勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第120話 王都へ

――シエル視点

私とカリンは囮役になって、出来るだけ人目を引きながら――つまり行く先々で暴れながら王都を目指していた。最初はスーフォアの街から一番近い街まで移動し、そこでスティード派らしき輩を問答無用で叩きのめした。当然追ってはかかるけど、飛行魔法で移動しているから追いつかれることは無い。魔道具を使った通信なんて貴族しか使えないし、私達みたいなただの指名手配犯を捕まえるために魔道具を使う事なんて無いだろうから、囮と言っても結構余裕があった。

「かなり注意を引きつけたんじゃない?」
「そうね。あれだけ派手に暴れたら、奴等の面子にかけて必死に捕らえようとするはずよ」

立ち寄った街にある宿の一室で寝転がりながら、装備を外してすっかり身軽になったカリンが満足げにそう言った。それに返事をしつつ、自分も同じように旅装を解きながら、王都までの距離を思い起こした。

通常王都まで陸路で移動するとなった場合、片道だと歩きで二週間。馬車ならその半分。馬だけなら四、五日ってところかしら。私達は街を出てから三日で半分の位置まで来ているから、手配が回るのはまだまだ先のはず。だから敵も目的の人物が見つけられずに、かなり混乱しているに違いないわ。

「でも、これからどうするシエル? ただ暴れながら王都に行くだけじゃ、行方不明になったマグナ王子は見つけられないでしょ?」
「そりゃあ、そうだろうけど……。全然良い考えが浮かばないのよね」

ラピスちゃんには出来ればって形で頼まれたけど、少なからず期待はされてるはず。私達だって彼女達の役に立ちたいし、ただ派手に暴れるだけじゃ盗賊と大差が無いものね。ここは何とかしてマグナ王子の安否を確認したいんだけど、その方法が思いつかないでいた。
そもそも王都だけでなく、今や国中の兵士や騎士が彼の消息を追っているだろうに、ただの素人である私達が見つけられる方法があるんだろうか? 上手く行かない未来しか予想出来なくて、なんとなく憂鬱になってくる。

でも、こんな時に頼りになるのが相棒のカリンだ。彼女は頭でっかちで思考の溝に陥りやすい私と違って、柔軟で突飛な発想が出てくる。

「じゃあ、普通じゃない方法を採ればいいんじゃない? ラピスちゃんもそんな事言ってたし」
「そう言われれば……」

確かに。出発する時自分達は正攻法で調べるから、私達には非合法な方法で探って欲しいとか言ってたっけ。ゴタゴタしすぎてすっかり忘れてた。自分の迂闊さに頭を掻きながら、次の手をどうするか考えてみる。非合法か……。一言で言っても色々あるしな。どんな方法が良いだろう?

「カリンは何か思いつく?」
「うーん……。こっそりどこかに忍び込むとか? 考えるのはあんまり得意じゃないし、他に思いつかないや」

カリンは考える事を早々に放棄しているのか、私に丸投げしてきた。一応頭脳労働担当を自負しているし、ここは期待に応えなければ。

「何か情報が得られそうな施設を見つけたなら忍び込むのは当然よね。それ以外となると……あっ」
「なに? 何か思いついた?」

期待を込めて見つめてくるカリン。彼女に対するものなのか、それとも自分の頭に浮かんだ碌でもない考えに対するものなのか、私の口元には苦笑が浮かんでいた。

「例えば……こんなのはどう?」

私が思いついた方法――それは悪人を利用することだった。今、必死で捜索されているマグナ王子が見つからないのは、彼が上手く潜伏していると言うのも理由だろうけど、私は別に理由があると思う。つまり、探す方法が上手くないのだ。街を見張って怪しい人物を捕らえ、どうにかして情報を得ようとする。それ自体は数と組織力を生かしているし、悪くない方法だと思う。しかし、それが通用するのは普通の犯罪者相手の場合のみ。どこかの領地に匿われていたり、完全に別人になりすましている場合、それは通用しないと思った。

だから、私が考えたのは悪人の利用。蛇の道は蛇と言うか、盗賊などの闇に潜む人間達は独自のネットワークを築いているはず。ひょっとしたら国が掴んでいないような情報ですら、彼等なら既に入手している可能性もある。確証はないけど……。

ラピスちゃんと話した、スティード派の貴族の口を割らせると言う方法よりいくらか穏便だと思う。あれは最後の手段としてとっておこう。

「山中に潜んでいる盗賊は論外として、牢屋に囚われていたり、街中に潜んでいる盗賊の一味に接触出来ないかな? 王都ぐらい大きな街なら、結構居ると思うんだよね。力尽くでも金を渡すでも良いけど、彼等の力を得られたらマグナ王子も見つかるかも知れない」
「それは……なんて言うか、凄いこと考えたね」

カリンは驚いて目を丸くしている。でもすぐに頭を捻った。

「どうやって接触するの?」
「そこはまぁ……適当な奴を見つけて力尽くで喋らせるか、牢屋から逃がすのを条件に喋らせるか……」
「…………」

あのカリンに絶句されてしまった。仕方ないじゃない! 他に良い方法が見つからなかったんだから!

「と……とりあえずとの方針でいこうよ。せっかくシエルが考えた作戦だし。きっと何とかなるって!」
「だと良いんだけどね……」
「じゃあ、今日はもう休もう! まだ先は長いんだから」

考えをスッパリ切り替えられるのはカリンの美点だ。彼女に倣って私もベッドに潜り込む。こんな作戦とも言えないような作戦、なるようにしかならないんだから考えるだけ無駄だ。そう思って目を閉じた。

§ § §

翌日。朝早く宿を後にした私達は、飛行魔法で次の街へと向かった。街に入ると通りを歩き、露店などで情報収集だ。と言ってもマグナ王子の事ではなく、スティード派が乱暴狼藉を働いていないかの聞き込みだった。誰それが被害に遭ったとか、どこを根城にしているだとか、そんな話を仕入れるとすぐ二人で押しかけて、二度と足腰立たないぐらいに痛めつける。そしてすぐに街を脱出。これを何度か繰り返しながら、私達は王都に辿り着いていた。

「流石に警戒厳重だね」
「街に入るだけでもどれだけ時間がかかるかしら……」

王都の入り口に当たる正門前には長蛇の列が出来ていた。並んでいる人相手に商売している露店もあるし、泊まりで並んでいるらしい人達が作った簡易の天幕まである。と言っても並んでいるのは大体が余所の街の人間ばかりで、王都の十人や商人は別の列で簡単に出入り出来ているみたいだった。

それでも流通を止めればそれだけ経済状況は悪くなってしまうし、スティード派が何を考えているのか私にはわからなかった。

「どうする? 並ぶ?」

カリンの問いかけに私は黙って首を振る。こんな行列に並んだところで、街に入れるのはいつになるかわからない。待っている間に手配がここまで回ってしまう可能性が高いし、入る時に変装を見破られるかもしれない。だったら答えは一つしか無い。

「夜中に魔法で中に入り込みましょう。これだけ大きな街だから、全体を監視するなんて不可能よ。どこか必ず穴があるはずよ」
「じゃあ一旦どこかに隠れようか。空から入るにしても見られたらマズいし」

結局、私達はせっかく辿り着いた王都から少し離れた距離に移動して、そこから飛行魔法で潜り込むことにした。

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