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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第32話 恒例行事

独断で島を購入した事を仲間達に話したところ、やはりと言うか何と言うか、仲間達は剛士を罵倒した。せっかく軌道に乗り始めたのに今までを遙かに上回る借金を抱えてどうするんだとか、払えなくなったら一生奴隷行きって事を理解しているのかとか、あんたが死んだら私まで死んじゃうでしょうとか、とにかく心配しているのか貶したいのかよくわからない内容の言葉を延々と浴びせられ続けた。


しかしもう契約は結んでしまっているし、今更撤回など出来ようはずも無い。となれば、気持ちを切り替えてその島をどう扱うかを考えた方が建設的だ。あれだけ剛士の事を罵倒していた三人組も、やはり自分達の領地を手に入れた事は嬉しいらしく、島の利用法について語る内に、次第に興奮してきたようだ。


「土地だけは余ってるんだろ? なら食料を大量生産して輸出しようぜ」
「回りが海なら漁港を増やしましょうよ。その本には船の記述もあるんでしょ? なら造船所を作ってみるのも良いかもしれないわ」
「ここはやっぱりリゾート地を作るべきよ。金持ち専用にして受け入れる人数を制限するの。そうすればショボい施設でもアホな成金がありがたがって訪れるはずよ」


ああでもない、こうでもないと口々に意見を出し合う三人は、今まで見せた事も無いような笑顔を浮かべていた。そんな彼等を眺めつつ、剛士は心に決めていた事を打ち明けるため、少し緊張に体を硬くする。


「剛士……どうかしたの?」
「剛士は島をどうしたいんだ? お前はお前で考えがあるんだろ?」


いつもとは少し違う剛士の様子に浮かれていた三人も気がついたのか、心配そうな目を向ける。剛士は口を湿らせるためコップを手に取り、ゴクゴクと喉を鳴らしながら水をあおると、彼等をぐるりと見渡してこう言った。


「もう決めてる事なんだけどな。実は、俺はあの島で自分の国を作ろうと思う」
「「!?」」


予想もしない提案に、三人は驚愕に顔を歪めて言葉も出ない。当然だろう。まだまだ始めたばかりの商会の会頭が、貴族を通り越して王を目指すと言い出したのだ。


「剛士……お前、本気で言ってるのか?」
「冗談を言ってる……ようには見えないわね……」
「…………」


ファングとナディアは正気を疑っているようだ。しかし、唯一リーフだけが違った反応を見せた。


「よく言ったわ剛士! そう来なくっちゃね!」
「お、おう……」


何故か満面の笑みを浮かべて上機嫌なリーフと言う珍しいものを見て、思わず剛士は身を引いてしまう。そんな彼に構う事無く、リーフは嬉々として語り続けた。


「私が前にお城に住みたいって言った事を忘れなかったなんて感心するわ! 贅沢な暮らしを手に入れるために王に上り詰める……私のためにそこまでしてくれるなんて、ちょっと感動ものよ!」


あまりの言い草に唖然とし、ろくに反論も出来ずひな鳥のように口をパクパクさせるだけの剛士だったが、すぐさま正気を取り戻した。自分の一大決心を遊ぶためだと思われては流石に黙っていられないのだ。


「違うわああぁっ! お前のためにやるわけじゃない!」
「はあ!? なんでよ! それ以外理由はないでしょうが!」
「違う! 俺は自分が安心して暮らせる土地を手に入れるために島を買ったんだ! 決してお前を遊ばせるためじゃない!」
「なんですって!」


今の今まで上機嫌だったリーフの目尻がつり上がる。そう。あろう事かこの女、剛士が決断したのは自分の為だと心から信じ切っていたのだ。最近少なからず仕事をこなすようになって少しは丸くなったと油断していた剛士は、それが誤りだったと思い知らされた形だ。


「お前全然成長してないな! 村を出た時からいつも自分中心なんだよ! 少しは回りに気を配れ!」
「あんたも人の事言えないでしょうが!」


そしていきなりの取っ組み合いである。しばらくなかった光景だけにファングとナディアも一瞬反応が遅れたが、なんとか二人を引き剥がす事に成功した。


「どうどう! もういいだろ! そのくらいで止めておこうぜ!」
「ほらリーフ! そんな事しちゃ駄目だってば! 可愛い顔が傷だらけじゃないの!」


目だけをギラつかせ、荒い息を吐きつつも二人は一応冷静さを取り戻した。この二人、頭に血が上るのは早いのだが、冷めるのも早いのだ。瞬間湯沸かし器みたいなものなのだ。
ふてくされて席に着いたリーフを忌ま忌ましそうに睨みながら、剛士は一つ咳払いをする。


「えー……なんの話だったかな? あぁ、そうそう。国を作るって話だな。理由は今言ったとおり、自分達の身を守るためだ」
「しかし剛士。そんな簡単に行くか? 勝手に独立なんぞ宣言したら、まず間違いなく軍隊を送り込まれるぞ」


いかに財政的に厳しかろうと、領地が勝手に独立を宣言して黙っている王など存在しない。実質独立状態にある貴族達は表向き国王に従っているため見逃されているが、剛士の言うような事をすれば対外的にもマズいので、ファングの予想通り軍隊を動員して鎮圧しようとするはずだ。


「そんへんは考えてる。独立を宣言する前に島を開拓するのは当然だが、周辺の貴族にも根回しをするつもりだ。この本には農業や漁業はもちろん、軍事に関する事も書かれているからな。敵を圧倒する武力を見せつければ、案外その後は干渉してこないかも知れないぞ」


実際そんなに甘い事は無いだろう。しかし剛士の言っている事も不可能ではない。現代知識を詰め込んだチートマニュアルの力とは、世界のパワーバランスを容易に崩せるものなのだから。


「剛士がやるって言うなら、私は付き合うよ。もともとこんな無茶苦茶で面白い事を期待して仲間になったんだし、今更降りるなんて選択肢は無いよね」
「……だな。俺もナディアに同意見だ。ただのオッサンがどこまで上り詰めるか、目を離せないぐらい面白そうな見世物じゃないか」


そして三人はリーフに視線を移す。不機嫌そうに黙って話を聞いていた彼女は、自分に集まった視線を煩わしいとばかりに手を振る。


「……やるわよ。私も付き合う。と言うか、共有の呪いもあるし離れられるわけないでしょ。協力してあげるわよ」


不承不承同意するリーフに、ホッとした三人は笑顔を浮かべていた。
 

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