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異世界転生チートマニュアル

小林誉

第25話 第一歩

ロードから放たれた襲撃者達を撃退した後、剛士達の周辺は一応の平穏を取り戻していた。ネズミレースは回を重ねるごとに参加人数が増えていき、利益もその分右肩上がりだ。肝心の競馬場はトラックの整備も完成しているので、後は馬と騎手を集めてから、リハーサルをこなすのみとなっている。ぶっつけ本番で馬券の販売や配当の支払いなど到底出来ないからだ。そんな中、剛士達は周囲の微妙な変化に気がついていた。


その日の仕事を終えて全員で食卓を囲んでいる時、ナディアがちらりと視線を外に向けながら何気なく話し出す。


「ねえ。なんかここ二、三日。護衛の兵士が増えてない?」
「……? どう言う事だ?」


咀嚼していた食べ物を酒で飲み込み、ファングは首をかしげる。


「気のせいかも知れないけど、なんか前より増えてる気がするのよ」
「ロードからの襲撃もあったし、万が一のために増やしてくれてるんじゃないか?」


二人と違い剛士は暢気なものだ。緊張感の欠片も無い顔で次々に料理を口に運んでいる。


「だと良いんだけど……。ひょっとしてこっちを監視してるんじゃないの?」
「監視? なんで?」
「理由を聞かれても困るんだけど……そんな気がするってだけだから」


困ったように頭を掻くナディアを見て、ファングは何か引っかかる事があったのか、腕組みして考え始めた。長らく行動を共にしてきた冒険者仲間だけあって、ナディアの勘の鋭さを理解しているのだ。


「いや……ひょっとしたら、本当に監視されているのかもしれんぞ。剛士、お前の本に目をつけられた可能性もある」
「これの? でも、ここの領主はこの本の事を知らないはずだろ?」


前回は大っぴらにチートマニュアルの内容を使っていたため、ロードに目をつけられてスパイを招き入れる事態になってしまった。今回はその反省を活かし、なるべくチートマニュアルを人目のつかないように隠してあるのだ。なので、この本の存在を知っているのはここに居る四人だけのはずだった。


「そうとも言い切れないでしょ。私達を襲ってきた連中――あいつ等を取り調べたのなら、当然襲った理由も問いただしてるはずよ。そこからこの本の存在が知れても不思議じゃない」


また同じ事態になる可能性を察したリーフの表情は険しい。前回は運良くロードの下から逃げおおせたが、同じ事が起きた場合、今回も無事に済む保証が無いからだ。


「ロードの野郎が手下にどんな指示を出していたかによるな。剛士の殺害だけ命じていたなら増えた護衛は気にしなくても良い。だがそうじゃない場合……」
「今回も本を奪おうと手を出してくる」


ナディアの出した結論にその場が静まりかえる。誰かが鳴らしたゴクリと言う喉の音だけが部屋の中で響く。そんな雰囲気を払拭するようにナディアは明るい声で言う。


「まあ、あくまでも可能性だよ。本の存在を知らなくても、連中がなんで剛士を襲ったのかは気になってるはずだから、それを調べているだけかも知れないし」
「そうだけどな……でもまぁ、この場合は最悪の事態を考えて行動した方がいいかもよ」「と、言うと?」
「いつでも逃げられる準備は当然として、誰にも手を出せない地位や土地を手に入れてしまうってのはどうかな?」


言ってから自分でも名案だと思ったのかナディアはどこか得意気だ。しかし剛士ら仲間達もその発想には至っていなかったのか、感心したように何度も頷いている。


「なるほど……!」
「それはいい手じゃないかしら? 今までは相手が権力者だったけど、こっちも同等の権力者になれば簡単に手を出せなくなるはずよ」
「権力者……ねぇ……」


今まで想像もしなかった地位を頭に思い描き、一人で気色の悪い笑みを浮かべる剛士を、仲間達は「また始まった……」とばかりに見つめていた。


§ § §


「国王陛下万歳! 剛士陛下万歳!」
「剛士様に栄光あれ!」


万雷の拍手を浴びながら、王冠を被った剛士はゆっくりと群衆の中を歩いて行く。彼の姿を一目見ようと沿道に詰めかけた人々は、一人の例外も無く薬でラリってるかのような目で剛士を見つめ、興奮に頬を染めていた。


今、剛士は戴冠式を終えてパレードの真っ最中だ。彼と共に行動を共にした仲間達は、それぞれ役職を与えられ、パレードの後ろを付き従って頭を垂れている。そして彼の真横には、顔もハッキリと判別できないウエディングドレス姿の花嫁が笑みを浮かべている。まるのでこの世の全てが自分を祝福しているような幸福感に包まれながら、剛士は晴れ晴れとした笑みを浮かべて人々に手を振っていた。


§ § §


「……何を考えているのかわからないけど、ろくでもない妄想をしてるってのはわかるよね」
「……どうせエロい事でも考えてるんでしょ」
「他はともかく、剛士のポジティブさだけは見習いたいぜ……」


一人でヘラヘラしている剛士に仲間達は戦慄すら感じていた。この短時間の妄想で、街の権力者などあっさりと通り越し、いきなり国王にまで上り詰めているなど誰が想像出来るだろうか。そんな仲間達の冷めた目にハッとした剛士は表情を改め、咳払いして誤魔化す。


「ま、まあなんだ。ナディアの意見は俺も良いと思う。ここの領主が手を出してこないうちに出来るだけ金を稼いで、他にもいくつか拠点を作っておこう。それから何処かの国に行き、金で爵位を得るなりして、自分達の身を守るんだ」
「それが上手くいったとして、仮に武力に訴えられたらどうするの?」


権力者になったところで、それ以上の権力者がちょっかいを出してこない保証は無い。その時にどう行動するのか予め決めておかなければならない事だ。流石にその程度のことは剛士にだってわかる。彼は決意を込めて言い切った。


「その時は、戦うしか無いだろうな。自分達の生命財産を守るため、このチートマニュアルの力を全力で使うさ。この世界には無いあらゆる技術で、侵略者達から身を守るんだ」


今まで状況に流されるまま生きてきた剛士。本当の意味で自立した生活を送るための第一歩を、彼はようやく踏み出したのだった。





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