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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第52話 フラン

剛士の所有する島はデール王国に所属している。デール王国はそこそこ歴史が古く、かつては周辺の小国を従えていた時もあったようだが、今は見る影もない。国土こそ広いものの財政は火の車、属国は次々と独立し、国内の貴族も王命に従わない事がある。王家は国内外の有力商会に借金をしてなんとか体制を維持しているようだが、このままだと国そのものが崩壊するのは、誰の目にも明らかだった。


そんなデール王国の片隅に、この国の第三王女が統治する領地がある。剛士の島と対岸になっている港街から馬車で西に三日ほど進んでいくと、王女が統治する領地に辿り着く。そこには島の対岸にある寂れた港街と違い、活気づいた街の姿があった。


使っている船こそ他と変わらないものの、港を出入りする船の数が段違いに多く、漁船や商船問わず種類が豊富だ。通りには海産物や各地の名物、日用品から雑貨まで店頭に並べている露店が軒を連ね、客の呼び込みに忙しい。それらに負けないよう、宿の呼び込みもまた大声を張り上げていた。島の対岸にある港街を訪れた後にここに来ると、これが本当に同じ国なのかと誰もが疑うような格差がある。これは単純に領主の力量差だけなのかと、人々は首を捻るに違いない。


「フラン様、例の商人に文を届けて参りました」
「ご苦労様」


年老いては居るが、背筋のピンと伸びた側仕えからの報告に、女は笑顔を浮かべる。女の名はフラン。この国の第三王女だ。二十歳になったばかりで、金髪金目、すらりとした長身と豊かな胸。キュッと引き締まった腰ときめ細やかな肌。正に絵に描いたようなお姫様である。


報告を受けたフランは笑みを浮かべる。窓の外に視線をやると、眼下には自分が改革する事で様変わりした街の様子が一望できる。この街がこれだけ賑わっているのは、まだ年若いフランの功績なのだ。彼女は成人と共に王から領地を与えられた途端、様々な改革に乗り出した。厳しく取り立てていた税を緩和し、一部商人が独占していた街の土地を強引に買い取って風通しをよくしたかと思ったら、それらを勢いを増す中小の商会へ格安で提供するなど、既得権益にしがみつく人間以外から圧倒的に支持される政策を次々に実施していった。その分敵も増えたのだが、彼女はそれすら力で黙らせていく。改革者――民が彼女の噂をする時、そう呼ぶ事が多い。


「今、王宮や貴族街で密かに流行している大麻なる物、例の商人が流通させていると調べがついています」
「ええ。一度使うと依存してしまうアレは、使い方次第で大きな武器になります。現に国王陛下を始め、国の重職に就く者達が大麻の虜になっていますもの。アレを流通させる商人を味方につければ、私にとって大きな力となるでしょう」


フランには三人の兄姉が居る。今年三十になる長兄の第一王子と、二十九歳の第一王女、そして二十五歳の第二王女だ。王子と第二王女は正妃の子供だが、第一王女と第三王女であるフランの母親はそれぞれ側室だ。この国の王族は成人するとそれぞれ領地が与えられるため、彼等は自領を発展させて将来の主導権を奪おうと躍起になっている。何事も無ければ正妃の息子である王子が国王に即位する流れなのだが、経済破綻で国が崩壊した場合や、権力争いで内戦が起きた場合はその限りではないからだ。


「お兄様やお姉様は国内外に手を広げる有力商人を後ろ盾にしたいと考えているようですけど、私から見ればそれは悪手に過ぎません」


商人に金を借りれば一時的に力を増す事は出来る。しかし借りた金はいずれ返さねばならないし、返せない場合、担保にしていた文物や土地を奪われる事になってしまう。現に国王は商人から借りた金を返せずに、一時的とは言え島を手放す事になっているからだ。


「彼等商人を取り込むなら、取り込む範囲を限定的なものにしなければこちらが食い物にされてしまいます。その日ノ本商会の扱う大麻……それだけを私の力とするのです」
「その為には、一度直接会って話をしてみなければならない――ですか」
「その通りです。どんな人物か見定めて、内に取り込むか外に置くべきかを判断しましょう」


§ § §


自分を招待した王女がそんな考えを持っている事など露とも知らず、剛士達はフランが治める街に向けて船で移動していた。日ノ本商会として招待を受けたので、参加するのは幹部であるいつもの四人だ。島に籠もりきって仕事漬けだったリーフは、久しぶりの船旅に機嫌を良くしている。今も船べりにもたれ掛かりながら鼻歌を歌っている真っ最中だ。


しかし、そんなリーフと違って残りの三人は難しい顔だ。当然だろう。縁もゆかりもない王家のお姫様から招待状という名の召喚状が届いたのだ。何もしていない人が警察に声をかけられただけで不安になるのと同様、剛士達も自分が何かやらかしたのかと不安になっていた。ただでさえ大麻という違法か合法か判断のつかないグレーゾーンの危ない薬を流通させているのだから、最悪の場合、おびき寄せたところでいきなり逮捕もあり得ると考えていたのだ。


「……なんで呼び出されたと思う?」
「……大麻以外考えられないだろ」
「だよねぇ。普通そう考えるよね……」


一応大麻を売る時は奴隷を利用して秘密裏に販売してはいるが、少し調べれば出所がどこかなど簡単に解る。名指しで呼び出された以上、情報は掴まれていると考えるのが自然だろう。


「最悪の場合、また他の国に逃げられる準備はしてるが、無駄に終わると良いな」


今回の旅に備え、剛士達はある程度の現金や装飾品の類いを持ってきている。襲撃されては逃げるの繰り返しを経験しているために、自然と身についた習慣だ。逃亡用に急遽開発した簡易催涙弾をいくつか腰にぶら下げながら、剛士達は次第に近づいてきた港街を厳しい目で睨み付けた。



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