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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第61話 切っ掛け

切っ掛けは第一王子と第一王女の領地が接する境界線でのいざこざだった。国王の求心力が衰え、王位継承権を持つ王子や王女達がそれぞれの領地で力を蓄えている現状、当然の事ながら他の領地と接する場所には多くの兵が常駐している。


この一年ほどはそれが当たり前になっていて、国民やデール王国を訪れる他国の者も、見慣れた光景になっていた。しかし実際に警備を務める兵士達に、そんな暢気な事を言っている余裕は無い。彼等は上からいつでも戦えるように厳しく命令されており、娯楽も何も無い所で二十四時間臨戦態勢で過ごしていたのだ。


当然そんな事をしているとストレスが溜まる。人間なのだから当たり前だ。ストレスが溜まれば機嫌も悪くなり、普段気にもとめないようなことでも神経に障る。そんなピリピリした環境下で、互いに睨み合うような位置に兵士達が向かい合えば、挑発の一つも起きようというものだ。


ある日のこと、第一王子の領地に属する兵士達の中で、特に気性の荒い者達が集まる小隊が境界線付近の巡回任務についていた。彼等の任務は境界線にある兵士詰め所から出発し、次の詰め所まで行って戻ってくるだけの簡単なものだ。ただ行って帰ってくるだけの退屈な仕事なのだが、文句を言えば物理的に首が飛ぶかも知れないので、彼等は内心の不満を飲み込んで任務に赴いた。


同時刻、ちょうど反対側にある第一王女派の兵士詰め所からも巡回の兵士が出され、同じような任務に就いた。境界線と言っても、全ての境目を万里の長城のように壁で遮っているわけではないので、場所によっては敵味方の兵士達が直接顔を合わせる所もある。出発時間も移動速度も違うので、顔を合わせるのはそれほど高い可能性ではない――はずだったのだが、その日は運の悪いことに、ちょうど壁のない場所で互いの兵士が顔を合わせることになった。


「おい見ろよ。女の尻に敷かれるのが好きな奴らがこっち見てるぜ」
「おいおい、あまり可哀想なことを指摘してやるなって。俺達から見たら恥でも、あいつ等には小便漏らすほど嬉しいかも知れないだろ?」


第一王子派の兵士達は、第一王女派の兵士達の事を『女の尻に敷かれている腰抜け揃い』と普段から馬鹿にしていた。第一王女派の兵士にしても、第一王子派の彼等を『自分の領地一つまとめられないボンクラ息子』と馬鹿にしてお互い様だつたのだが、この際それは置いておこう。


とにかく、たまたま顔を合わせた彼等の間で、互いの主を誹謗中傷すると言う、しょーもない争いが発生した。子供の口喧嘩なら可愛いもので、街の平民ぐらいなら殴り合い程度で済んだのかも知れない。しかし最悪なことに、彼等は兵士だ。戦い、敵を殺すのを専門としている職業に就く人々だ。当然のことながら普通の人間より血の気が多いし、戦闘能力も上だ。


互いを挑発して次第にヒートアップしていった彼等は、最終的に剣を抜き、斬り合うという事態に発展した。どちらが優勢だったのかは当事者にしか解らない。しかし不利になった方は緊急用の狼煙を上げ、周囲の詰め所から援軍を要請した。


ただの喧嘩が原因などと知らない詰め所の兵士達は、緊急事態と思い武器を手にして詰め所を飛び出していく。そうなれば反対側からそれを監視していた敵の兵士達も反応し、同じように駆けだしていった。彼等は斬り合いのあった場所まで辿り着くと、互いに武器を手にして倒れている味方の兵士の姿を目にしてしまうわけだ。


そんな時、普通の人間ならどう思うだろうか? 彼等が死んだふりのドッキリを仕掛けているなどと思う変人がその場に居るはずもないので、敵から攻撃され、応戦した結果倒れたと考えるのが普通だろう。彼等は仲間の敵討ちのため、そして攻めてきた敵を撃退するため、腰の剣を抜いて敵に飛びかかっていく。


一部始終を見ていた人間が居たら、非常に馬鹿馬鹿しくてツッコミどころが多い出来事でも、戦争の切っ掛けなど案外こんなものなのだろう。参戦する兵士の数は数人から数十人、数十人から数百人。千人規模に達するまで、それほど時間を必要としなかった。


第一王子と第一王女が開戦。この一報はあっという間にデール王国中を駆け回り、他の王位継承権を持つ者達へ決断を迫った。


剛士達と懇意にしているフランは、現在の所、四人居る王子や王女の中で戦力が一番劣っている。持っている領地の規模が一番小さいのが原因だ。いくら収穫量を増やそうが、他国と取り引きをして金銭的に余裕があろうが、兵士に出来る人間は領地の中だけと限られている。冷静に考えると、一番勝ち目のない彼女は早々と王位継承を断念して、どこかの派閥に入った方が安全なはず――なのに、彼女はそうしなかった。


「いよいよ始まりましたか。セルビー、準備は出来ていて?」
「即応体制のまま待機しているとの報告を騎士団長から受けています。いつでも戦えます。フラン様」


曇り空の中、薄暗い城の一室で、フランは側仕えであるセルビーの報告を耳にしていた。彼女はその美しい口元を少し歪め、ニヤリと笑みを浮かべる。


「剛士の融通しくれた大麻のおかげで周辺貴族の取り込みは完了しています。後は頃合いを見計らって挙兵し、お兄様達の軍を排除しましょう。それで詰みです」


自信ありげに微笑むフラン。しかし彼女の未来を指し示すように、空には暗雲が立ちこめていた。

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