


王という立場なら大局的な視点は必要だし、時には多数の為に少数を切り捨てる決断もしなければならない。その点で見ると、彼の性格は王に向いていると言えなくもない。しかし、彼の欠点は王向きであるとされるその性格にあった。


あまりにも自分本位で他者の事情を鑑みる事無く理不尽な命令を下し、少しでも躊躇しようものなら容赦なく処罰を繰り返したため、彼の周りには彼の意見に反対する事を恐れるイエスマンばかりが集まり、誰も彼に対して助言や忠告をしなくなった。本来なら王がそれをいさめるべき立場なのだが、王は既に中央を掌握する事さえ困難な状況に四苦八苦しており、とても息子の監督などしている余裕が無かった。


最初に生まれた子供だけあって、王はエルネストを溺愛し、過剰なほどの領地と家臣を彼に授け、半ば独立国としての権限まで次々と与えた。二番目に出来た子供――第一王女のマリアンヌにも同じように多くの領地と権限を与えた上に、後に生まれた二人の王女にも似たような事をしたので、後に国は借金で傾く事になる。


そうやって甘やかされて育った彼だから、自分の派閥に属しているエドガー子爵に対するフランの攻撃を絶対に許しはしないだろう。


「エルネスト兄様がマリアンヌ姉様と争っている今の内に、出来るだけ支配地域を拡大しておかなければ。その為にも彼等の力、存分に振るってもらいましょう。差し当たって、私達が一番初めに打倒しないといけないのは、中央への道を塞ぐブリューエット姉様です」


逆三角形のインド半島を思い浮かべてもらいたい。現在フランの領地は大陸の最南端にあり、彼女の北側に領地を持っているのが第二王女――ブリューエットだ。地球のインドで言うなら、ゴアからバンガロール辺りに根を張るブリューエットの領地が、ちょうど中央へ進みたいフランの蓋をしたような形になっているので、フランが北進するには必ずブリューエットを倒さなければならない。領地の規模はほぼ互角、戦力も似たり寄ったりなので、内情を知らない周囲の勢力からはどんぐりの背比べと思われている。


フランは自らの勢力を拡大するため、エルネストとマリアンヌの戦いに決着がつくまでに、ブリューエットを下して彼女の領地を支配下に置き、いずれかの勝者と相対する必要があった。


「魔法具の準備をお願いします。今後の攻略目標について剛士殿と相談する事にしましょう」


§ § §


奇襲攻撃を成功させて戻ってきた三笠と日本丸は整備と補給に入り、乗員達は休暇を与えられて体を休めている。フランとの協議の結果、彼等は半島南西に位置するブリューエットの領地に対して攻撃を仕掛ける計画になっていた。


「攻撃開始は一週間後だ。今度はフランの海軍と共同して動く事になった。俺達からは三笠と日本丸、そして弩兵を三百出す」
「三百も出して大丈夫か? それに、三笠と日本丸を留守にさせると海の守りが皆無になるが……」


度重なる勝利によって、剛士が冷静さを欠いているのでは無いかと心配するファングに、彼は心配ないと言い切った。


「対岸をフランが押さえているからな。普通はこっちより対岸の街を優先的に狙うはずだ。無理をしてこの島を占領したところで後が続かない。だから大丈夫だ」
「ならいいんだが。兵達には何て説明するんだ? 今兵隊をやってる連中は島を守るために志願してるんだぞ。大陸の争いに加勢するのを嫌がらないか?」
「その辺も考えてる。心配するな」


ファングの言うとおり、現在の兵達は募集時に島の防衛としか説明されていない。この状態で大陸に行って戦えと言われても、多くの兵が難色を示すと予想された。そこで剛士の取った手はこうだ。


「大陸での戦いは志願制にして、参加者には特別手当を出す。金のために戦ってる奴は喜んで参加するだろうし、嫌な奴は初めから参加しないはずだ。やる気の無い奴を連れて行って足手まといにさせるより、戦う前にふるいをかけておく。あくまでも予定は三百だが、二百も集まれば上出来だろうな」


いくら条件が良いと言っても、わざわざ自分達と関係のない戦いに命をかけて参加しないだろう――と考えた剛士は甘かった。彼の予想に反して兵の中から参加希望者が殺到し、受付が一時パニックに陥ったのだ。


「兵隊だけで無く、住民からの参加希望者も多いです。それに常備軍への志願者も。海戦での圧倒的勝利が良い宣伝になったみたいですね」


臨時の募兵事務所で忙しく働くローズは、次々と書類仕事を処理しながらそう言った。エドガー子爵の街にあった日ノ本商会の商会員であるローズ達は、現在一時的にこの島へと避難してきている。フランの統治が落ち着いて、街が安全であると確認できるまで、この島にとどまる予定だ。


「現在の常備軍から大陸行きへの希望者が四百人。領民による常備軍への志願者が三百人です。海軍の志願者も多いですね。こちらは二百人ほどかと」
「……凄いな。倍近くまで増えてるのかよ」
「練度が低いと生存率も低くなる。連れて行くのは現役の三百人だけにするぞ。いいな剛士?」


ファングの問いかけに剛士は頷く。素人を訓練も無しに戦場に出すわけにはいかない。限られた人口の中から志願してくれた貴重な人材なのだ。無駄死は絶対に避けなければならない。


「選抜はファングに任せる。俺はポルトを急かして、船の完成を急がせよう」


休息を経て力を蓄える剛士達。次の戦いは目前に迫っていた。



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