勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第180話 自爆

「さっきまでと同じではないぞ!」

男達が動じに踏み込んできました。言うだけあって速さも力強さもまるで別物。完全に中身が別人と入れ替わったかのようなその強さに驚きを隠せません。

「……!」

力を抑えたままではやられる。そう瞬時に判断した私は、修行で得た力を今こそ使う時だと判断したのです。

「終わりだフレア――なに!?」

完全に首を切り裂けると確信して振り下ろした斬撃が空振り、男の一人が驚愕に目を見張ります。神聖魔法と魔力による筋力強化の合わせ技を使えば、彼等の扱う力の強化よりも強力なのでしょう。一瞬で背後に回った私を見失った男の一人に蹴りを入れて倒すと、反応が追いつかない他の男達にも次々に拳と蹴りを叩き込みました。

文字通り男達を一蹴し、勝負は完全に付きました。地面にうずくまりながら痛みに呻く男達は、悔しさを隠すこともなくヨロヨロと身を起こし、私を睨み付けてきたのです。

「まさかこんな……俺達が手も足も出ないなんて……」
「実力は噂以上ってわけか」

しかし力の差は歴然としていて、この人数差で彼等に勝利の目がないのも明白。後は逃走するぐらいしかないはずなのに、彼等からその気配は感じられませんでした。でも、彼等の目からは諦めどころか、狂気ともいえる色がうかがえました。一体どうするつもりなの? 私の戸惑いが顔に出ていたのか、彼等は馬鹿にしたように嘲笑うのです。

「これで勝ったとでも思っているんだろうが……そうはいかんぞ」
「……どういう事です? あなた達では私に勝てない。それは証明されたはずですか?」
「あまいな。勝てない相手なら、勝てないなりに戦いようはあるって事だ」
「!」

武器も何も持たない男の一人が、突然両腕を突き出しながら私に向かって突進してきたのです。当然避けようとしますが、それを防ぐかのように残りの男達も私に掴みかかってきました。

「いったい何のつもり――」

私がそんな言葉を口にしようとした正にその瞬間、私のローブの端を掴んだ男の体がはじけ飛びました。そう。文字通り『はじけ飛んだ』のです。まるで体の内側から何か巨大な力が溢れ出たように、周囲に炎と衝撃を撒き散らしながら、彼の体はバラバラにはじけ飛びました。至近距離からその威力をまともに受けたため、流石に無傷とはいきません。体を焼く痛みと、想定外な攻撃に対する驚きで一瞬動きが止まった私に、残りの男達が組み付いてきたのです。

「我々の計画には貴様が邪魔だフレア!」
「せめて道連れになってもらうぞ!」

死の文字が頭をよぎったその瞬間、男達は私もろとも爆発を起こし、周囲を粉々にしたのです。衝撃で彼等が守りを固めていた小屋も崩壊し、地面は抉れ、撒き散らされた火の余波で、周囲の建物が炎上を始めたのです。

「フレア様……フレア様!」

もうもうと上がる煙。物陰から見ていたにもかかわらず、衝撃で吹き飛ばされたカイルが痛む体を無視して慌てて駆け寄ってきたかと思うと、抉れた地面の中心地に倒れる私を助け起こしてくれたのです。

「フレア様! お気を確かに!」
「だい……じょうぶです。すぐ治しますから……」

左腕は肘の辺りから逆に折れ曲がり、足首はほぼ千切れかかっていて、右目と右耳の感覚がありません。カイルの表情から察するに、ほぼどちらも使えなくなっているか、潰れているかでしょう。体全体が痛むのも、火傷のためだと思われます。

(普通の人間なら確実に死んでいましたね……彼等が自爆を仕掛けたのが私なのは、不幸中の幸いでした)

心中でリュミエル神に祈りを捧げ、魔法で体を癒やしていきます。すると、まるで時間を逆再生したように傷が見る見る塞がっていき、僅かな時間で完全に傷が癒えた私は、カイルの手を借りながら自らの足で立ち上がったのでした。

「まさか自爆するなんて……」
「ええ。驚きました。奴等は思った以上に危険な連中のようです」

捕らえようとしただけでも自爆し、仮に捕らえても周囲の人間を道連れにして死んでしまう。そして彼等の意志の強さ。あれはどうしようもないと感じました。

「しかし、奴等の目的がいまいちわかりませんな。単に破壊活動を目的としているなら、さっさと自爆すればすむはずなのでは……?」

カイルのつぶやきに一瞬同意しそうになりましたが、私は黙って首を振りました。

「いえ、そうは思えません。彼等の目的が社会活動を完全に破壊するつもりなら、出来る限りの破壊活動を自らの手で行うのが最善でしょう。自爆はあくまでも最後の手段。だってその方が、周囲に与える被害が大きいのですから」
「なるほど……」

今回の一件で、彼等のやり方はわかりました。でも、どうすれば防げるかは見当もつきません。何か手がかりがあれば良いのにと思ったその時、彼等が根城にしていた小屋が目に入ったのです。幸いなことに、崩れはしているものの炎症は免れている様子。あれなら中で何か見つかるかも知れません。私は手がかりを得るべく、瓦礫の山に手をつけたのです。

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