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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第50話 重大な欠点

「次に商品化したいのはこれだ」


剛士が指し示したページを三人がのぞき込む。そこには何層かに別れたバケツの絵と、象の鼻のような絵が描かれていた。


「剛士、これは?」
「これは水を濾過する事が出来る濾過装置と、手押しポンプの設計図だ」


得意そうに胸を反らせる剛士に対して、リーフ達は顔を合わせるだけで、全く理解出来た様子がない。説明もしていないのだから当然の反応なのだが、手放しの賞賛が送られると思っていた剛士は急に恥ずかしくなり、誤魔化すようにゴホンと一つ咳払いをする。


「えーと、まず濾過装置から説明するぞ。これは――」


この世界の飲料水は大部分が井戸から汲まれたものだ。と言うのも、村を作る場合、まず水源を見つけてから周囲に家を建て、そこを中心に家が増えていくという手順だからだ。川が近い所にも村や集落が作られる事はあるが、毎日の生活用水を得るために、いちいち川の水を汲みに行かなければならない重労働が嫌われて、数は多くないようだった。


井戸が使える場合でも、全てが飲料用として使えるわけではない。中には濁っていて、そのまま飲むと体調を悪くする水もある。それらの井戸水を濾過装置で飲めるようにし、今ある井戸の組み上げを手押しポンプで簡単にできるようになるとすれば、大きなビジネスチャンスとなるのは間違いなかった。


「こんな単純な方法で水が綺麗になるのか? 凄いな……」
「使ってる物も砂とか木炭とか、身近で手に入る物ばかりだね。これなら大した手間もなく作れそうだよ」
「本当に剛士の言うような効果があるの? なんかいまいち信用出来ないんだけど」
「なら一度作ってみよう。論より証拠だ。自分の目で見れば信じられるだろう?」


半信半疑と言った表情のリーフ達を連れて、剛士は早速濾過装置の制作に取りかかった。濾過装置に必要なのは木炭と細かい砂、そして小石と布だ。これを下から木炭→細かい砂→小石→細かい砂→小石→と言う順番で、境目に布を挟んで容器に敷き詰めていく。そして上から水を流せば、水が綺麗になって出てくるという寸法だ。


底に穴を空けた壺に材料を入れる剛士を、三人は無言で見守っている。村人達が何事かと遠巻きに見ているが、特に声をかけてくる事も無い。そしてしばらくすると、全ての作業が終わった剛士が立ち上がる。


「よし、出来た」


井戸から組み上げてきた水を桶に移す。それに少し泥を混ぜると、当然水は茶色く濁る。村の井戸からは綺麗な飲料水が出てくるため、そのまま使っては濾過装置の証明にならないのだ。


「見てろよ」


ゆっくりと桶を傾けて濾過装置に水を入れていくと、壺の底から水がポタポタとしたたり落ちてくる。それを剛士が所有するガラスで出来たコップで受け止めると、最初と同じ――とはいかないまでも、かなり綺麗になった水がコップの中に溜まっていった。茶色く濁っていた水が、壺を通すだけで綺麗になると言う事実を目撃した三人は、驚愕の表情を浮かべていた。


「本当に綺麗になっているな」
「凄いじゃない! 泥水だったのに!」
「へえ~。魔法を使ってるわけでもないのに凄いわね」


感心する三人。しかし――と、ファングが顔を上げる。


「これだけ単純な造りなら簡単に複製できると思うんだが、そのへんはどう考えてるんだ?」
「当然の疑問だな。それについても少し考えがある」


手押しポンプと違い、剛士が作った濾過装置は上から材料を敷き詰めるだけの単純な物だ。上から順番に材料を取り除いていけば、何が入っているのか簡単に構造が判明するだろう。これを防ごうと思えば、人の手が入れられないよう、入水口を小さくするしかない。と言っても壺のような焼き物では後から付け足す事など難しいし、鉄では加工や材料集めなどの手間がかかりすぎる。ならどうするか? 答えは簡単。秘密にせず、安価で売りさばけば良いのだ。


「幸い俺達には運送屋がある。店で小売りするんじゃなく、あれを使って各地の商会にまとまった数を売りつけるんだ。当然簡単に模倣されるだろうけど、大陸中に広まるまではしばらく時間がかかるだろ? それにこれは消耗品だ。濾過装置に関しては、他が追いつくまでが儲け時だな」


いずれバレるなら秘密にするだけ無駄。大した手間も価値もないものだし、先行逃げ切りで出来るだけ利益を出せれば良い。剛士の言っているのはそう言う事だ。


「濾過装置についてはわかった。じゃあ、こっちの手押しポンプと言うのは?」
「これを使うと少ない力で井戸の水をくみ上げられるようになる。説明すると――」


手押しポンプは濾過装置ほど単純ではないけれど、それほど難しい構造をしている訳ではない。簡単に言うと、空気の力で水を吸い上げているだけなのだ。身近な物に置き換えるなら、ストローを想像すると良いかも知れない。ストローを吸い込むとストローの中は真空になって、ストローの先から水を吸い上げる。一旦吸い上げた水は、ストローの根元を舌なり指なりで押さえてしまえば下に落ちる事はない。その状態のまま別の容器の上で舌を離せば、吸い上げられた水は下に落ちる。空気を吸い上げるポンプ役が口――大きな意味で肺、水をせき止めるシリンダー役が舌と考えると、案外単純な構造なのは解って貰えると思う。


「これも実物を見てからでないと判断出来ないな。どの程度楽になるのか、実際に体験してみない事には何とも言えん」
「子供の力でも使えるようになるなら画期的なんだけどね」
「剛士、これもさっきみたいに簡単に作れるの?」


手押しポンプの有用性は理解出来ても、やはり自身の目で見てみない事には実感が湧かないのか、三人の反応はいまいちだ。さっきの事からそれはある程度予想できていたので、剛士は気にせず話を進める。


「構造自体はそんなに難しくない。でも、一つ問題がある」
「問題?」
「ああ。これは鉄で作る必要があるんだが、この島には製鉄所がない。つまり自作出来ないって事だ」


せっかくのアイデアなのに、作る事すら出来ないという致命的な欠点が発覚し、ファング達三人は絶句した。



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