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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第30話 チャンス到来

競馬とネズミレースが軌道に乗り、借金も徐々に減っていたある時、剛士達一行は新しく出来た駅の視察のため隣国を訪れていた。長時間馬車に揺られて、尻の痛みに閉口しながら訪れた初めての街は、現在彼等が拠点にしている街とは少しばかり雰囲気が違ったところだった。


「なんか、馬車が多いな」
「だな。それも荷馬車ばかりだ。人を乗せる幌付きの馬車はあまりないみたいだな」


ファングの言うとおり、街を行き交う多くの馬車の大部分は荷馬車が占めていた。それはこの国が商人のものであり、中でもこの街は行商人が最も集まる街だからだ。東西南北、あらゆる方向に伸びる街道が収束する地、それがこの街――ハルザである。


一般的なものと違い、街の通りは多くの馬車がすれ違っても問題ないように大きく作られている。片側二車線の計四車線で、停止したい時や荷下ろしする時、右左折する時以外両端の車線を走行する事は禁じられている。全ての通りに衛兵が見張りに立っているわけではないのでいくらでも誤魔化せそうだが、別の商人の目もあるため殆どの人間はルールを厳格に守っていた。


そんな街で宿を取った一行は、乗ってきた馬車を預けて目当ての駅を目指した。通りは活気に溢れ、所狭しと並んだ露店の店主が少しでも客を呼び込もうと金切り声を上げている。


「流石に商人の国だけあって色んな物を売ってるな」
「食料品や装飾品、武器や防具は当たり前。他じゃあまり見ない馬車専門店なんかもあるわね」
「あっちには水槽まであるぞ。海が遠い土地なのに、よく運んでこれたもんだ」
 「それだけ流通がしっかりしてるって事ね」


これだけ行商人が多いなら、輸送を専門にする事業がどれだけシェアを広げられるか未知数だ。大事な荷物を預けて逃げられてはたまらないと考える人も多いだろうし、仮に使ってみようと思う人でも料金次第で尻込みするかも知れない。最初にどれだけ低料金で顧客を集め、信用を勝ち取るかで今後の運営は大きく左右されるだろう。


目的の駅は大通りから少し離れた位置にあった。野球場ほどある広場を、線を引いて馬車一台分ずつ区切っている。適当に止められたら混雑が増すので、作業効率を落とさないための配慮だろう。そして、広場に面するように三階建ての巨大な倉庫が建てられている。石造りのその倉庫はまだ建てられて間もないらしく、白く塗られた外壁が日の光を反射して輝いていた。


「これはこれは皆さん。遠い所ようこそお越しくださいました」
「お久しぶりです」


事務所を訪れた剛士達を出迎えたのは、屋敷で契約する時に居た相手方の商会員の一人だった。周りの人間を仕切っている事から判断して、彼がここで一番地位の高い人物だと判断できる。


視察というのは基本的につまらないものだ。やる気のある人間なら案内してくれる場所であれやこれやと質問攻めにするのだろうが、剛士達は基本的に金さえ儲かればいい人達なので、使われている施設や道具にはまるで興味を示さない。だからといってつまらなそうな態度を前面に出す事も出来ず、感心したような相づちを機械的に繰り返す。


「へえ~、そうなんですか」
「なるほど~!」
「それで、どうなるんですか?」


の、三パターンを駆使すれば、相手の気分を害する事なくその場をやり過ごせる。まるで女性を心地よくさせる「肯定」「感嘆」「催促」の三パターンに似ているが、これは一般的な会話にも応用可能な優れた手法だ。


話の内容をほとんど覚えていないにもかかわらず、剛士達は視察を終えて晩餐に招待されていた。パーティーは立食式で、その大部分がこの駅で働く人間らしい。中には嫌々参加している者もいるだろうが、そこは仕事と割り切っているのかも知れない。


(偉い人が出張してきたら飲み会に強制参加みたいなものだな)


杯を片手に壁にもたれかかり、いまいち乗り気で無い人物達を見ながら剛士はそう思った。


「剛士さん。楽しんでいますか?」


剛士に声をかけてきた人物――パーティーが始まる直前紹介された彼は、なんとこの商会の会頭だという。まだ剛士と同じぐらいの外見からして、四十前後と言った年齢だろう。それなのに大陸中に根を張る運送屋を立ち上げようと言うのだから、かなりのやり手に違いない。


「もちろん。楽しんでいますよ。酒も肴も素晴らしいものばかりで、胃袋がいくつあっても足りません」
「ははっ! 剛士さんは面白い事をおっしゃる」
(顔は笑ってるけど目が全然笑ってない。俺が一番嫌いなタイプだな)


当たり障りのない会話を交わしながら、剛士は内心そんな事を思っていた。今彼の側に仲間達は居ない。彼等は彼等でそれぞれ顔を売り込みつつ、何か美味しい話が聞けないか情報収集の真っ最中なのだ。会頭にまで上り詰めた人物なら何か面白い話を聞けるかと期待していた剛士だったが、世間話や面白くもない冗談を口にするだけの会話にだんだん辟易してきていたところ、会頭は予想もしない事を口にした。


「ところで剛士さん。島を買ってみる気はありませんか?」
「は?」


突然の事に取り繕う事も忘れて素で返事をしてしまい、慌てて取り繕う。


「失礼。あの……島ですか? 島って、あの陸地の島の事ですよね?」
「ええ、そうです。あの島です。実はですね。私はある国の王族と縁がありまして――」


彼の話はこうだ。以前懇意にしていた王から借金を頼まれた会頭は、格安の利子で大金を貸した事があったそうだ。王はその金で国内を整備し、傾き賭けた経済を立て直そうと色々手を尽くしたそうだが上手く行かず、資金が尽きる毎に会頭に借金を申し込んだらしい。


仮にも王の頼みだけあって無碍にも出来ず、その度に応じていた会頭だったが、ここ最近は利子の支払いも滞ってきていた。流石にこの状況で甘い顔をする商人はおらず、彼は利子だけでも取り立てるために国王の下へと赴く。しかしない袖は振れぬとばかりに開き直った態度を取る国王に、じゃあ今後一切の取り引きを控えると逆に脅しをかけたそうだ。


国王相手にそんな真似をした場合、下手をすれば命がない。それだけでも会頭の胆力が並外れている事の証明になるだろう。しかし困ったのは王だ。彼はあちこちの商会に借金を頼んでは断られていたため、現在唯一借金に応じてくれる会頭の商会と縁が切れれば、国の財政は間違いなく破綻する。


それだけは避けたかった王が利子の代わりに差し出してきたのが、南に浮かぶ無人島だったというわけだ。


「なかなか大きな島なんですが……港も整備されていないし、島には畑の一つもありません。開発するには莫大な費用が必要となるでしょう。正直言って持て余しているんですよ。王には島の自治権を認めさせているので口を挟んでくる事はないでしょうけど、本拠地から遠く離れた島を開発してもねぇ…」
「……それで、島と引き換えに借金を帳消しにしたんですか?」
「まさか。金を全て返した場合は島も返還すると言う契約ですよ。しかしまぁ……完済するまでに後何十年かかることか」


(つまり、いずれ返すものなら開発するだけ損というわけだ。王としては会頭に島を発展させた後、丸ごと自分のものにする気なんだろう。会頭もそれがわかっているだけに、島に金を使いたくないってわけだ)


お互いの利害が反発して残ったのは手つかずの島だけ。その間会頭には一枚の金貨も手に入らず、まるまる損するのを回避するため、剛士に話を持ちかけたのだろう。


「いかがです? 完済までと言う条件付きですが、貴族でもないのに自分の島を持てるんですよ? 魅力的だと思いませんか?」


ここぞとばかりにグイグイくる会頭。彼も損を取り戻そうと必死なのだろう。


「しかし……私が勝手に開発なんかしたら、王からクレームが来るのでは?」
「その点は問題ないようにします。王が借金している借り先を、私から剛士さんに変更するのです」


(つまり、島を買った場合、俺は会頭に代金を支払い、王は借金を俺に返済する。この場合得をするのは会頭だけだな……。でも、これは考えようによっては美味しい話かも知れない)


普通の商人なら島に港を整備して街を作るか、耕作地を作って生産拠点にするか、それとも金持ち相手のリゾート地にするかがせいぜいだろう。しかしそれらと剛士が決定的に違うのは、チートマニュアルの存在だ。あの本を利用すれば、ただの島をそれこそ一大軍事拠点に変貌させる事も可能のはずだ。誰からも干渉されない自分達の土地を持ち、尚且つ好きに開発できる発展性があり、四方を海に囲まれている守りやすい立地。渡りに船とはこの事だった。


「……是非、詳しい話を聞かせていただけますか?」
「勿論ですとも! ではどうぞこちらへ。資料をご覧に入れましょう」


上機嫌になった会頭は、宴の最中だというのに剛士を別室へと案内する。チャンスが巡ってきたと喜んでいたのは、はたして会頭か、剛士の方か。この時点では誰にもわからない事だった。



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