異世界転生チートマニュアル
第63話 勘違い
四人居る王の子供は、それぞれの領地で経済圏を築き、独自の軍を形成している。インド半島を思い浮かべてもらいたい。第一王子派の領地は北東部。第一王女派は北西部。第二王女派は南西で、第三王女であるフラン派は南東部、そして中央に国王の直轄地が置かれている。しかしこれはあくまでも派閥がそこに存在しているだけなので、状況によっては簡単にひっくり返る事があるし、南へ進んでいくと先細りになるため、それぞれが領地は規模の大小がある。最も大きな勢力が第一王子派で、フランと同じ母親を持つ第一王女派がそれと拮抗している。フランとの異母姉妹である第二王女派は、フランよりやや大きいぐらいの勢力で、先の二人の半分ほどしかない。となれば、それより劣る規模のフランが一番不利なのは言うまでもないだろう。
剛士の島の対岸は、位置的にはフラン派に与していても不思議じゃない位置にあるのだが、ここは現在第一王子派の貴族が治める街だった。街を治める貴族の名はエドガー子爵。以前は国王の忠実な家臣だったのだが、彼が力を失い息子である第一王子――エルネストが台頭してきた途端あっさりと国王を見限り、エルネストの陣営に走った男だ。
そんなエドガー子爵は、自領と隣接して不穏な動きを見せるフランを絶えず警戒していた。そしていよいよ内戦が始まり、フランが軍を動かす素振りを見せた途端、彼は周辺の貴族に対して自陣営への勧誘と協力を求めた。大体の貴族は戦争が始まる前に旗色を決めているし、フランの領地周辺の貴族は大麻で骨抜きにされていたので、彼女の味方についている者が多い。しかし万が一と言う事もあるので一応誘いの手紙を出してみたら、一人だけそれに過剰反応を見せた者が居た。剛士だ。
彼は子爵が書いた手紙を一読すると、ファングに対して即座に島の警戒活動を命じ、三笠と日本丸に対して出撃を命じた。対岸から軍船が向かって来た場合、即座に撃沈するように指示して。そしてナディアに対して子爵への返事を書かせる。お上品な言葉で遠回しの内容が書かれた手紙を要約すると『お前の傘下になんか入るか馬鹿。寝言は寝てから言え。脳みその代わりに馬糞でも詰まってるのか?』と言う意味の手紙だ。
エドガー子爵にとって、剛士は一時的に領地を得ているだけの似非貴族でしかなく、大した戦力も持っていない小者という認識だ。資金か物資の提供をしてくれればそれで十分だったので、特に意識もしていない相手でしかない。だが剛士にとってはそうではない。彼の目にとってエドガー子爵は、自分達が必死で開拓してきた島や物資をタダで手に入れようとする悪党にしか見えなかったため、しなくていい挑発まで含めた返答を送りつけたのだ。
当然激怒したエドガー子爵は旗下の海軍に出撃を命じ、剛士達を討伐しようと動き出した。既に対岸にある日ノ本商会の商会員達は避難を済ませていたので人的被害はない。その分情報を掴むのが困難になっていたのだが、距離が近いので常時警戒態勢に移行したロバーツ達は特に不便を感じなかった。
「剛士、守りに徹するんじゃなかったのか?」
「守るために戦うんだろ? こっちにその気が無くても奴等はやる気だ。協力しない俺達を放っておく訳がない。上陸する前に海で撃退しないと、乏しい戦力じゃ勝ち目がないぞ」
確認を取りに来たファングにそう答えると、剛士は自ら鎧を着込んでフラガを腰に結びつける。お飾りとは言え一応総大将なのだ。外にも出ずに籠もっていれば全軍の指揮に関わるため、一度は姿を見せておく必要があった。
エドガー子爵の持つ海軍は、この世界にある一般的な船を利用した貧弱なものだ。しかし数だけはあるので十分脅威になるだろう。本来ならそれに対抗するためフランの海軍が出てくるはずなのだが、エドガー子爵の海軍は彼女の領地に向かわず、全軍を剛士の島へと差し向けた。
「生意気な商人上がりを血祭りにして兵達の士気を上げるのだ! エルマン! 必ず勝利してこい!」
「お任せくださいエドガー様。私の海軍にかかれば、奴等などものの数ではございません」
必勝を命じられた海軍提督エルマンは配下に出撃を命じると、意気揚々と自ら旗艦に乗り込んだ。剛士達が作り出したガレオンやキャラックの話は聞いていたのだが、彼はその性能をあまり理解出来ていなかった。
「大きなだけの船など敵ではない。接舷して乗り込むか、周囲から火矢を射かければそれで終わりだ。良い的になるだろうよ」
エルマン率いる海軍は全部で三十隻。その全ての艦が全開で帆を張り、全速力で剛士の島へと出撃していった。島までの距離は船で一日。目と鼻の先だ。
§ § §
「ロバーツ様、敵を発見しました! 数はおよそ三十! 全てエドガー子爵の紋章を帆に刻んでいるので間違いありません!」
マストの頂点にある見晴台で見張りを務めていた乗員が、舵の近くに立つロバーツに大声で知らせてくる。報告を受けたロバーツは一瞬ニヤリと笑みを浮かべた後、表情を引き締め、大声で指示を出し始めた。
「聞いての通りだ! 総員戦闘配置! 大型バリスタは通常弾頭、弩隊は火矢を使え! 慌てず騒がず、訓練通りにやれば良い! いいな!?」
『おう!』
大型バリスタに専用の巨大な矢が設置され、船内に配置されている弩隊が慣れ親しんだ自分の武器に矢を設置する。波に翻弄されないよう固定金具で自分と船を結びつけた後、矢の先に次々と火を燃していく。射撃用に開けられた船体の窓枠にある金具を使って弩を固定して、後は敵が現れるのも待つばかりとなった。次第に高まる緊張感。殆どの者が初陣のために、誰もが身を固くしている。そんな彼等の視界の先には、いくつもの黒い豆粒にしか見えない船団が現れた。エルマン率いる海軍と、ロバーツ率いる三笠が交戦する瞬間が、刻一刻と迫っていた。
剛士の島の対岸は、位置的にはフラン派に与していても不思議じゃない位置にあるのだが、ここは現在第一王子派の貴族が治める街だった。街を治める貴族の名はエドガー子爵。以前は国王の忠実な家臣だったのだが、彼が力を失い息子である第一王子――エルネストが台頭してきた途端あっさりと国王を見限り、エルネストの陣営に走った男だ。
そんなエドガー子爵は、自領と隣接して不穏な動きを見せるフランを絶えず警戒していた。そしていよいよ内戦が始まり、フランが軍を動かす素振りを見せた途端、彼は周辺の貴族に対して自陣営への勧誘と協力を求めた。大体の貴族は戦争が始まる前に旗色を決めているし、フランの領地周辺の貴族は大麻で骨抜きにされていたので、彼女の味方についている者が多い。しかし万が一と言う事もあるので一応誘いの手紙を出してみたら、一人だけそれに過剰反応を見せた者が居た。剛士だ。
彼は子爵が書いた手紙を一読すると、ファングに対して即座に島の警戒活動を命じ、三笠と日本丸に対して出撃を命じた。対岸から軍船が向かって来た場合、即座に撃沈するように指示して。そしてナディアに対して子爵への返事を書かせる。お上品な言葉で遠回しの内容が書かれた手紙を要約すると『お前の傘下になんか入るか馬鹿。寝言は寝てから言え。脳みその代わりに馬糞でも詰まってるのか?』と言う意味の手紙だ。
エドガー子爵にとって、剛士は一時的に領地を得ているだけの似非貴族でしかなく、大した戦力も持っていない小者という認識だ。資金か物資の提供をしてくれればそれで十分だったので、特に意識もしていない相手でしかない。だが剛士にとってはそうではない。彼の目にとってエドガー子爵は、自分達が必死で開拓してきた島や物資をタダで手に入れようとする悪党にしか見えなかったため、しなくていい挑発まで含めた返答を送りつけたのだ。
当然激怒したエドガー子爵は旗下の海軍に出撃を命じ、剛士達を討伐しようと動き出した。既に対岸にある日ノ本商会の商会員達は避難を済ませていたので人的被害はない。その分情報を掴むのが困難になっていたのだが、距離が近いので常時警戒態勢に移行したロバーツ達は特に不便を感じなかった。
「剛士、守りに徹するんじゃなかったのか?」
「守るために戦うんだろ? こっちにその気が無くても奴等はやる気だ。協力しない俺達を放っておく訳がない。上陸する前に海で撃退しないと、乏しい戦力じゃ勝ち目がないぞ」
確認を取りに来たファングにそう答えると、剛士は自ら鎧を着込んでフラガを腰に結びつける。お飾りとは言え一応総大将なのだ。外にも出ずに籠もっていれば全軍の指揮に関わるため、一度は姿を見せておく必要があった。
エドガー子爵の持つ海軍は、この世界にある一般的な船を利用した貧弱なものだ。しかし数だけはあるので十分脅威になるだろう。本来ならそれに対抗するためフランの海軍が出てくるはずなのだが、エドガー子爵の海軍は彼女の領地に向かわず、全軍を剛士の島へと差し向けた。
「生意気な商人上がりを血祭りにして兵達の士気を上げるのだ! エルマン! 必ず勝利してこい!」
「お任せくださいエドガー様。私の海軍にかかれば、奴等などものの数ではございません」
必勝を命じられた海軍提督エルマンは配下に出撃を命じると、意気揚々と自ら旗艦に乗り込んだ。剛士達が作り出したガレオンやキャラックの話は聞いていたのだが、彼はその性能をあまり理解出来ていなかった。
「大きなだけの船など敵ではない。接舷して乗り込むか、周囲から火矢を射かければそれで終わりだ。良い的になるだろうよ」
エルマン率いる海軍は全部で三十隻。その全ての艦が全開で帆を張り、全速力で剛士の島へと出撃していった。島までの距離は船で一日。目と鼻の先だ。
§ § §
「ロバーツ様、敵を発見しました! 数はおよそ三十! 全てエドガー子爵の紋章を帆に刻んでいるので間違いありません!」
マストの頂点にある見晴台で見張りを務めていた乗員が、舵の近くに立つロバーツに大声で知らせてくる。報告を受けたロバーツは一瞬ニヤリと笑みを浮かべた後、表情を引き締め、大声で指示を出し始めた。
「聞いての通りだ! 総員戦闘配置! 大型バリスタは通常弾頭、弩隊は火矢を使え! 慌てず騒がず、訓練通りにやれば良い! いいな!?」
『おう!』
大型バリスタに専用の巨大な矢が設置され、船内に配置されている弩隊が慣れ親しんだ自分の武器に矢を設置する。波に翻弄されないよう固定金具で自分と船を結びつけた後、矢の先に次々と火を燃していく。射撃用に開けられた船体の窓枠にある金具を使って弩を固定して、後は敵が現れるのも待つばかりとなった。次第に高まる緊張感。殆どの者が初陣のために、誰もが身を固くしている。そんな彼等の視界の先には、いくつもの黒い豆粒にしか見えない船団が現れた。エルマン率いる海軍と、ロバーツ率いる三笠が交戦する瞬間が、刻一刻と迫っていた。
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