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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第48話 ローズ

島と言う領地を得た事で日ノ本商会の本拠地は移されている。以前本拠地のあった街には支店が置かれ、各地の情報収集や集金などの業務を行う窓口になっていた。久しぶりに戻ってきた街は以前より活気づいており、通りを行き交う人の波が明らかに増えている。通りに並ぶ露店は、以前ある程度の間隔を空けてあったと言うのに、今や無理矢理ねじ込んだようにピッタリとくっついて商売をしている有様だ。


「これって競馬場の影響かな?」
「そうだと思うぞ。まあ、競馬場が出来る前に剛士からパクった宝くじでも賑わっていたから、そっちの影響もあるんだろうけどな」


各種博打の影響でこの街は好景気に沸いているようだった――が、良い事ばかりでも無さそうだと剛士達は周囲を見て思う。博打好きが集まっているためなのか、とにかくガラの悪い人間が多いのだ。過去、剛士とリーフに絡んできたゴロツキのように、メシを食うより喧嘩が好きそうな厳つい奴のような、パッと見ただけで頭が悪いとわかる人間が多い。


巡回の兵士は明らかに増えているものの、激務で精神的に余裕が無いのか、眉間には皺が寄っている。喧嘩程度なら日常茶飯事なのだろう。


そんな中、留守番を務めるリーフを除いた三人が連れだって歩いて行った先はかつての商館だ。領地として島を購入するなど欠片も考えていなかったため、本来は長期使用を想定しての館だったのだが、あっという間に拠点を移したため本拠地として稼働したのは数えるぐらいの日数しかない。かなり立派な造りをしており、出入り口や窓を閉鎖するとちょっとした攻撃ぐらいなら防げる作りになっている。せっかく手に入れた屋敷をすぐに手放すのも勿体ないため、ここは大陸側における拠点として使う事になったのだ。


「戻ったぞ」
「! これは皆様、お帰りなさいませ!」


商館の中に入った剛士達を出迎えたのは、この商館を管理している館長のローズだ。ローズは四十手前と言う剛士と同じぐらいの年齢の、剛士とは真逆で落ち着いた大人の美人だ。
そして奴隷だけあって彼女の人生も波瀾万丈である。彼女は過去にいくつかの商会を渡り歩きながら、その腕を振るい所属する商会に利益を提供してきたのだが、ある日敵対する派閥の罠にかけられて失脚してしまう。ありもしない罪をでっち上げられ、多額の借金を背負わされてしまったのだ。当然潔白を主張するも聞き入れられるはずがなく、彼女は解放奴隷へと落とされてしまった。


奴隷に落ちた者が再び商人として日の目を見るなどほぼ不可能。彼女はすっかり諦めて自殺すら考える毎日だったのだが、そこに偶然現れたのが剛士だ。商人経験者の奴隷を求めた剛士がイヴに連絡を取り、その紹介された中にたまたまローズが居たのだった。


十人ほど用意された奴隷達はローズ以外全員男で、経歴も行商人から見習いまで様々だった。その中でローズは特に目立っていた。支店を任されるほどの経営手腕を持つ上、女性で美人と来ている。他の奴隷に比べて目玉が飛び出るほど値が張ったが、むさ苦しい男が増えるより美人を増やしたいと言う剛士の個人的な思惑で、ローズは晴れて日ノ本商会の支店を任される事になったのだ。


一階ホールで出入りの業者に次々と指示を出していたローズが、剛士達の下に駆け寄ってくる。彼女はやりがいのある仕事を任されているためか、生き生きとした表情だ。


「ローズ、店は順調か? 特に問題は起こってないか?」
「細かな問題ならいくつかございますが、皆様に報告するほどの大きな問題は起きておりません。至って順調です」


この館で働く奴隷はローズだけではない。他にも数人商人経験者がおり、ところどころ重要な仕事を任されている。彼等の働きがあるからこそ、剛士達は安心して島に長期滞在出来ているのだ。


「ところで皆様、本日はどのようなご用件で? まさかこちらに拠点を戻すとか?」
「いや、ちょっと商人ギルドに用があってな。そうだ、ちょうど良いからローズも相談に乗ってくれ。支店を任されていたぐらいだからギルドにも詳しいだろ」
「私に出来る事なら何なりと。ではあちらでお話を伺いましょう」


下働きの小僧に手早くお茶の用意を指示し、ローズを先頭に会議室へと全員で移動する。会議室は丸テーブルと椅子があるだけで、飾りの一つもない殺風景な部屋だ。ローズを雇った時に、彼女が「ここに剛士様の肖像画を掲げましょう」とか「ここに経営理念を貼り付けて、毎朝商会員に唱えさせましょう」とか言い出したのだが、それは剛士が全力で阻止した。


「日ノ本商会は、体力面ではブラック寸前の仕事でも、心までブラックに落とすつもりはない。朝礼なんか挨拶と伝達事項だけで十分。明瞭簡潔。報告者の感情や主観は必要ない」


労働基準法もないこの世界では、とかく精神論を主張したがる者達の声が大きいし、それが常識と考えられている傾向が大だ。剛士は自分の商会がブラックだと考えているようだが、ちゃんと休みを与え、決められた日に額を誤魔化す事なく給料を支払い、暴力を一切振るわない時点で、他と比べて随分待遇の良い商会だと密かに有名だったりする。


この世界の常識では考えられないほど好待遇を約束する剛士に、ローズを始めとする商会員達は当初随分戸惑っていたのだが、しばらく仕事を続ける事で剛士の主張が正しいと身をもって体験する事となった。


決まった休みが取れれば体力も気力も回復するし、給料が保証されているのなら貯金もしやすく、大きな買い物も出来るようになる。そして失敗しても殴りつけられる事がないとなれば萎縮する事もなくなり、自然とやる気が出てくると言うものだ。


そんなやる気に満ちた商会員の一人――ローズは、剛士達から現状の報告とギルドに対しての工作方法を相談されると、自分に任せろとばかりにその豊かで形の良い胸を叩いた。


「お任せくださいませ。その程度の交渉、このローズが纏めてご覧に入れます。剛士様が交渉材料にと出された複式簿記はこの支店でも使われているので、どのような利点があるのか私にも説明しやすいですし、ここは一つ、このローズにお任せください」


あまりにも自信満々な様子のローズに戸惑った剛士達だったが、素人に毛が生えた程度の自分達が出しゃばるより、プロであるローズに任せた方が良いと判断し、彼女に一任する事になった。


見本となる仮の帳簿を小脇に抱えて、足早に商館を後にしたローズを見送りながら、剛士達はその頼もしい姿に心強いものを感じていた。


「これから交渉ごとはローズに任せよう」
「そうだな。その分給料を多くして、不満が出ないようにしないとな」
「私達が出しゃばるより確実だよね」


自分のあずかり知らぬ所でいつの間にか重大な責任を押し付けられているとローズが気がついたのは、剛士達が島に戻った後だった。



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