異世界転生チートマニュアル

小林誉

第46話 募集広告

『領民募集! 0歳から300歳ぐらいまで。週5勤、土日祝日休み。委細面談』
『業務拡大につき領民大募集! 明るくアットホームな領地です! 性別年齢不問。やる気のある方募集!』
『未経験者大歓迎! 誰にでも出来る簡単なお仕事です! 派遣先の島に定住するだけ!』
『オープニング領民募集! 今なら先着順で特典付き! 自分の家が持てます!』
『ノルマ無し! 頑張り次第で月に金貨二十枚以上可能!』


「却下だ」
「却下ね」
「却下意外に選択肢がないわね」
「なんでだよ!?」


剛士の出してきた領民募集広告を読み、ファング達三人は即座にそれを却下した。徹夜で数々の案を必死で考えてきた剛士は、自分の努力が水泡に帰した事に我慢がならないと言った態度だったが、ファング達の反応は変わらない。


「これじゃ何の募集かさっぱりわからんぞ。それに、ところどころ意味不明な単語が混じってるし……。これは剛士の世界の言葉か?」


まるで、アルバイトか派遣社員の募集広告のような内容が書かれた羊皮紙を、難しい顔で眺めながらファングが言う。


「商会の従業員を募集するならこれでも良いと思うけどね。領民の募集にこの文章はないでしょ」


苦笑しながら駄目出しをしているのはナディアだ。彼女は三人の中なら一番温厚で明るい性格をしているので、剛士が馬鹿な提案をしても肯定してくれる事が多いのだが、それでも今回の募集広告は駄目と判断したようだ。


「これじゃ怪しい仕事の勧誘にしか思えないわよ。書いてる途中でおかしいと思わなかったの?」


呆れた目で剛士を眺めるリーフ。外界と閉ざされた村育ちで世間知らずなはずのリーフですら、剛士の書いたものは駄目だと判断しているようだ。自信満々で出した案が全員から突っ込みを受けて、流石に剛士もショックが隠せない。


「そ、そこまで酷いか? 俺の世界の広告を参考にしてみたんだが……」


剛士が出した案の殆どは、ブラック企業の募集広告としてなら合格だろう。ブラックの特徴である給料をぼかすころや、やる気だの頑張りだの、あやふやな言葉が使われている部分だ。そして極めつけは○○以上『可能』と書いているところ。可能性がゼロでない限り嘘ではないが、実現できる可能性もほぼゼロに近い場合に使う言葉だ。


「じゃあお前らが何か案を出してくれよ。港の整備も終わってるんだぞ? 悠長にしてられないんだ」


少し焦ったように言う剛士の言葉にファング達は頭を掻いた。イヴから奴隷を買い取った後、剛士は早速領民達と新しく加わった奴隷を使って大麻畑を柵で多い、周囲から完全に遮断した。そして予定通り二十四時間態勢で警備に当たらせ、畑に立ち入る人間を逐一チェックする体制を確立している。


そして港の整備もほぼ完了し、造船所も半分近くが出来上がっている状態だ。まだ本格稼働は先になるが、ポルトは自分が連れてきた職人達と毎日あれやこれやと出来上がっている箇所で、道具を揃えたり環境を整えたりと忙しそうだ。いつ造船所が完成してもすぐに仕事に取りかかれるように、毎朝職人を集めて元気に朝礼をしていたりする。朝礼の最後に毎回ポルトが「今日も一日ご安全に!」とにこやかに言っている場面をたまたま見た剛士が「昔の嫌な事を思い出しそうだ」と言いつつ物凄く嫌そうな顔をして足早に去って行ったりしていたが。


それはともかく、港自体はもう使用可能になっている。現在大陸で出回っている大型船ぐらいなら余裕で停泊できる桟橋がいくつも造られているし、ポルトが今後作るであろう大型船でも対応可能な石造りの桟橋も完成している。つまり、後は人を増やして島を発展させ、将来の独立に備える段階となっているのだ。


「あまり悠長に構えていると、またどこから横やりが入ってくるかわからんぞ。いつまでも大麻で抑えておける保証はないしな」


大麻は値段をつり上げるために、大量販売をせず一定の数しか販売していない。これは薬による依存度や焦燥感を植え付けるのが目的なのだが、薬漬けになって冷静さを失った有力者達が、実力行使に出ないとも限らない。そうなったら今のこの島の状態では、防ぐ手段など皆無なのだ。本国の経済状況が悪化していると言っても兵士が全て居なくなったわけではない。大軍で攻め寄せられては、わずか数十人の護衛など何の役にも立たないだろう。


「それも心配だけど、街中にそんなもの貼って大丈夫なの? 街の領主から何か言われそうだけど」
「う……それは……考えてなかった」


未来の危険に目を向けるばかりで、足下の危険にまで気がついていなかった事に気づいた剛士は、ガックリと肩を落とす。言うまでもなく、街があればそこには統治する領主が居る。そこで移住者など募集しては、領主から見れば喧嘩を売っているとしか思えないだろう。


「なら、目立たない方法で募集するしかないな」
「と言うと?」


頭の後ろで両手を組み、椅子の背もたれに背中を預けながらポツリと言ったファングの言葉に、リーフが首をかしげる。


「噂話が得意な連中がいるだろ? あいつ等を利用するんだよ」





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