勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第46話 ゴールドランクへの道

マリアさんを雇ったことを知らせたらカリン達は驚いた様子だったけど、彼女の事情を話すと好意的に受け入れてくれた。自分達も駆け出しだった冒険者時代には、その日の食べ物にも困っていたようだから、食べられない、お金のない辛さをよくわかっているんだろう。中でもルビアスは特に強い反応を示し、自分の不甲斐なさを嘆いていた。


「本来なら、これは国の仕事なのです。国こそが彼女達のような弱者を救済しないといけない。王家の人間として民草を飢えさせている現状は恥ずべき事なのですが、今の私には何の力も無い。これは、この街の領主であるグロム伯爵だけの責任では無いのです」
「そうは言ってもルビアス。君は直接国の舵取りをする立場に無いだろう?」
「それでもです。自分に権限が無いからと言って、責任がないことにはなりません。王族である、貴族であるだけでも、そこには責任が発生するのです。なぜなら、私達は民から徴収した税で暮らしているのですから」


立派な志だと思う。贅沢するのが当たり前。平民は自分に傅くのが当たり前と思っている貴族連中に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいだ。この街の領主であるグロム様も頑張っているんだろうけど、それでも全ての人間がまともな暮らしをしていける程世の中は甘く無い。何処かで誰かが儲ければ、その分損をする人間は必ず出てくる。これはしょうがないことだ。


契約した次の日からマリアさんは働きに来てくれた。いつでも出入りできるように予備の鍵を一つ渡し、彼女には好きなようにしてもらうつもりでいる。当分の買い出し費用として金貨を何枚か渡したら驚いていたようだけど、決してネコババするような悪い人じゃ無いと確信している。


人口密度が増えたことで、俺の家には新しいテーブルが運び込まれていた。俺達パーティーに加えて、マリアさんとリーナ、計七人が囲める丸テーブルだ。今俺達はそのテーブルを囲んで、マリアさんが料理を持ってくるのを今か今かと心待ちにしていた。


朝はバタバタしているから無理だけど、夜ご飯だけはマリアさん一家も一緒に取る事にしていた。俺の家から自宅へ戻って、それから食事の用意をしているとリーナが腹を空かせたまま待つことになるからだ。なのでマリアさんの手間を省き、二人の健康状態を回復させるためにも、晩ご飯だけは一緒に食べるのを相談して決めていた。


「お口に合えば良いんですけど……」


謙遜しつつテーブルに差し出された大皿には、見事な盛り付けをされて良い匂いを漂わせている鶏のもも肉がいくつも並んでいた。もも肉に脇を飾るのは色彩豊かな野菜で、コップに注がれた液体は果物の果汁が少し入った喉越しの良さそうな水だ。金の麦亭ならともかく、自宅じゃ粗食が基本の冒険者にとって、それは立派なご馳走に見えた。


「わあ! 美味しそう!」
「本当。リオの店にも負けてないわね」
「良い匂い……これは香草を使っているの?」
「はい。肉の臭みを消すために香草を使ってます」
「ご馳走だ~!」


カリン達はもちろん、育ち盛りのリーナが待ちきれない様子だったので、挨拶もそこそこに俺達は早速料理に手を伸ばしていく。切り分けられた肉から肉汁が溢れ、視覚でも嗅覚でも楽しませてくれる。熱々の肉を口に放り込むと、期待以上の味が楽しめた。


「美味しい!」
「凄い……マリアさんは本当に素人なの?」
「だよね。これ、商売としてもやっていける味だわ」
「見事なものだ。誰に師事する事も無く、これほどの料理を作り上げるとは」
「そんな……みなさん褒めすぎですよ」


口々に褒め称えると、マリアさんは顔を真っ赤にして照れていた。これまで働きに出ることはあっても、人に料理を振る舞う機会が無かっただろうし、これだけ手放しで褒められたのは初めての経験に違いない。そんな母親を誇らしく思っているのかと思ってリーナに視線を向けてみると、彼女は喋るのも忘れて、夢中になって食べていた。無理も無い。このぐらいの子供が今まで粗食で耐えていたんだから。これからは毎日腹一杯になるまで食べさせてやりたい。


そんな騒がしくも和気藹々とした食事が済むと、マリアさんは後片付けをしてから家に帰っていった。


「お姉ちゃん達、ばいばーい! また明日ねー!」
「気をつけて帰ってね」


上機嫌で元気よく手を振るリーナに手を振り替えし、ペコリと頭を下げるマリアさんを見送る。郊外とは言え治安の良い地区だし、彼女達が絡まれることはまず無いはずだ。それに、マリアさんの見た目はおっとりしているようだけど、あれで結構危険には敏感みたいだし。その点は長年の貧民街暮らしで鍛えられているはずだから大丈夫だと思う。


翌日、俺達は元気よくそれぞれの仕事に向かっていった。やはり美味しい食事はそれだけで人を元気にしてくれる。マリアさんが家のことをやってくれるなら、俺達は今まで以上に頑張れるはずだ。


「おはようございまーす!」
「おはよう。ラピスちゃん、今日はご機嫌だね」
「何か良いことでもあったの?」
「ええ、まあ。色々と」


俺より早く来ていたカミーユさんとミランダさんに、昨日仕事を押し付けて帰ったことを詫びつつ事情を話したら、二人とも自分のことのように喜んでくれた。


「良いことしたね。ラピスちゃんは一つの家族を救ったんだよ!」
「そうね。なかなか出来る事じゃ無いわ」
「褒めすぎですよ。人助けもありますけど、家のことを任せたいって気持ちが大きかったんですから」
「照れなくても良いって!」


笑いながらカミーユさんに背中を叩かれたけど、俺は苦笑しか出来ない。本当に人助けだけを目的にしてたわけじゃないのにね。


§ § §


――カリン視点


ラピスちゃんがマリアさん一家を助けた経緯は驚いたけど、彼女なら絶対そうするだろうなと思える行動だったから、私達は全面的に賛成だった。マリアさん達程じゃないけど、私の生まれた村も結構貧しかったから、何となくどんな生活を送っているのかは想像出来る。その手助けをしつつ、ちゃっかり自分が楽になる方法を選んでいるのは、流石ラピスちゃんだと思った。そのおかげで私達は美味しいご飯を食べられるし、毎日洗濯された綺麗なシーツで眠れるのだから、お互いにとって最高の選択だったよね。


「カリン、何か良さそうな依頼はある?」
「うーん……そうだなぁ」
「あんまり遠くの依頼は嫌だよ。マリアさんのご飯が食べられなくなっちゃうし」


冒険者ギルドで掲示板を見ている私の横には、シエルとディエーリアの二人が同じように掲示板を睨み付けていた。ちなみにラピスちゃんはカウンターで忙しく働いている。


「次は討伐依頼が良いんだよね。そろそろランクも上がりそうだし」


私とシエルは成り行きで勇者パーティーの一員となってしまっているけど、冒険者としてのランクは相変わらずシルバーのままだった。実力的にはゴールドを越えていると思うけど、修行ばかりであまり依頼をこなしていなかったから、ランクがなかなか上がらずにいたためだ。


冒険者ランクが上がると、それだけで生活が一変する場合が多いみたいだ。冒険者ギルドと提携している店や宿ではランクによって割引されることもあるし、ランクが高いと言うだけで高額な依頼を受けることも出来る。何より社会的信用度が上昇するので、勇者パーティーの一員として箔をつけるのに必要なことだった。ルビアスはギルドに登録していないのでランクは関係無いけど、おまけの私達三人にとってランクアップは重要なイベントだ。


「二人のおこぼれでランクアップ出来るんだから、私もついてるよね~」
「運が良かったわね。勇者の称号のおかげかしら」


ゼルビスの勇者であるディエーリアは、特例としてギルドに登録した時からシルバーランクになっている。仮にも勇者なんだからブロンズから始めるほど弱くもないし、ゴールド以上だと他の冒険者の反発を招きそうだったから、シルバーランクを付与することで落ち着いたみたいだ。一人だけブロンズ扱いも可哀想だし、別に良いよね。


そんなわけで、私達は次の依頼次第でランクアップする事になっている。基本的に討伐依頼は評価されやすいので、選ぶなら討伐依頼がベストかな。


「あ、これなんかどう?」
「どれどれ?」
「見せて見せて」


一枚の依頼書を仲良く覗き込むと、そこには討伐依頼の内容が細かく書かれていた。


「ファイアリザードの討伐。数は不明。家畜や農作物の被害あり。村人多数が目撃しているので、複数生息しているのは間違いない。該当地域は魔境近くのノウド村。依頼主は村長。成功報酬は金貨十枚。詳しい情報は依頼主から直接聞くこと」
「ファイアリザードか……」
「なかなか厄介な敵だね」


ファイアリザード――それは大型のトカゲの事だ。鋭い牙と爪、そして厚い鱗に覆われているから、生半可な攻撃では傷もつかない。牙と爪には毒をもっているし、駆け出しの冒険者ではまず勝てない。最低でもアイアンランク以上じゃ無いと、戦ったところで死ぬだけだと思う。それに一番厄介なのは、その名にあるとおり火を吐くこと。奴等は体に油をため込む器官があって、油を吐き出す時に牙で着火させて、射程十メートルぐらいのブレスを吐く。結構な強敵だ。


「数が複数って言うのが気になるけど……」
「でも、報酬は魅力的よね」
「うんうん。必要経費に金貨一枚使ったとしても、一人当たり金貨三枚だからね。やってみても良いんじゃない?」


シエルとディエーリアは乗り気だ。なら、特に反対する必要は無いよね。


「じゃあ受けようか。魔境の近くだから当分マリアさんの料理はお預けになるけど、そこは我慢するしか無いよね」
「うう……仕方ないか」
「帰ってからの楽しみに取っておきましょう」


いくら強いと言っても、シルバーランクでギリギリ何とかなる依頼。私達三人なら何とでもなるはずだよね。少し不安はあったけど、私は依頼書をラピスちゃんが頑張るカウンターへと持って行った。

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