勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第83話 精霊の鎧

――ディエーリア視点

ルビアスと二手に分かれた私は魔族が潜む部屋に急いでいた。夜と言う事もあって、城に勤める多くの人は帰っているか自分の部屋に戻っている時間だけど、流石にすれ違う人がまったく居ないわけじゃない。そんな時は素早く駆け寄って昏倒させるか、隠れてやり過ごすかの二択だった。

「勘弁してよね。私はルビアスみたいに接近戦が得意じゃ無いんだから……」

私の戦い方は弓や精霊魔法を主体とした、れっきとした後衛なのだから、こんな時は本当に不利だ。本音を言うならルビアスと一緒に行動したかったけど、状況がそれを許してくれなかった。ブツブツと勝手に口から出る文句を止める気は無い。喋ってないと心細くてしょうがない。でも幸いというか、私の目的としている部屋はルビアスと違って王の部屋から遠いので、かなり人通りは少なくなっている。この調子なら問題なく到着出来ると思ったその時、私の正面から物凄い早さでこっちに向かってくる人影が見えた。

「騎士?」

そう口にはしたものの、直感でそれが間違いだと解る。なぜなら、その人影が近づくにつれて、隠しようも無い魔の雰囲気が漂ってきたからだ。

「うそ! 向こうから来たの!?」

正面から向かって来ているのは間違いなく魔族。今や月明かりでもハッキリ見えるその姿は、ところどころ人間と異なるシルエットに変化していた。神聖魔法の影響で姿を変化させる余裕が無くなった証拠だ。私は慌てて背中から弓を引っ張り出し、素早く矢をつがえて放った。放たれた矢は鋭く空気を裂きながら魔族の体に突き刺さるかに見えたけど、その直前、剣の一振りで簡単に切り払われてしまった。

弓矢は一度放つと次を撃つまでどうしても時間がかかる。達人になればなるほどその時間は短縮出来るけど、まったくゼロにするのはどんな達人にだって不可能だ。私は少し焦りながら次を構えて素早く第二射を放った。しかしそれも難なく切り払われた挙げ句、魔族はスピードを上げてこちらに斬りかかってくる。

「くっ!」

振り下ろされた剣の一撃を後方に跳びながら躱す。弓を投げつけて気を逸らしながら腰の短剣を引き抜き魔族と対峙した。投げつけられた弓を切り払おうとした魔族だったけど、弓は剣と激突して廊下に転がっていく。あれは安物と違ってボルドールの王様から支給された一品だから、そう簡単に壊れたりしない。おかげで一瞬時間を稼ぐ事に成功した私は、怯んだ魔族にこちらから斬りかかった。

「この! 弓使いが接近戦とは舐めた真似を!」
「うるさい! こっちだってやりたくてやってんじゃないんだから!」

交差する剣の応酬。弓と精霊魔法の訓練を重点的にやって来た私じゃやられるかと思ったけど、どうやら魔族と私の剣の腕は互角みたいだ。人気の無い廊下に剣と剣のぶつかる激しい音だけが響き渡る。ひょっとしたら、騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた兵士達と挟み撃ちに出来るかなとも思ってたのに、人っ子一人見かけない。たぶんルビアスや外の騒ぎに対応するために、こっちまで人を裂けないでいるんだ。でも、このまま膠着状態で困るのは私じゃ無く魔族。私は最悪時間を稼ぐだけで援軍が見込めるけど、魔族の方はこの場から逃げないと確実に命が無いからだ。それは目の前の魔族も解っているんだろう。剣を切り結びながら素早く詠唱し、一つの魔法を放ってきた。

「炎の矢!」
「うわっと!?」

近距離から放たれたソレを何とか身を捻って躱す。しかし無理な体勢になったせいか、今度は剣の攻撃を避けづらくなってしまった。切っ先が目の前まで迫り本能的な恐怖が体を硬くする。積み重ねた鍛錬のおかげで何とかその攻撃をバックステップで躱し、私はお返しとばかりに、すくい上げるような一撃を魔族に叩きつけた。

「ちいっ!」

舌打ちしながら距離を取る魔族。その口は再び魔法を使うためななのか、既に詠唱を始めていた。このままじゃ不味い! 今のは何とか凌げても、二度三度と繰り返されて避けられる自信が全くない。どうしようか焦ったその時、私の頭に誰かの声が囁いてきた。

(苦戦しているようだな、ディエーリアよ)
(ソル!?)

以前の戦いで私と契約した土の最上位精霊、四大精霊の一角を占めるベヒモス。その名はソル。呼び出す事にも苦労する最強の精霊だ。この忙しい時に一体何!? と、契約者である私から八つ当たり気味の感情が伝わったのか、ソルの思念から苦笑したような笑いが漏れる。

(なに、少しばかり手伝ってやろうと思ってな)
(手伝うって、今の私じゃアンタを呼び出せないって知ってるでしょ!?)

ソルを呼び出そうとした事は一度や二度じゃ無い。訓練で魔力の最大値を必死に上げてはいるものの、ここまで強力な精霊を使役するにはまだまだ力不足みたいで、一瞬呼び出しただけでフラフラになる有様だった。おまけにそんな短い時間じゃ大した効果も得られないし、戦闘ではもちろん、日常のちょっとした作業にも使えない、宝の持ち腐れ状態が続いていた。そんな使えない精霊であるソルからの呼びかけ。正直言って、この場面でソルに出来る事なんて何も無いと思った。

(まあそう言うな。何も私本体を呼び出せとは言っていない。私の力の一部だけを、お主に貸そうというのだ。そうする事によって簡単にこの局面を打開出来るようになるぞ)

どんなリスクがあるのか説明せずに利益だけを提示するのは詐欺師の手段だ。胡散臭い事この上ないけど、贅沢を言っていられる場合じゃ無い。既に詠唱を終えた魔族が再び魔法を放とうとしていたのだから。

(ああもう! 何だか解らないけど、手助けしてくれるって言うなら早くして!)
(良かろう。ならば私の力の一部を与え、憑依させると良い!)

瞬間――私の心臓が大きく鼓動した。全身がザワリと総毛立ち、今まで感じた事も無い精霊力が体の隅々まで行き渡る。普段感じている風や水と言った精霊達の存在が一気に希薄になり、その代わり濃厚と言うのも生やさしいような土の精霊の気配が強まった。同時に、体が土の鎧で覆われていく。まるで騎士が纏うような重厚さと、神官服のような清廉な雰囲気を併せ持った鎧は、下位の土精霊が密集して出来たものだった。

「なに!?」

突然起きた私の変化に、魔族は驚愕の声を上げる。一瞬戸惑った魔族だったけど、そのまま魔力を込めた炎の矢を放ってきた。それは狙い違わず私の体に直撃し――何も無かったように霧散してしまった。

「な、何だと!? 魔法が直撃して無傷だと!?」

仮にも魔族が放った魔法だ。一般的な冒険者が扱うものよりよほど威力があったはず。なのに結果はご覧の通り。精霊で出来た鎧に阻まれ、私に傷を負わせるどころか、熱を伝える事すら出来ないで消滅してしまった。

(これは……)
(それこそ、一部の精霊使いのみが使える精霊の鎧だ。生半可な攻撃は物理と魔法関係無く遮断し、身体能力の底上げもしてくれる優れた一品だ。もっとも、その分魔力は大量に消費するがな)

言われたとおり、こうやってソルと会話している瞬間にも、体に蓄えられた魔力がどんどん減っている自覚がある。凄い力を手に入れたと喜ぶ暇も無いみたいだ。私は慌てて剣を構え直し、魔族に向き直った。

「悪いけど、さっさと勝負をつけさせてもらうわ!」
「調子に乗るな! 返り討ちにしてやる!」

魔法が通用しないと判断した魔族は、一気に踏み込んでくると渾身の力を込め、大上段から私の頭を二つに割るべく剣を振り下ろしてきた。身体能力が向上しているせいなのか、さっきと比べてその攻撃が物凄くゆっくりに見える。私はそれを避けようともせず、左腕で力任せに弾き飛ばした。

「!」

必殺の一撃を難なく払われて呆然とする魔族。そんな隙を見逃さず、私は右手に持った剣を横に一閃させた。

「ば……かな……!」

私の一撃は魔族の左腕を断ちきり、そのまま奴の胴を横薙ぎにして二つに分ける。信じられない現実に驚愕しながら、魔族はその場で絶命した。

「あ、危なかった……て、え……?」

安心したのも束の間、私は膝から力が抜けて思わず廊下に突っ伏していた。纏っていた精霊の鎧は一瞬で消え失せ、全身に力が入らない。

「な……何これ……?」

自分に何が起きたのか解らず混乱する私に、ソルの暢気な思念が届いた。

(強力な力を使えば反動がある。どうやら今のお主では、僅かな時間しかその鎧を使えないようだな)

そんな話聞いてない! 思わず怒鳴りたくなったけど、私にはその体力すら残っていないみたいだった。急速に眠くなる意識を維持するのも厳しくなり、目の前はどんどん暗くなっていく。

(まあ、敵は排除したようだし、今は休むと良い。後はお主の仲間が上手くやってくれるだろうよ)
(気軽に言ってくれて……でも、今はもう無理かな……)

とりあえず、私は私の仕事をやり遂げた。ソルの言うとおり、ラピスちゃん達なら必ず魔族を何とかしてくれるはずだ。私は無責任にもそう思い、とりあえず眠気に従って休む事にした。

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