異世界転生チートマニュアル

小林誉

第44話 引き抜き

ポルトの引き抜きは成功した。早速彼には島に移ってもらい、彼のやりやすいような造船所を作ってもらう段取りになっている。いきなり居なくなったら親方が不審に思うのではないかと心配する剛士達に、彼は笑いながらこう言った。


「普段から仲が悪かったからな。それに、何か気に入らない事があるとすぐに出ていけって怒鳴られてたから。出ていったところで文句はないだろ」


まるでやる気がないなら出ていけと言われて、本当に出ていく学生のようだと剛士は思ったが、詳しい話を聞くにつれ、色々な事の積み重ねの結果だと判明したのだ。


海に面したこの国に港街は多いが、その中でもここの造船所は最大規模を誇るらしい。その為、造船技師を目指す若者達が絶えず訪れ、自分を雇ってくれと懇願するそうだ。誰を雇うか、誰を辞めさせるかは親方次第で決められてしまう。その上親方に気に入られていなければ、たとえどんなに腕が良くても下働きのままという事もあるそうだ。胸先三寸で人の人生を左右する立場に居て、調子に乗らない人間の方が少ない。ご多分に漏れず、親方も態度が次第に大きく、酷くなっていったそうだ。


そんなやり方をしていれば反発する者は当然出てくる。口にこそ出さないものの、辞めたいと思っている職人や下働きは案外多いらしい。


「そこでだ。辞めるついでに、あのクソッタレな親方と、自分達の事を選ばれた職人だと思い上がる下手くそ共に嫌がらせをしてやろうと思ってね」


ほくそ笑むポルトに首をかしげた剛士達だったが、後を楽しみにしてくれと言って別れたポルトを信じ、とりあえず自分達の島へと戻っていった。


そして後日、島を訪れたポルトから嫌がらせの内容を聞かされた剛士達は、愕然とする事になる。


「引き抜いてきたぜ商会長。これだけ居れば、造船所が出来次第すぐ船の建造に取りかかれるだろ?」
「お、おう……」


商会長と慣れない呼び方をされた剛士がぎこちなく頷く。してやったりと笑みを浮かべるポルトの背後には、彼より少し若いぐらいの、同じような体格の男達が並んでいた。彼等こそポルト同様、親方に嫌われて日の目を見る事のなかった職人達――総勢二十名だ。親方の造船所はある一定数以上人を受け入れる事がなく、造船所全体でも百人ほどしか居ないらしい。そんな所の五分の一をいきなり引き抜いたのだ。さぞや大混乱に陥っている事だろう。


「じゃあとりあえず、ポルトが新しい親方として全員を管理してくれ。これから作る予定の造船所も、街から呼んだ職人達と相談して決めてくれて良い。材料である木材や石材は島の奥からどんどん運ばれてくるから問題ないな。給料は今までもらっていた額と同じだけ出して、実際に船を造り始めてから上げていこうと思う。それでいいか?」
「ああ。その条件で頼む。じゃあ早速仕事に取りかかるよ」


建設中の桟橋周辺は、街から呼び寄せた様々な職人達でごった返している。商会で下働きを勤める人間を呼び寄せたために島内の開発速度も上がっているし、大陸との交通手段である船の建造もポルト達の協力で直に始まるはずだ。全てが順調なように見えたが、まだ根本的な問題が解決していない。


「言うまでもなく、人が足りない」
「それは言われなくてもみんな知ってるよ」
「違う。労働力じゃない。この島を住み処とする住民が足りないんだ」


会議室代わりに使っている小屋の中で剛士は力説していた。現在この島に住む住民は、もともと違法に住み着いていただけの百人ばかり。領民と言うにはあまりにも少ない数だ。島の規模から考えても、住もうと思えば一万人ぐらいは住めるはずなのにだ。将来的に対岸にある本国と事を構える場合、経済面でも戦力面でも、現在の人数は少なすぎる。


「だったら募集しなきゃいけないけど……大麻の事が広まるとマズいわね」
「そうだ。だから人を集めるのはアレを完全に隠してからになる」


島の玄関口である現在の桟橋から住民の住む村までは、徒歩で一時間ほどの距離にある。大麻畑は更にそこから一時間ほどだ。つまり、今後多くの人が行き交う港から目と鼻の先にあると言うわけだ。


貴族や富裕層に対する大麻の浸透は順調に進んでいる。運送屋を共同運営している会頭はもちろん、彼と繋がりのある者達には最初だけ無料で大麻を渡し、その後注文があれば高額で売りつけるという手法をとっている。日ノ本商会の商会長や幹部である剛士達が直接出入りすると目立つために、彼等の元に大麻を運んでいるのは奴隷達の仕事だった。これに金の持ち逃げという万が一の対処にもなっている。


「大麻の売り上げは相当な額になっている。今の時点で競馬やネズミレースの売り上げと肩を並べているし、近いうちに追い抜くはずだ」
「なら、それの出所を調べようとする奴がいてもおかしくないわね」
「そう言う事だ」


幸い剛士の領地は島であるため、港周辺はともかく、よそ者が村に近寄ると非常に目立つ。見張るのも発見するのも容易だった。


「しかし万が一の備えはしないとな。今ある大麻畑は全面を柵で覆って、更に四方に見張り小屋を建てて二十四時間監視し続けるぐらいしないと駄目だ」


ファングの言葉に全員が頷く。もし大麻の栽培方法や現物などを持ち帰られた場合、剛士達の優位は一気に揺らぐ事になる。加工方法はそれほど難しいものではないし、生命力の強い植物のため栽培自体も簡単だろう。おまけに他の誰かが流通させ始めたら権力者を取り込めなくなり、島の安全性も脅かされる。それだけは避けなければならない事態だった。


「自給用の畑は後回しにしてでも、村人を柵の設置に回そう。その間はリーフに負担をかけるだろうけど、しばらく我慢してくれ」
「仕方ないわね……。その代わり、儲けが出たら分け前を多めにちょうだいよ?」
「わかってる。服でも何でも好きに買うと良い」


どんな時でも強欲なリーフの態度に辟易しながら、剛士は投げやりに同意した。





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