勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる
第169話 シェルパの最後
「馬鹿な……どうやって見破ったのだ! 誰にも見られていなかったはずだ!」
「え……え……」
シェルパが何を言っているのか理解出来ず、今度は俺が魚のように口をパクパクさせていた。魔族と手を組んでいた? コイツが? まったくの予想外だ。ただのハッタリだったのに! 思わずチラリと左右に視線を向けると、そこには尊敬の目で俺を見つめる妹達やアネーロ達、そして国王や民衆の姿があった。
「兄さん凄いわ! いつ見破ったの!? 私達には事前に教えてくれても良いのに!」
「バンディット……。私はお前の力を侮っていたようだ。まさか魔族と繋がっている者を見抜く力を持っていたとは」
「シェルパ魔族と……いつの間に……私はそんな者の口車に乗せられていたのか……」
「凄えなバリオスの勇者って!」
狼狽えるシェルパと俺、そしてザワザワと騒ぐ周囲でその場が混沌としていた。マズい。今更当てずっぽうでしたなんて言える雰囲気じゃない。く……! こうなったら最初から見抜いていた体で押し通すしかない!
「じ、実は最初から怪しいと思ってたんだ。しかし正体を暴くには逃げ場の無い状況を作り出す必要があったから黙ってたんだぜ」
『おおおおー!』
周囲の視線が痛い。少し罪悪感が湧いてきた。悪いことはしていない……はずだ。
「そう言うわけだシェルパ! お前の悪事はお見通しだぞ! 観念しろ!」
そう言って腰の剣を突きつける。妹達や、押しとどめていた兵士達が一斉にシェルパを取り囲んだ。いくら魔族と手を結んでいようが、この包囲を簡単に抜けることなど不可能だ。正に絶体絶命。さて、どう動く?
「ぐ……糞ったれが! こうなったらこっちも遠慮はせんぞ! お前等を皆殺しにしてやる!」
シェルパの雰囲気が変わった。その体から突然黒い霧が噴きだしたかと思うと、奴の姿も変化していく。銀色の鱗はどす黒く濁り、一切の光を寄せ付けない暗黒へと染まる。それに伴って奴から感じるプレッシャーもどんどん増していった。以前戦った魔族など比較にならない力を感じる。なるほど、これが奴の本気ってわけだ。これは……思った以上に力を持ってそうだぜ。
「魔族が取り付いていたか、本物とすり替わっていたのか……ま、どっちにしても敵には変わりないか」
俺は素早くアネーロ達に近づくと、その体から自由を奪う縄を切り落とした。ハラリと落ちる戒めを呆然としながらアネーロは見る。
「……バンディット?」
「アネーロ。コイツの始末はお前さんに譲るぜ。まさかこの期に及んで処刑されるのを待つとか言わないよな?」
俺の言葉を聞いたアネーロは、その視線を静かに国王へと向ける。
「……アネーロよ。どうやら私が間違っていたようだ。虫が良いのは百も承知だが、力を貸して貰えないか?」
「……陛下のお望みのままに」
一礼して立ち上がったアネーロは手近な兵士から槍を受け取ると、シェルパの前に躍り出て武器を構えた。当然、アネーロの仲間も奴を補助するようにシェルパを取り囲む。それに合わせて俺達は少し身を引いた。正面をアネーロ達に譲った形だ。
「兄さん、良いの?」
「シェルパ……っていうかあの魔族、結構やるみたいだけど」
「大丈夫だ。あの程度に負けるアネーロ達じゃない」
以前の俺達ならいざ知らず、魔境で散々修行を重ねてきた俺達なら、あの程度の相手に負けるわけがない。万が一には備えておくが、任せて大丈夫なはずだ。
やがで変化を終えたのか、シェルパから噴き出ていた黒い霧――瘴気は収まった。そして姿を現したのは黒い鱗を纏ったリザードマンだ。もともと人相の悪かったシェルパの顔は憎しみに歪み、魔物と区別のつかない有様になっている。そして力が増大したためなのか、その体も一回り大きくなっていた。奴は赤い目をギロリと光らせると、口の端を歪めて邪悪な笑みを浮かべた。
「アネーロ……。お前は……お前だけは俺がこの手で殺してやるぞ!」
「……もはや問答の必要も無い。後は槍で語るのみ」
「上等だ! 死ね!」
叫んだシェルパが猛烈な勢いでアネーロに突きかかった。地面が抉れるほどの踏み込みは凄まじく、常人では視認すらできないスピードのはずだ。だが――
「むん!」
「なにぃ!?」
一撃で仕留めるつもりだったであろうシェルパの突きは、アネーロに難なく受け止められた。奴の突き出した槍の穂先はアネーロの持つ槍に絡め取られ、頭上へと跳ね上げられる。
「な!?」
「速度も力もあるが、技が追いついていないな」
必殺の突きをあっさりと躱したアネーロは、反撃とばかりにシェルパへ突きかかる。二度、三度。シェルパは必死の形相でそれを捌こうとするが、技量の差は誰の目にも明らかだ。
「く、くそ! なぜこんな一方的に!」
魔族の力を借り、身体能力の向上で勝利を確信していただろうシェルパは焦りを隠せない。俺の見たところ、奴とアネーロの身体能力にそれほど大きな差は無い。しかし決定的に違うのは、自分の技術に対する信頼と自信だ。長い時をかけ、死に物狂いで研鑽してきた己の技と、借り物の力を誇った男の差だろう。
やがてアネーロの攻撃は確実にシェルパを捕らえ始めた。槍が肩を掠めて肉を抉られ、足を掠めて機動力を奪っていった。決着の時は近い。それを一番理解しているのはシェルパ自身だろう。
「なぜだ! なぜ俺がお前ごときに……!」
「努力を怠った結果だシェルパ。腐らず真面目に鍛錬を続けていれば、お前でも強くなれたかも知れないだろうに……」
そう言うアネーロの瞳には僅かな哀しみがあった。アネーロとシェルパの間にどんな経緯があったのかはわからないが、同じ国で過ごした仲だ。きっと余人には計り知れない事情もあったんだろう。
「何だその目は! お、俺を哀れむつもりか! お前ごときがこの俺を!」
「…………」
アネーロの槍がシェルパの腕を貫いた。槍を取り落としたシェルパは慌てて拾おうとするが、その眼前にアネーロの穂先が突きつけられる。
「ここまでだ。観念せよシェルパ。せめて最後ぐらいは潔さをみせてくれ」
シェルパは憎しみの籠もった目でアネーロを睨み付ける。殺意だけで人が殺せそうなその視線を受けても、アネーロは微動だにしない。噛みしめられた口からギリッと歯を軋ませ、シェルパは深くため息を吐いた。
「……わかった。お前の言うとおり、潔く罪を償おう――とでも言うと思ったか!」
「!」
一瞬観念したかのように思えたシェルパはアネーロの槍を払いのけると、国王へ向けて突進する。隙を突かれた兵士達は対処しようと動き始めたが――遅い! 奴の速さは彼等の対処出来るスピードじゃない。
「国王! せめてお前の首だけでももらっておく――ぞ!?」
国王を道連れにしようとした奴の突進は止められた。アネーロが背後から投擲した槍によって地面へと縫い付けられる形で。
「が……は! くそ……こんなところで……! この俺が……!」
口から大量の血を吐き出し、シェルパは槍から抜け出そうと弱々しくもがく。しかしその力は徐々に弱まっていき、やがて完全に動きを止めたのだった。
「え……え……」
シェルパが何を言っているのか理解出来ず、今度は俺が魚のように口をパクパクさせていた。魔族と手を組んでいた? コイツが? まったくの予想外だ。ただのハッタリだったのに! 思わずチラリと左右に視線を向けると、そこには尊敬の目で俺を見つめる妹達やアネーロ達、そして国王や民衆の姿があった。
「兄さん凄いわ! いつ見破ったの!? 私達には事前に教えてくれても良いのに!」
「バンディット……。私はお前の力を侮っていたようだ。まさか魔族と繋がっている者を見抜く力を持っていたとは」
「シェルパ魔族と……いつの間に……私はそんな者の口車に乗せられていたのか……」
「凄えなバリオスの勇者って!」
狼狽えるシェルパと俺、そしてザワザワと騒ぐ周囲でその場が混沌としていた。マズい。今更当てずっぽうでしたなんて言える雰囲気じゃない。く……! こうなったら最初から見抜いていた体で押し通すしかない!
「じ、実は最初から怪しいと思ってたんだ。しかし正体を暴くには逃げ場の無い状況を作り出す必要があったから黙ってたんだぜ」
『おおおおー!』
周囲の視線が痛い。少し罪悪感が湧いてきた。悪いことはしていない……はずだ。
「そう言うわけだシェルパ! お前の悪事はお見通しだぞ! 観念しろ!」
そう言って腰の剣を突きつける。妹達や、押しとどめていた兵士達が一斉にシェルパを取り囲んだ。いくら魔族と手を結んでいようが、この包囲を簡単に抜けることなど不可能だ。正に絶体絶命。さて、どう動く?
「ぐ……糞ったれが! こうなったらこっちも遠慮はせんぞ! お前等を皆殺しにしてやる!」
シェルパの雰囲気が変わった。その体から突然黒い霧が噴きだしたかと思うと、奴の姿も変化していく。銀色の鱗はどす黒く濁り、一切の光を寄せ付けない暗黒へと染まる。それに伴って奴から感じるプレッシャーもどんどん増していった。以前戦った魔族など比較にならない力を感じる。なるほど、これが奴の本気ってわけだ。これは……思った以上に力を持ってそうだぜ。
「魔族が取り付いていたか、本物とすり替わっていたのか……ま、どっちにしても敵には変わりないか」
俺は素早くアネーロ達に近づくと、その体から自由を奪う縄を切り落とした。ハラリと落ちる戒めを呆然としながらアネーロは見る。
「……バンディット?」
「アネーロ。コイツの始末はお前さんに譲るぜ。まさかこの期に及んで処刑されるのを待つとか言わないよな?」
俺の言葉を聞いたアネーロは、その視線を静かに国王へと向ける。
「……アネーロよ。どうやら私が間違っていたようだ。虫が良いのは百も承知だが、力を貸して貰えないか?」
「……陛下のお望みのままに」
一礼して立ち上がったアネーロは手近な兵士から槍を受け取ると、シェルパの前に躍り出て武器を構えた。当然、アネーロの仲間も奴を補助するようにシェルパを取り囲む。それに合わせて俺達は少し身を引いた。正面をアネーロ達に譲った形だ。
「兄さん、良いの?」
「シェルパ……っていうかあの魔族、結構やるみたいだけど」
「大丈夫だ。あの程度に負けるアネーロ達じゃない」
以前の俺達ならいざ知らず、魔境で散々修行を重ねてきた俺達なら、あの程度の相手に負けるわけがない。万が一には備えておくが、任せて大丈夫なはずだ。
やがで変化を終えたのか、シェルパから噴き出ていた黒い霧――瘴気は収まった。そして姿を現したのは黒い鱗を纏ったリザードマンだ。もともと人相の悪かったシェルパの顔は憎しみに歪み、魔物と区別のつかない有様になっている。そして力が増大したためなのか、その体も一回り大きくなっていた。奴は赤い目をギロリと光らせると、口の端を歪めて邪悪な笑みを浮かべた。
「アネーロ……。お前は……お前だけは俺がこの手で殺してやるぞ!」
「……もはや問答の必要も無い。後は槍で語るのみ」
「上等だ! 死ね!」
叫んだシェルパが猛烈な勢いでアネーロに突きかかった。地面が抉れるほどの踏み込みは凄まじく、常人では視認すらできないスピードのはずだ。だが――
「むん!」
「なにぃ!?」
一撃で仕留めるつもりだったであろうシェルパの突きは、アネーロに難なく受け止められた。奴の突き出した槍の穂先はアネーロの持つ槍に絡め取られ、頭上へと跳ね上げられる。
「な!?」
「速度も力もあるが、技が追いついていないな」
必殺の突きをあっさりと躱したアネーロは、反撃とばかりにシェルパへ突きかかる。二度、三度。シェルパは必死の形相でそれを捌こうとするが、技量の差は誰の目にも明らかだ。
「く、くそ! なぜこんな一方的に!」
魔族の力を借り、身体能力の向上で勝利を確信していただろうシェルパは焦りを隠せない。俺の見たところ、奴とアネーロの身体能力にそれほど大きな差は無い。しかし決定的に違うのは、自分の技術に対する信頼と自信だ。長い時をかけ、死に物狂いで研鑽してきた己の技と、借り物の力を誇った男の差だろう。
やがてアネーロの攻撃は確実にシェルパを捕らえ始めた。槍が肩を掠めて肉を抉られ、足を掠めて機動力を奪っていった。決着の時は近い。それを一番理解しているのはシェルパ自身だろう。
「なぜだ! なぜ俺がお前ごときに……!」
「努力を怠った結果だシェルパ。腐らず真面目に鍛錬を続けていれば、お前でも強くなれたかも知れないだろうに……」
そう言うアネーロの瞳には僅かな哀しみがあった。アネーロとシェルパの間にどんな経緯があったのかはわからないが、同じ国で過ごした仲だ。きっと余人には計り知れない事情もあったんだろう。
「何だその目は! お、俺を哀れむつもりか! お前ごときがこの俺を!」
「…………」
アネーロの槍がシェルパの腕を貫いた。槍を取り落としたシェルパは慌てて拾おうとするが、その眼前にアネーロの穂先が突きつけられる。
「ここまでだ。観念せよシェルパ。せめて最後ぐらいは潔さをみせてくれ」
シェルパは憎しみの籠もった目でアネーロを睨み付ける。殺意だけで人が殺せそうなその視線を受けても、アネーロは微動だにしない。噛みしめられた口からギリッと歯を軋ませ、シェルパは深くため息を吐いた。
「……わかった。お前の言うとおり、潔く罪を償おう――とでも言うと思ったか!」
「!」
一瞬観念したかのように思えたシェルパはアネーロの槍を払いのけると、国王へ向けて突進する。隙を突かれた兵士達は対処しようと動き始めたが――遅い! 奴の速さは彼等の対処出来るスピードじゃない。
「国王! せめてお前の首だけでももらっておく――ぞ!?」
国王を道連れにしようとした奴の突進は止められた。アネーロが背後から投擲した槍によって地面へと縫い付けられる形で。
「が……は! くそ……こんなところで……! この俺が……!」
口から大量の血を吐き出し、シェルパは槍から抜け出そうと弱々しくもがく。しかしその力は徐々に弱まっていき、やがて完全に動きを止めたのだった。
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