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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第51話 製鉄所

剛士達の島の奥地には山もあれば谷もある。山があれば鉱山もある。昔この地を治めていた貴族が鉱山を掘って運営していた事もあるようだが、維持費などもろもろの事情もあって廃坑になったようだ。かつての入り口からは、地下に向けて木で出来た支えがいくつも伸びており、賑わっていた当時の様子を少しだけ残している。


しかし鉱山だった面影は既になく、今は人の代わりに魔物が住む危険なダンジョンに様変わりしていた。入り口付近にはRPG定番の雑魚キャラ、スライムがウロウロしており、奥に行くほどゴブリンやスケルトンと言った強い魔物の住み処になっている。


剛士達がこの島に来る前から住み着いている住民達の話では、たまに集落に攻撃してくる魔物の姿もあったらしい。数が少ないので自分達でも何とか撃退できたそうだが、大群で襲われてはひとたまりもなかっただろうとの事だ。


「前の領主は資金難で廃坑にしたみたいだから、まだ鉄が枯渇しているとも思えない。て事は、俺達はこの坑道に巣くう魔物を一匹残らず討伐して、人が入れるようにしなければならない」
「それはわかるんだが、中がどうなっているのもわからないし、魔物がどれだけ巣くってるのかもわからないんだ。俺達だけで討伐は無理だぞ」
「……そうなの?」
「そうだよ」


剛士のような戦いに縁のない人間でも一流の剣士にしてしまう魔剣フラガや、元冒険者であるファングとナディア、そして精霊魔法と弓の使い手であるリーフが居れば何とでもなると剛士は思っていたのだが、それはファングにやんわりと否定された。


「お前は知らないだろうけど、普通こう言った場所は何ヶ月もかけて調査するもんなんだ。その地を治める領主から依頼がギルドを通して冒険者に出されて、それから沢山の冒険者が時間をかけて坑道の地図を書き取ったり、中の魔物を討伐したりする。だから今回もギルドに依頼した方が無難だろうな」


戦い慣れている自分達はともかく、素人である剛士とリーフを連れて潜るのはリスクが大きすぎる――と、ファングは付け加える。未だ開発段階であるこの島に冒険者ギルドなどあるわけがなく、依頼を行うためには大陸側に足を運ぶ必要があった。片道で丸一日かかる船旅を終えた剛士達三人は、早速港街にある冒険者ギルドを目指す。ちなみにリーフは大麻を育てるために留守番だ。


対岸にある島が好景気に沸いている影響なのか、以前と比べると街の様子が少し違っている。通りにある露店が増えて、人通りが少しだけ多くなっているのだ。街にある建築や港湾関係の各業者に支払った報酬が、街の経済を活性化させているのだろう。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件で?」


周囲にダンジョンなどなく、港街と言う事もあって、ここではあまり冒険者の仕事がない。その為ギルド自体が他の街に比べて小さく、こぢんまりしていた。大きさで言えば市役所や区役所のワンフロアぐらいしかなく、利用している冒険者の数もまばらだ。そんなギルドの受付には笑顔を浮かべる受付嬢が座っていて、剛士達に来訪の目的を聞いてくる。


「えーと、依頼したい事があるんだけど……」
「はい。どのような依頼でしょうか?」


島にある坑道の調査および魔物の退治、それに加えて転がっている鉱石を持ち帰れば報酬をプラスすると言う内容を伝えると、受付嬢は内容を書き留めた羊皮紙を手に奥へと姿を消した。しばらくして戻ってきた彼女は、依頼の受付完了と報酬の先払いを求めてきた。


「ダンジョンの探索は基本報酬がこれだけかかります。お客様のご要望にある地図作製も加えると更に値段が跳ね上がるので、合計でこれぐらいはかかりますね」


ギルド側から提示された金額は金貨三十枚だった。ここからギルドの取り分を除き、冒険者に支払われる額が決まるらしい。魔物一匹につきいくらとか、地図の作成段階でいくらとか、報酬は事細かに決められているようだ。地図は引き継ぎつつ増やしていくので、最初に依頼を受けた冒険者ほど報酬が高くなる寸法のようだ。


「期限が来た場合や依頼が完了した場合はこちらからご連絡を差し上げます。ありがとうございました」


ペコリと頭を下げる受付嬢に見送られながら、剛士達はギルドを後にする。


「予想以上に金がかかったな。こんなに取られると思わなかった」
「俺も今まで受ける側だったから知らなかったよ」
「結構中抜きされてるみたいだったね」


例えるなら、冒険者ギルドは派遣会社みたいなものだ。10ある報酬の内の、6から7を派遣会社であるギルドが。残りを派遣社員である冒険者がもらうと考えれば、どれだけ中抜きしているかが理解出来ると思う。


「文句言ってもしょうがないぜ。後はさっさと冒険者が坑道を掃除してくれるのを期待しよう」
「そうだね。任せておけばいいよ」


ブツブツ文句を言う剛士を宥めながら、三人が次に向かったのは街の鍛冶屋だ。武器や防具はもちろん、普段使う包丁や鍋など、鉄製なら幅広く扱う店を訪ねる。扉を開けた途端ムワッっとする熱気と汗臭さに加え、鉄を叩く槌の騒音に思わず顔をしかめる三人だったが、気を取り直して中の喧噪に負けない大声で呼びかける。すると、奥から責任者っぽい男が額の汗を拭いながら応対に現れた。


「なんだいあんたら?」
「ちょっと相談したい事があるんですけど、良いですか?」


製鉄所の制作を依頼したいと剛士が口にした途端、急に丁寧な態度になった職人は、三人を奥の静かな部屋に通してお茶を振る舞ってくれた。久しぶりの大きな仕事を逃がすまいとしているようだ。


「製鉄所をつくるんですか?」
「はい。実は――」


冒険者ギルドへ坑道の大掃除を依頼して鉄が取れるようになったとしても、製鉄所がなければ宝の持ち腐れでしかない。製鉄所を早めに作っておいて、いつでも鉄の生産が出来る状態にしておかなければならないのだ。


製鉄所を一から作るのは大変な労力とかなりの金額がかかるが、このマイナス分は濾過装置の売り上げだけで何とかする必要がある。移住してきた人間に急いで量産させている物を早々に売り切らなければ、日ノ本商会の財政は遠からず破産する事になるだろう。


「今日だけでかなり金を使ったな……」


仮契約を済ませて前金を支払った剛士達は製鉄所を後にし、必要な金額の多さに揃って頭を抱える事になった。製鉄所が出来たとして、手押しポンプが完成するまでどのぐらいの期間が必要になるのか見当もつかない。何か別の金策を考えなければにっちもさっちもいかなくなると、まるで潰れかけの町工場の社長のような心境で支店に立ち寄った剛士達に、少し焦った様子のローズから、ある手紙が手渡された。


「なにこれ?」
「招待状です。その……この国の王女様から」
「「「!?」」」


予想もしない大物からの招待状に思わず絶句する三人。剛士の島を巡る陰謀が、水面で静かに動きだしていた。



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